第15話 父と子と 感想・父の思いを知った子らはどう動くのか

 タイトルからも薄々察していましたが、父がいないスレッタは未登場の回でしたね。その代わりにグエルとミオリネにスポットが当たり、共に実父と言葉を交わせない状況の中で、どんな判断を下すのかまでが描かれました。二人の決断内容までは具体的には明かされませんでしたが、テンポよく物語が進んでいるシーズン2のことですから、早々に判明することでしょう。

 記憶が薄れぬうちに、感想へと参りましょう。


◆サリウスに語ったシャディクの理想は真実か?

 ――戦争シェアリングの構造を書き換えることは可能なのか

 シャディク、今のところミオリネに本音を零した以外の場面ではどこまで本音かわからない言動を繰り返しているので、拉致したサリウスに対して語った内容も正しいかわからないのですよね。もっとも、プロスペラと同じく建前として述べている「戦争シェアリングの構造を書き換える」ことは目的の一つであるものの手段であり、真の目的が別にあるパターンが濃いような気がしています。

 今回のお話でシャディクがスペーシアンとアーシアンのハーフであることが明かされましたが、それが理由で孤児院に捨てられた過去でもあるのですかね。地球側に権力を持たせたいというのは、そのまま無力だった父ないし母に力を持ってもらいたかったという願いの繁栄なのかもしれません。


 それにしても、戦争シェアリングとは具体的にどんなことをしているのでしょうか。「宇宙開発事業の莫大な費用を裏で支える」と述べられていましたが、宇宙でのガス抜きを地球でさせて、その手段として地球側の組織に武器供与している、というイメージでしょうか。このあたり、正直あまりピンと来ていません。

 他方でシャディクが望む「地球側に利権を売り払い、アーシアンに力を持たせることで抑止力とする」構造であれば、00の世界観に近くなるような気がします。00は近未来の地球が舞台で、EUの進化版であるAEU、中国ロシア連合体である人革連、アメリカ主体のユニオンの「三国家群」がゼロサムゲームを繰り広げている世界というのが冒頭で語られます。ゼロサムゲームは合計(=サム)がゼロになる、つまり誰も得をしない戦いのことで、お互いが権力を持ちすぎないよう、さりとて直接衝突はしないように代理戦争を行い牽制しあっている世界でした。

 このように、もしシャディクが語っているような世界が実現して、地球側が宇宙側と同等程度の戦力を持つようになった場合、スペーシアンとアーシアンの代理戦争が増えそうだなと思いました。今は圧倒的に戦力に劣るアーシアンが一方的に蹂躙されているようですが、それがなくなるわけですから。結局戦争の火種は無くならない、いや虐げられて恨みを募らせているスペーシアンに武力を持たせたら余計に戦火は拡大しそうな気がします。それでもなお、戦えるだけの力を彼らに持たせたいというのがシャディクの願いなのでしょうか。

 ただし、彼の今までのスペーシアン(ニカ、ソフィ、ノレア)への対応を見るからに、スペーシアンをただの駒としか扱っていない節も見受けられます。そのためスペーシアンの地位向上はかならずしも善意からくるものではないような気がしてしまうのです。彼の真の目的は何なのか。今後近いうちに明かされることでしょう。


 ――やはり鍵になるのはクワイエット・ゼロか

 前述した通り、シャディクのやり方では戦争はなくなりません。むしろ代理戦争が増えて、武器販売で潤うというのが彼のビジョンなのかもしれません。この思想は世界を戦争のない世界へと書き換えるクワイエット・ゼロの理念とは反します。

 第9話で決別したミオリネとシャディクが、戦争の必要性の有無という立場において対立するシーンが今後現れるかもしれません。もっとも、現時点でミオリネがクワイエット・ゼロに参画するか、戦争をなくすという考えに賛同しているかは不明なので実際にそうなるかはわかりませんが。しかし、クワイエット・ゼロの成功の有無によってシャディクの計画が変化するであろうことは予想できます。

 そして、本作のメインヒロインはミオリネです。つまりクワイエット・ゼロが見かけ上上手くいき、シャディクの思惑が外れる可能性のほうが高いと考えていますがどうでしょうかね。

