第20話 望みの果て 感想・始まる直接対決

 MS戦が多い回でしたが、各機体がヌルヌル動いてすごい作画クオリティでしたね。さすが3か月間を開けた2クール制にしているだけのことはあります。個人的に今までのガンダムシリーズで一番作画がよかったのは00だと思っているのですが、水星の魔女はそれを上回ったかもしれません。そもそも00は15年以上前の作品ですからね。今でも最新作と戦えるレベルのクオリティだったこと自体が驚愕ですが(00を知らない人とカラオケに行き、アニメ映像verの曲を入れると画が綺麗だと真っ先に言われるので)。

 主人公サイドの動きがあまりない回でしたが、ここまで溜まっていたものが次回一気に爆発してくれることを期待しています。では感想に参りましょう。


◆学園外で勃発したグエルvsシャディク

 ――互いへの怒りを拳でぶつけあう、ガンダムらしい展開

 前回の一件で、プラントクエタのテロの首謀者がシャディクと知り怒り心頭のグエル。他方でミオリネを「汚した」ことでやはり怒り心頭のシャディク。二人の互いに対する怒りのボルテージは最高潮に達しており、何かしらの手段で衝突することは避けられないと予想していました。しかし実現手段は決闘などになると思っていたので、学園外での実戦になるとは予想外です。

 しかし、わざわざミカエリスに乗って、エナオ以外のシャディクガールズもハインドリーに乗って待機していたあたりにおうんですよね。基本的にシャディクは本人が表に出ることはなく、影で色々手を回して世界を書き換えていくのを望むタイプだという印象があります。ここでわざわざ打って出てきた(しかも相手はホルダーのグエル&プロの実戦集団であるドミニコス隊)のを見ると、わざと負けるためにMS戦を仕掛けたように感じられます。シャディク的なプランAはサリウスを宇宙議会連合の理事会に引き渡すことに成功し、ベネリットグループとの対立を図り、グループ内各セグメントの売却により弱体化しているところを一気に突き崩すというシナリオだったものと思われます。この場合、シャディクがベネリットグループの最後の総裁として解体に着手するという流れになるでしょう。


 ではプランBはどうなるのでしょうか。前回ミオリネが地球側との対話に失敗して戦火を開いてしまった結果、エラン(オリジナル)の見立てではベネリットグループの支持はミオリネに集まるとの評価でした。それが正しいならば、シャディクが総裁に立ちグループを解体するというヴィジョンは描けなくなります。であればむしろ、自分をアーシアンでありながらのしあがり、ベネリットグループの総裁の座まであと一歩のところまで迫った英雄として祭り上げられる道を選ぶのではないでしょうか。そうなると、地球にいる過激派なアーシアンたちのヘイトはシャディクを直接抑えたグエルに向きます。シャディクはグエルに対して怒り心頭な状態ですから、とにかく彼に対するヘイトを高めて、グループの運営を難しくしたい、あわよくばアーシアンからの突き上げによってベネリットグループを解体したいという思いがあったのではないでしょうか。


 実際のところは、グエルは短期間ながらフォルドの夜明けと行動を共にしており、戦争シェアリングに対して思うところがあるはずです。この二人は、“戦争シェアリングをなくし、地球と宇宙の格差を是正する”という目的で一致することもできたかもしれません。しかし、グエルは父を謀られた怒りで、シャディクはミオリネを汚された(と勘違いしている)怒りで対話ができる状態にはありません。そして恐らく、対話ができたとしても手段のところで二人は相容れないでしょう。MS戦という形でぶつかるのは必然であり、「ボタンの掛け違えがなければ避けられた戦闘だったのに」感が醸し出されているのはいかにもガンダムだなという印象を受けました。


 ――真実を知ったラウダはどう動くのか

 さて、グエルvsシャディクはMS戦をしながら口喧嘩もしていましたが、その流れでグエルが父を殺してしまったことがシャディクの口から明かされます。それを聞いたラウダは当然のことながら驚愕していました。兄信者であったラウダが、「支える」と明言していた兄に対して不信感を抱いた瞬間です。この後彼はどう動くのでしょう。

 とりあえず、まずは兄に真相を確認するでしょうが、グエルの性格上きっと嘘はつかないでしょう。しかし「シャディクに謀られた」という理由だけで彼は納得するでしょうか。その説明を受け入れて、シャディク憎しでグエルに協力する展開になるのか、はたまた納得がいかずにグエルと決別する道をとるのか。個人的には前者の展開になり、グエルの指示を聞かずにシャディクを殺害しようと図りそうな気がしています。終盤カミルからの連絡を受けて生徒手帳を落としていたことから、学園のテロもシャディクの仕業であることは把握しているでしょうし。彼の性格からしても、グエル憎しになるよりもシャディク憎しになる可能性の方が高いのではないでしょうか。

