第12話 逃げ出すよりも進むことを 感想・進んだ先で得られるものと失うもの

 学園内の平和な物語(四号エランの件はありましたが)だったはずの今作が、最終話にして急に戦争ものの雰囲気を出してきましたね。最後のシーンはショッキングすぎてリアルタイム視聴時、若干気持ち悪くなってしまいました。

 私はガノタとしては恐らく珍しいであろうハッピーエンド主義者なので、本作も前向きなエンディングが用意されていることを願っていますが、シーズン1の最終話である今回は不穏なラストでした。一気に不安が高まるものの、続きが気になることは間違いないので正座してシーズン2放映予定の四月を待ちたいと思います。


◆戦争に巻き込まれた子どもたち

 ――エアリアルで戦争をする羽目になるスレッタ

 遮蔽壁で分け隔てられたミオリネを助けるためにはエアリアルに乗るしかないと思い、78番ハンガーを目指すスレッタ。しかしエアリアルの目の前で敵勢力に見つかりそうになり、絶体絶命の際にプロスペラ+お付きの人(名前忘れました)の銃撃で救われます。目の前で母が人を殺したこと、これからエアリアルに乗ると母と同じになる(=人殺しをする羽目になる)ことまでを恐らく想像して進むことを一度は拒むスレッタですが、プロスペラに刷り込まれていた「逃げたら一つ、進めば二つ」の合言葉に言いくるめられて皆を助けるため、進むことを選びます。


 序盤のシーンで、ベルメリアが「エアリアルで戦争をするつもりですか!」と言っていたことから彼女はエアリアルはあくまで㈱ガンダムの宣伝用の機体、ないしは学園での決闘用のMSであり、対人戦をすべきではないという考えのようです。㈱ガンダムとしても、医療事業を目指している以上は宣伝塔であるエアリアルに人殺しを指せるなどもってのほかなはず。しかし、プラント内に侵入したフォルドの夜明けのメンバーたちは、デリング暗殺のみならず、エアリアルの確保をも目論んでいました。スレッタがエアリアルに乗らなければ、エアリアルはテロリストの手に落ちていた可能性があるわけです。

 では、スレッタがエアリアルに乗って逃走を図っていたらどうなっていたでしょう。エアリアル&スレッタにご執心のソフィにつけ回されていた可能性はありますが、そもそもハンガーの場所が見つかっていた時点で戦わずに逃げるのは難しかったでしょう。やはりあの場でスレッタ・エアリアル共に無事に生き残るためには、闘う(=進む)しか選択肢はなかったのではないかと思われます。

 しかし、この戦いを通じて「自分が戦えば、守りたい人たちを皆助けることができる。そのためには人殺しもやむを得ない」というメンタリティに至ってしまい、クライマックスの悲劇を引きおこすことになります。


 ――進んだ結果父を失ったグエル

 相変わらずナジたちフォルドの夜明けに船ごとジャックされていたボブ(グエル)ですが、一瞬の隙をついてMSを奪取し脱出に成功します。あのまま船に居残っていれば(=逃げたら)ヴィムが乗るディランザ・ソルに船を撃ち落とされていた可能性があるので、自分の命を守るためにはやむを得ない行動だったでしょう。彼はそれよりも、フォルドの夜明けのクルーたちが話していた「ガンダム」というキーワードに反応して、スレッタに会いに行ったというほうが正しそうですが。

 しかしテロリストの援軍だと思われたグエルは、ヴィムに追われて一騎打ちをする羽目に。決闘ではない真の戦場に恐怖したグエルは、己の身を守るために全力で戦い、父を手にかけてしまいます。元々のヴィムの戦闘能力がいかほどのものだったのかは不明ですが、MSのスペックという点においては最新鋭機のディランザ・ソルVS旧型機のデスルターということで、グエルのほうが不利だったはずです。愛内という恰好ではありますが、相手を撃破している辺り彼のパイロットとしての能力の高さが窺い知れますね。

 父を手にかけ、自身が乗っていたデスルターも動かせない状態で、今後彼はどうなってしまうのか。フォルドの夜明けに回収されて捕虜になるのか、プラント・クエタにあるジェターク社の拠点に拾われ、何かしらの役目を負わされるのか。はたまた第三勢力に回収されるのか。本作において最も受難多き人生を歩んでいるグエルなので、シーズン2も更なる苦難が待ち受けていそうですが、彼が気高くあることを願います。