 個人的にはこの二人が対立する以前に、シャディクに会社をつぶされかけた怒りでグエルが乗り込んでくるパターンのほうを期待しています。ダリルバルデでミカエリスをボコボコにする図が見たいです(ミカエリス、さらに売れなくなりそうですが……)。たぶんヘタレのプリンスは、どん底を味わった御曹司には勝てないでしょうから。

 話がそれましたが、とにかくシャディクサイドの暗躍においても、クワイエット・ゼロが関わってきそうだなという予感がしています。


◆落ちるところまで落ちたグエルの向かう先は

 ――「会社が無くなる」とはどういう意味なのか

 グエル、フォルドの夜明け側に回収されているだろうとは思っていましたが、まさか廃校のトイレに押し込められていたとは……「御三家の御曹司で、決闘委員会の筆頭で、ホルダーだ」ったころの彼が見る影もありません。しかし、家族のことになると血相を変えて問い詰める辺り、まだ彼の心は折れていないと感じています。父を殺してしまい、精神的にはどん底にあるはずなのに会社と家族を思う気持ちはぶれない辺り、本当にメンタルが強いですね。

 それにしても少年が述べていた「会社無くなる」発言はどういう意味なのでしょう。一応ジェターク社はラウダがCEO代理として引き継いでいる形だったと記憶していますが、この一話で何があったのか。考えられるのは三つです。

 一つ目は、フォルドの夜明けのテロにジェターク社製MS「デスルター」が使われた件で責任を取らされ、会社が潰される、ないしはどこかに買収されるということになるのか。二つ目は、シャディクと繋がっているフォルドの夜明けは彼の計画を知っていて、シャディクの計画上御三家が近いうちに全て解体されるという意味なのか。三つめはランブルリングの決闘によりラウダが瀕死の重傷を負ってしまい、会社を継げる人がいなくなってしまったためとり潰しになることが決まったのか。

 個人的には三番目の線は薄いと思います。今回のフォルドの夜明けvs治安維持部隊が勃発した際の時系列(ランブルリングの直後か否か)は不明ですが、プラント・クエタでのテロ+ランブルリングでのテロ行為に対する鎮圧行動であれば、ランブルリング直後に動いているはずです。その状態でラウダの体調をフォルドの夜明け側が把握する余裕があったでしょうか。また、ディランザ(ラウダ機)は頭部をつぶされていましたが、コックピットは無事だった気がするので脳震盪で一時的に意識が飛んだに過ぎないと考えております。

 となると一か二ですが、発言者がフォルドの夜明け側の人間であることからどちらもあり得ます。ただし、二つ目についてはシャディクがフォルドの夜明けに自身の計画を明かしていることになり、ナジはともかく幼い少年のような末端の人間にまでその情報が伝わっているとは考えにくいです。シャディクは秘密主義ですからね。つまり、一つ目の「責任を取らされて会社がとり潰しになる」線が濃いように思います。むろん、グエルvsシャディクのマッチアップを実現させるという意味で二の線も捨てがたいですが。


 ――「俺と父さんをつなぐもの」とは何か

 シーシアの死を目の当たりにして己の無力さを思い知ったグエルは、オルコットとの対話を経て再び宇宙を目指す覚悟を決めました。その際に放った台詞がこれですが、これはジェターク社と弟(ラウダ)、どちらの意味なのでしょうね。文脈通りにとれば会社のほうになりそうですが、「何も失いたくない」という前の言葉と併せて考えると弟の可能性もありそうです。いや、弟の場合であれば「誰も失いたくない」というフレーズのほうがしっくりきますね。となるとやはり会社のほうですかね。

 会社に戻るため宇宙に向かうグエルは、今後シャディクと対立する可能性が高いですがどうなるでしょうか。あの二人のガチンコバトルを見てみたいのですが、決闘か何かで実現するのか。視聴者の9割以上はグエルを応援するでしょうが(笑)。再起したグエルは学園初期とは比べ物にならないほどメンタルが強くなっていると思うので、いくら策略家のシャディクでも突破するのは容易ではないでしょう。今後の彼の立ち回りは要チェックです。