 ネットではシュバルゼッテに彼が乗る可能性も言及されています。もちろんジェターク社製ですし、彼が機体について言及するシーンが2回ありましたし、ガンプラ情報にはラウダが好みそうな大型の得物も付属しているので可能性は十分あるでしょう。しかし彼が乗る場合でも、攻撃対象はグエルではなくシャディクになると予想しています。彼の暴走が新たなる悲劇を生まないといいのですが。悲劇が連鎖するのが本作のこれまでの特徴でもありますので、嫌な予感はしています。


◆チュチュにセセリアがMSを貸す意外な展開

 シュバルゼッテと同様、ガンプラの情報だけ先に出ていて「誰が乗るんだ?」と議論になっていたデミバーディング。ノレアの暴走でチュチュデミ全壊→マルタンとつながりができていたセセリアが地球寮のもとを訪れる→ブリオン寮の新型としてデミバーディングを貸すという流れはスムーズでしたが、意外でもありました。

 言われてみればデミトレーナーもデミバーディングもブリオン社製なのでむしろ地球寮のチュチュがデミトレに乗っていることに違和感があるわけですが、ブリオン寮はパイロット科の登場人物がいままで出てきておらず、存在感が薄いため気づきませんでした。またデミトレーナー自体は学園で広く運用されているから、価格も安く財布事情が寂しい地球寮でも購入・メンテナンスが容易なのだろうなと何となく思っていた節があります。


 しかしセセリアもなかなか度胸がありますね。自分の寮のパイロット科の人間ではなく、他寮の、しかも差別されている地球寮の1年生パイロットに自社の最新鋭機を貸し出すとは。ブリオン寮のパイロット科の学生が聞いたら鼻白みそうな出来事です。セセリアは緊急事態になったら即座に指示を飛ばせる判断力を持ち合わせていることがランブルリングの件で明らかになりましたが、それに加えてブリオン寮内での権力も強いことが窺い知れます。組織的地位が高いわけではなく、単純にあの強気な態度で押し通しているだけだったら笑えますが。


 決闘委員会のメンバーがどのように決められているのかわかりませんが、他の御三家の寮のメンバーが各家の跡継ぎであることを考えると、セセリアもブリオン社のご令嬢か、それに次ぐ地位であることが想像されます。2年生のヒエラルキーがわかる学籍番号では、ミオリネが当然トップで「LS-001」です(プリマニアックスの香水瓶の表示を参照)が、案外「LS-002」はセセリアなのかもしれません。経営戦略科は学籍番号を名乗るシーンがないので、調べる手段が無いのが残念です。放送終了後に、全登場人物の学籍番号付きプロフィールを出してほしいですね。


 そして土壇場でニカが現れ、超スピードでデミバーディングの整備をして「ごたごたが終わったらしっかり対話する」とマルタンやチュチュと約束する展開になったのもスムーズですね。地球寮の皆は無事でしたから、次話できちんと対話が図られるのでしょう。彼女はエラン(5号)とノレアの会話も聞いていますから、GUND-ARMのリスクについても理解しているはずです。それが今後のスレッタの動きにも影響しそうなので、注目しております。


◆暴走するノレア

 ――残されたエラン(5号)はどうするつもりか

 ここ数話、監視部屋に閉じ込められてスペーシアンへのヘイトをため込み続けていたノレア。娯楽を与えるべきではないはずなのに、ミオリネの対話が失敗して戦争が勃発した件をテレビで流していたのは恐らくわざとでしょう。溜まりに溜まった恨みを学園に解き放ち、学生たちを多数殺害する。これはシャディクの狙い通りに違いありません。ランブルリングの戦闘程度では動かなかった議会連合も、これには反応せざるを得ない。本格的にベネリットグループに介入し、学園にテロリストを招いた罪でグラスレー社を糾弾。協力していたペイル社も共倒れとなり、元々力を弱めていたジェターク社も衰退。結果的に御三家が全て倒れ、ベネリットグループを解体するという目的が達成される。その計画を実現するための一つの駒だったのだと思います。


 しかし、ノレア一機ではいずれ捕まり、殺害されることは予測できたはず。彼女はエランが言っていた通り「命の安い者」であったわけです。スペーシアンとアーシアンの格差を是正しようとしているシャディクですが、その過程で使い捨てにされるアーシアンの命のことは考慮していない。その辺り、ニカが糾弾していた「目的のためには手段を選ばない、というのは間違っている」という主張にもつながります。シャディクの立場に立てば彼の行動にも理はあるのでしょうが、同胞をこき使い、時には使い捨てる彼のやり方を見ているとどうしてもついていきたいとは思えませんね。彼らを糾弾し、共に歩むことを拒んだニカと同じ心境になります。


