第16話 罪過の輪 感想・表出化する諸々の確執

 タイトルからして不穏な予感しかしなかった今回、案の定ベルメリア、プロスペラ、ミオリネ、(グエル)と罪の意識をもつ者たちの因果が回る様が描かれました。「罪過」をコトバンクで調べると「①罪とあやまち。罪。あやまち②罰すること。また、その処罰。」と出てきます。プロスペラがミオリネに語った話は②、ベルメリアに語った話は①だと捉えることができます。今のところプロスペラの計画にあらゆる人々がからめとられている様子が描かれていますが、その外にいるであろうシャディクやグエルが今後どう動くか気になりますね。グエル帰還時にほっとしたラウダが卒倒していたのが今回の数少ない癒しポイントでした(笑)。同い年で腹違いの兄弟というわけありな関係の割に、この二人仲良すぎやしませんか。

 プロスペラの目的や過去が次々に開示された今回の感想に参りましょう。


◆パーメットスコア8に到達したら、何が起こるのか

 ――データストームを拡張する範囲はどこを指すのか

 プロスペラの話では、パーメットスコアが上がる=データストームが拡張されるという意味のようです。データストームが拡張されることで、パイロットへのデータストームのフィードバックが大きくなり、命を奪う危険があるという意味で納得がいく理屈です。エラン(4号)やソフィの様子を見る限り、パーメットスコア・4の段階でかなり生命に負荷がかかる模様です。

 しかし、データストームの拡張=パイロットへのフィードバックの拡大という意味だとすると、一機当てはまらない機体があります。そう、エアリアルです。エラン(4号)やソフィ&ノレア、そしてprologueのナディムなどは、パーメットスコアを上げる時その旨口にしていましたが、スレッタは一度も口にしていません。これはスレッタに「パーメットスコアを上げる」という概念が無いからだと思われます。エアリアル&スレッタの組み合わせに限って言えば、いくらパーメットスコアを上げてもパイロットであるスレッタに負荷はかからないので、彼女にとってスコアの上昇は特段意味を持たないのでしょう。しかし、そうなるとパーメットスコア・8に到達した場合も同様であると考えられます。その段階になると「エリィが自由に生きられる」という理屈がいまいちピンと来ません。

 もしかするとエアリアルのデータストームをすべて受け止めていたエリクトの魂がスレッタに流れ込み、彼女の身体をエリクトがのっとるという状況に陥るのかもしれません。そうなるのであれば、プロスペラが自らエアリアルを操るのではなく、スレッタという駒を用意しているのも納得がいきます。しかしエリクトは現在スレッタに協力的なので、スレッタの意志を消してまで彼女の身体を乗っ取ろうとするでしょうか。「ゆりかごの星」で「僕」として描かれているエアリアル=エリクトなのだとすれば、彼女はスレッタを復讐に巻き込むことには反対しているはずです。もしエリクトの意志がスレッタの身体を乗っ取ることがプロスペラの最終目標なのだとすれば、その辺り(エリクト自身の意志)が計画の障害になってくるような気がします。


 他方で、データストームの拡張=周辺宙域への干渉拡大という意味で捉えるとどうでしょうか。今のところ、GUND-ARM同士が共振したときしかデータストームの拡張は見られていません。エアリアルはVSグラスレー寮でパーメットスコア・シックスの状態に到達したが、対峙するシャディク一行はデータストームにやられていませんでした。シャディクガールズ(確かエナオ)が「制御がきかない」と言っていたことから何かしらの影響はあったのかもしれませんが、直接対峙したソフィのように命が奪われるまでには至っていませんでした。

 こちらの場合、パーメット粒子と同じ状態である現在のエリクトが「自由に生きられる」ためには世界をデータストームで覆う必要があると思われます。そのためにはエアリアル一機で広域にデータストームの影響を及ぼすのは難しそうに感じられます。ヒントとなるのはprologueで発生した「通信を切っているのにハッピーバースデーの歌声が聞こえる」現象でしょうか。パーメットスコア8の段階になるとあの通信拡張状態が全世界にまで及び、その範囲内をパーメット粒子と化したエリクトが自由に動き回れるのかもしれません。