◆「クワイエット・ゼロ」にミオリネはどんなスタンスで挑むのか

 ――ノートレット発案というのは正しそう

 正直、前の回でプロスペラがミオリネに『発案者がノートレット・レンブラン」と言っていたのは、ミオリネを計画に巻き込むための詭弁(ウソ)ではないかという気もなんとなくしていたのですが、それは違ったようですね。「ノートレットは植物の性質を人類に適応出来ないか考えていた」というラジャンの弁は真実でしょう。デリングの腹心であるラジャンが、丁重に接しているミオリネにうそをつく理由がありませんから。大穴としてラジャンとプロスペラが繋がっている可能性もありますが、彼の話しぶりからは、嘘をついているようには感じられませんでした。


 それにしても、植物の性質を人類に適用するとは、どのような意味なのでしょう。そしてなぜデリングは、ノートレットの案に乗る気になったのか。ラジャンの口から説明はされますが、やや難解です。恐らく、植物がどんな荒れ地でも適応し子孫を繁栄させるように、人間も宇宙に対応して生きていけるための方策を考えた、というイメージでしょうか。ノートレットの時点では具体性を持たなかった案が、GUND-ARMという「人間を宇宙に適応できる身体にする」ためのデバイスができたことによって一気に現実味を帯びた。とはいえヴァナディース事変の際は、デリングはGUND-ARMを否定していましたからクワイエット・ゼロにGUND-ARMが使えると感じたのはその後のことなのでしょう。

 何らかの経緯で(そこが一番気になりますが)クワイエット・ゼロの存在を聞きつけたプロスペラが、GUND-ARMを使えばそれが実現可能だとデリングに持ち掛け、共闘関係になったものと推察されます。確かに、カルド博士も言っていた通り「人類はGUNDを身にまとうことで、宇宙に適応する身体を手に入れる」というヴァナディースの理想はクワイエット・ゼロの理想に通じるものがあるような気がします。しかし、デリングが求めているクワイエット・ゼロは人間の主体性を保ったうえでの戦争のない世界をつくること。軍人時代、マシンのパーツのように扱われていた人間に、人間らしさを取り戻すこと。これは、GUNDを身にまとうという考えとは一致しないような気がするのですが、どうなのでしょうか。少なくとも“GUNDをまとう”の次の次元に行ってしまったエリクトは、データストームの向こう側に存在しているわけです。パーメットスコア・シックスの状態で彼女の存在が明らかになったわけですが、彼女の状態をデリングが望んでいるとは考えにくいです。やはり、プロスペラが求めているクワイエット・ゼロとデリングが求めているそれは異なると想定した方が良さそうです。

 プロスペラが考えるクワイエット・ゼロは、恐らくデータストームの向こう側にいるエリクトに安全に会いに行く手段を確立することではないでしょうか。現時点でエアリアルのパイロットであるスレッタ以外は、パーメットスコア・シックスの状態のGUND-ARMに容易に近づくことができません。GUND-ARM同士で近づこうとすると強烈なデータストームに殺されてしまうことがソフィの件で明らかになっています。そこで、プロスペラは何らかの方法でエリクトに会いに行こうとしているのではないでしょうか。ベルメリアが「総裁の計画では、ここまでのパーメットスコアは必要ない」と言ってることから、やはりエアリアルのパーメットスコアが鍵を握っていそうです。


 では、ミオリネはどちらのクワイエット・ゼロを目指すのでしょうか。現在事情を知っている人々に話を聞いて回っている彼女ですが、もしベルメリアのもとにも赴けばデリングが目指す計画と、プロスペラが求めるものの齟齬に気づくはずです。ミオリネはプロスペラに疑念を抱いていますので、もし二人の計画の違いに気づけば、デリング側につく可能性があります。あるいはその二人とは違う、第三の道を自ら選び取るか。ミオリネの性格なら後者になるパターンのほうが想像しやすいですが。彼女の選択次第で、スレッタとエアリアルの運命もまた変わりそうなので、シーズン2の物語の鍵になるでしょうね。次にミオリネが出てきた時、どんな選択をとっているのか注目したいと思います。


 おそらく今回出てきたグエルとミオリネは、スレッタに多大な影響を及ぼすであろう存在であるためどちらも要注目です。主人公不在の今回、この二人にスポットが当てられたのは意味があることでしょう。今後の二人の活躍は要チェックです。

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