 気になるのは、ルブリスウルで出撃しノレアを説得にかかった5号の行く末です。逃げてでも生き延びることを信条としている彼は、ノレアの死に心を痛め逃げきれずにフロント管理社に機体を確保されていました。しかし当の本人が捕まった様子が見られないのが気になります。制服のまま出撃し、宇宙空間で捕まったわけですから宇宙に逃げることはできませんし、そのまま捕まっていると考えるのが妥当です。しかし彼はノレアやニカとは違い、「ペイル社の次期CEOの影武者」という重要人物です。確保した組織によってはまだ「使える駒」と見なされるかもしれません。ノレア亡き今、エラン(5号)に生き残りをかけた交渉をする気力が残っているのは定かではありませんが、彼が今後クライマックスに向けて、ジョーカー的立ち位置になるような気がしているので楽しみです。


◆それでも地球寮の面々は「人命救助」の意志を貫く

 学生たちの死を目の当たりにし、ランブルリング直後はソフィとノレアの罪を被せられ、散々な目に遭ってきた地球寮の面々。それでも真っ先にノレアを止めようと動いたチュチュを筆頭に、彼らは一貫して人命救助を第一に動いています。元々地球という生きづらい環境で育ち、「親しい人を失いたくない」という思いが強いのに加え、㈱ガンダムの存在意義に賛同しているという思いもあるのでしょう。だからこそ、ミオリネの件でクレームが入っていることに対しリリッケが怒っていましたし、がれきの山をスレッタが動かして助けようとしているのを皆で協力する流れになったのでしょう。なんだかんだで、㈱ガンダムの理念を最も信じ、実現に向けて動いているのは地球寮の面々だと思うのです。

 ここからミオリネが立ち上がる道があるとするならば、やはり地球寮の面々との対話は必要不可欠であるように思われます。それでも、なお理想を捨てずに生きられるか。ミオリネがプロスペラの呪縛に囚われず、自分の意志をもって進む道を選び取れるか。こちらもすれ違いどんどん深みにはまっていく可能性もあるのが恐ろしいところですが、地球寮の面々によってスレッタは救われました。今度はミオリネも救われる番だと思っている次第です。


◆スレッタは何を思うのか

 今回気になったのが、スレッタの感情描写がほとんどなかった点です。前回一応食事をとれるくらいには回復し、エリクト(エアリアル)の考えも彼女なりに咀嚼はしましたが、授業に出ても上の空であること、元とはいえ婚約者だったミオリネについて追及するメールが送られてきていることなどが描かれていました。

 そして授業のフォローをしてくれ、一緒に避難したペトラが瀕死の重傷を負っていたのを目の当たりにし、目の光を失います。今までスレッタの目の輝きがクローズアップされたのは、私の記憶にある限り3回。1回目はミオリネの温室でトマトを食べたとき、2回目は目の前での殺人現場を見た後、プロスペラにエアリアルに乗る用説得されたとき、3回目はグエルに告白されたとき。いずれも目の色が輝く描写でした。この3つの共通点は、「命の恵みを感じたとき」ではないかと思われます。自分が生かされていること、生きていてよかったと思っているときに目が輝いていたと予測しております。


 では目の輝きが消えた今回、スレッタは何を思ったのか。それは「消えゆく命を目の当たりにした」虚しさや哀しみではないでしょうか。スレッタはこれまでで2回、人を殺しています。1回目であるシーズン1の最終話でスレッタが人を殺めたとき、彼女は笑っていました。2回目となるシーズン2のランブルリングでソフィを殺めたとき、彼女は泣きながらも「お母さんの言う通り」と無理やり口角を上げて自分の行為を肯定しようとしていました。今回、スレッタは人を殺していませんが、母にいわれたなら殺人も行うと言っていた自分の行動理念に大きな疑問符が浮かんだのではないでしょうか。

 エリクト(エアリアル)に「君はもうすがっちゃいけない。僕にも、お母さんにも」と言われていたので母にすがった今までの生き方を否定されています。それに追い打ちをかけるように、今回の殺人現場を見たわけです。彼女の信念「逃げればひとつ、進めばふたつ」が揺らいでもおかしくありません。


 問題は、信念が揺らいだとしてその状態のスレッタがどんな言動をとるのか、予想がつかないことです。それでもなお母を信じようとするのか、ミオリネを助けようとするのか、はたまた彼らはもはや自分には関係ない存在だと突き放そうとするのか。物語的に最後の選択肢は無さそうですが、今回のラストからは今後のスレッタの動きがまったく予想できませんでした。次のお話がどんな展開で進むのか、気になるところです。

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