 ――「エリィの生体コードは、データストームと完全に同調できていた」わけ

 これは恐らく、prologueにて「レイヤー33からのコールバック」があった状態のことを示しているものと思われます。他のGUND-ARMのパイロットたちがパーメットスコアを上げた際、赤い模様が顔に浮かび上がるのに対し、エリクトの場合は青い模様が浮かび上がります。これはおそらく、データストームと生体コードが完全に同調していたため、データストームのフィードバックがあっても身体に負荷がかからなかったということを意味するのでしょう。両親は普通だったのに(ナディムは負荷がかかる描写あり、エルノラはレイヤー33からのコールバックを受けられなかった)、エリクトだけが突破できたのはなぜなのでしょう。ガンダム風にいうと「エリクトがニュータイプだったから」という言葉で片づけられそうですし、この部分に関しては本編でも深掘りされない気がします。しかし、スレッタはエリクトのこの特性を受け継ぐ形でこの世に生を受けたのだろうと考えるのが自然です。つまりスレッタはエリクトのコピー的存在である可能性が高いです。容姿がエリクトにそっくりなのに、父親が同じであることはあり得ないためやはりクローンという説が濃厚でしょうか。エルノラの実子ではあるものの、遺伝子操作をしてエリクトに性質を似せたという説もありそうですが。


◆エリクト≒エアリアルであることが確定

 ――エリクトはなぜエラン(5号)を拒絶したのか

 前の項目でも触れましたが、「エアリアルの特異性は、エリクトが中にいることに起因する」ことが今回はっきりしました。これはプロスペラの話に加え、エアリアルを強制的に手に入れようとしたエラン(5号)が中にいたエリクトに弾き飛ばされていたことからも明らかです。それにしても、なぜエリクトはエラン(5号)を拒絶することができたのでしょうか。今までスレッタ以外でエアリアルに搭乗した描写があるのはミオリネ(1話)とエラン(4号、4話)ですが、二人は搭乗時に弾かれるなどということはありませんでした。

 最もありえるのが、ミオリネとエラン(4号)が搭乗した際は、まだエアリアルがパーメットスコア・シックスに到達していなかったため、エリクトが自分の意志を能動的に発動することができなかったという可能性です。ミオリネは恐らくパーメットスコアを上げずに搭乗していますし、エラン(4号)は搭乗後、「パーメットスコア・2」と口にしています。察するにスコア2の段階ではエリクトはエアリアルの中であっても、自由に動き回ることができないのではないでしょうか。最低でもスコア4(=ガンビットを操る段階)は必要そうに思います。

 逆にいうと、今回エラン(5号)がエアリアルを起動した瞬間にエリクトが出てきたということは、エアリアルは常時パーメットスコア・シックスの状態にあるということです。他のGUND-ARMがパイロットの意志で段階的にスコアを上げていく仕様であるのに対し、この点は大きな違いです。パーメットスコア8に到達するために必要な条件が何なのかはわかりませんが、この調子で行くとスレッタの意志に関係なくスコアは上がっていくものと思われます。


 それにしても、なぜエリクトはエラン(5号)を拒絶したのでしょうか。エランが間諜であることは視聴者からすれば明らかなので違和感を感じないシーンでしたが、エアリアルの中にいるエリクトはそのことを知らないはずです。考えられることとしては、エリクトはパイロットの身体に干渉し考えていることが読めるか、スレッタの意志と連動しているかのいずれかです。twitterを見ると後者の説を唱えている人が多そう(スレッタの意志に反し口説いてくるからエリクトに弾かれた)でしたが、私は前者の可能性のほうが高そうだと思います。現在のエリクトの性質がパーメット粒子と同じというのであれば、物質間の情報伝達を特徴とするパーメットの性質をもち合わせているということになります。水星の魔女のMSはパーメットを人体に流し込むことで操縦しているようなので、人体を通ったパーメットをエリクトが読み取り、エランの思惑に気づいたために拒絶したと考えるのが自然です。


 ――強化人士は一般人と比べ、どれくらいのデータストーム耐性があるのか

 今回のエラン(5号)のダメージを見て不思議に思ったのは、強化人士であるはずのエランもソフィやノレアと同じく、データストームのダメージを受けて苦しんでいるように見えることです。「データストーム耐性のある人工中枢神経を使用する」とプロスペラが言っている割には、負荷が大きそうに見えるのです。もっとも、エアリアルが起動した瞬間からパーメットスコア・シックスの状態にあったという仮定が正しければエラン(5号)はそのレベルのデータストームを受けていることにあり、同じ状況にあったソフィは死んでいるのでソフィに比べると耐性は高いということができます。ただし、このときのエリクトはエラン(5号)をコックピットから追い出そうとしているだけで、命まで取ろうとはしていないから助かっただけと考えることもできます。

 しかも、GUND-ARMのデータストームにやられなかったエラン(4号)は処分されていますしね。いくら耐性のある強化人間といえど、使い捨ての駒であるがゆえに人口中枢神経は完璧なものではないのかもしれません。


 ――結局、エアリアルの開発資金はどこから出ているのか

 怒涛の展開すぎて忘れ去られていますが、シーズン1の序盤にシャディクが「水星にこんなモビルスーツを開発する資金が無い」的なことを言っていたのを思い出しました。今回フェンが似たようなことを呟いていましたが、宇宙議会連合が開発資金源を探ることで、エアリアルのきな臭い背景がますます明らかになるような気がします。

 現在出ている情報を組み合わせると一番濃厚なのは、デリングがベネリットグループの資金源を横流しにして開発を援助している線です。とはいえ、ベネリットグループの資金は元をたどれば戦争シェアリング等、アーシアンの反発を食らうであろう事業から得ていることが明らかになったので、そこら辺をシャディクに詳らかにされると開発凍結、なんていう事態もあり得そうです。エアリアルの身柄は㈱ガンダムのものになっているので、短期的なダメージはないでしょうが、エアリアルを改修型にしたのも結局ベネリットグループであることを考えると、今後エアリアルが中破、大破することになれば修理費がどこから出せるのかという問題が出てきそうですね。エアリアルが思い通りに開発できないことでパーメットスコア8に到達されられない事態はプロスペラは避けたいはずなので、何かしら策を講じているはずではあります。しかし宇宙議会連合はベネリットグループの外の機関なので、プロスペラがどこまで手を回せるのかは不明瞭です。ここら辺が突破口になってスレッタの自立やミオリネと共に歩む道が拓ければよいのですが。


◆ベネリットグループの新しい総裁はどうやって決まるのか?

 ――諸々の悪行を計画したシャディクvs会社を建て直しに来たグエルvsミオリネvs横からかっさらおうとするエラン(オリジナル)になるのか?

 今まで(おそらく)総裁代行を務めていたサリウスまでもが拘束されたことで、突如降って湧いた総裁選の話。ペイル社の4人のおばさんCEOたちの動きはよくわかりませんが、一応現時点で候補になりそうなのは上に挙げた4人ですかね。個人的にはシャディクが呟いていた、ミオリネが総裁選に立候補した場合「御三家のどこかが後ろ楯になれば、あるいは」という内容がフラグになるような気がしています。この事実にミオリネが気づいていないはずはないので、もし彼女が総裁選に出るとなったら、御三家の何処かとの協力を検討する線はありえるでしょう。ミオリネと決別しているシャディク(グラスレー社)が彼女の後ろ盾になる可能性は低いので、可能性があるのは残り二社。


 まず、ペイル社はエアリアルの奪取を目論んでおり、ミオリネに協力する見返りにエアリアルをいじくりまわせる権利を得られるのであれば、乗ってくるかもしれません。この際ネックになるのは、エラン(オリジナル)の素性がよくわからないことなんですよね。4人のCEOたちにタメ口をきいていること、逆は敬語であることからエラン(オリジナル)はCEOより立場が上と思われます。しかし替え玉が学園に通っていることから、会社の経営に口を出したり表舞台に立ったりしているはずはありません。普通に考えれば次のCEO候補なのでしょうが、ただそれだけなのだとしたら今のCEOたちより立場が上という雰囲気を出しているのが謎です。

 仮に経営面の一切合切はエラン(オリジナル)が担い、学園生活およびファラクトの操縦はエラン(5号)が担うのだとすればミオリネは二人のエランと接することになり、その違和感に気づかれる可能性もあります。もっとも、強化人士を作っている張本人であるベルメリアが㈱ガンダムのサポートをしているのでばれるのは時間の問題なのかもしれませんが。


 個人的に期待しているのは、グエル率いるジェターク社とミオリネが結託するパターンです。恐らくジェターク社はプラント・クエタでのテロでデスルターが使用された件で追及されており、会社がとり潰される危機にあります。しかし、以前シャディクが言っていた話が正しければミオリネとジェターク社(正確には御三家のどこか)の保有株を合わせればベネリットグループの株の過半数を握ることができるため、グループを掌握できるということでした。会社を存続させて家族を守りたいグエルと、総裁になって両親が押し進めていたクワイエット・ゼロの真相に迫りたいミオリネ。両者の思惑は一致しているので、ここが協力する可能性は高い気がしています。1話で散々互いをいびり合っていた二人が(グエルがミオリネに頭を下げるという形で)共闘関係になったら熱いですし。


 もっとも、次期総裁がどのように決められるのかは不透明です。グループの各社が一票ずつもって投票するのか(その可能性が高い気がしていますが)、保有する株数によるのか、あるいは株主総会的なものを開き、株主ないし投資家からの信認を得た者がなれるのか。ここでもシャディクは何かしらの裏工作をしているにおいがぷんぷんしますが、ミオリネとグエル(あるいはエラン)が共闘すれば状況をひっくり返せるかもしれません。プロスペラもノープランでミオリネに「総裁になれ」と言ったわけではないでしょうし。


 こうした流れを踏まえた上で、次回のタイトルコールがグエルだったことで期待が高まります。そろそろグエルには表舞台に戻って来てもらって、大活躍してくれることを期待しています。

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