 ――避難の過程で戦争の惨さを思い知らされるミオリネ

 スレッタとはぐれたミオリネは、彼女と再開すべく動き始めますが、すぐに父デリング+護衛の人々と合流します。しかしルブリスウルの攻撃で護衛は倒され、デリングは負傷。応急処置を施した上でなおも移動を試みるミオリネの前に退避しそびれたフォルドの夜明けの残党が。身体を張ってデリングを守ろうとした瞬間、エアリアルに乗ったスレッタが助けに入ります。しかしその助け方は、生身の人間をMSの手で平手打ちにするという惨いもの。それを為してなお笑顔で「助けに来たよ!」と血まみれの手を差し伸べるスレッタに、ミオリネは恐怖します。

 私がミオリネの立場だったとしても同じようにドン引きしていたとは思いますが、やはりここでもスレッタの立場からすると、「ミオリネを救うため、やむを得ない選択だった」わけです。相手は銃を構えているので、判断に悩んでいる暇はありません。ビームライフルを撃てばミオリネを巻き込む可能性がありますし、ビームサーベルもまた然りです。そう考えると、一見グロテスクに見えるあの行為も一応合理的だったのだと理解できます。スレッタにそうした「合理的な説明」ができるかは怪しいですが、少なくとも視聴者から見れば、納得はできます。

 しかしミオリネとスレッタの間に深い溝が生じそうなのは、助けに来たスレッタがけろっとしていた(=人殺しを何とも思っていなさそうなリアクションだった)点です。プロスペラが殺人を犯した際にはあんなに怯えていたスレッタが、そのプロスペラに丸め込まれただけであっさり殺人を容認してしまっています。元々スレッタはプロスペラの言うことには絶対服従の姿勢を見せていましたが、それが戦場における死生観という最悪の場所でも発露してしまった形になります。当然、ミオリネのメンタリティは人殺しを容認できない、母の銃殺を見た直後のスレッタと同じ状態なわけです。

 ㈱ガンダムのCEOとして、ミオリネには人殺しを笑顔で容認するような人に放って欲しくないと個人的には強く願いますが、彼女がその信念を持ち続けるためには、人殺しをあっさり受け入れてしまったスレッタとなんとかして意見のすり合わせを行う必要があります。とはいえ、戦場においてはスレッタのようなメンタリティのほうが生き残りやすい・戦えるのもまた事実。二人の感情のすれ違いをどう処理し、前へ進んでいくのかは見ものです。


 ――襲撃の背景を察しているニカ

 プラント・クエタにいる生き残りメンバーの中で、襲撃してきたのがフォルドの夜明けという組織であること、その裏ではシャディクが糸を引いていることを知っているのはニカだけです。最後、マルタンにテロリストと通信をしていたことがばれかけていましたが、ニカはどう言いつくろうのか。あるいはミオリネたちに全てを白状するのか。シャディクが噛んでいることをミオリネが把握するか否かで、今後の展開が変わってきそうなので気になるところです。


◆ソフィ「また会いに来るね、スレッタお姉ちゃん」の意味

 ソフィがスレッタと対戦した後、捨て台詞のように上記台詞を残して立ち去りますが、「お姉ちゃん」とはどういう意味なのでしょうか。一番シンプルに考えると、ソフィよりスレッタのほうが年上という可能性が考えられます(スレッタは学生であると知れているので、年齢は推測できるはずです)。あるいはソフィが搭乗しているルブリスウルは量産型ルブリスに由来し、エアリアルはオリジナルのルブリスの後継機であることから、機体的に先輩に当たるという意味にもとれます。

 しかし深読みすると、彼女らの間には何らかのつながりがあるのかもしれません。公式HPには「出自が異なる」と書かれているので血のつながりがあるわけではないのでしょうが、意味深な捨て台詞だったことに間違いありません。


◆今後スレッタがミオリネの考えに寄り添うのか、その逆か

 ともあれ、今後の展開を考えるうえで最も気になるのは、「スレッタがプロスペラの呪縛から解放されるのか否か」という点だと思います。OPとEDの歌詞から想起されるのは、親の呪縛・呪いを己の力で打破して自分の手で未来をつかみ取るというイメージです。個人的に水星の魔女はそういう物語であってほしいと思っているのですが、今のところスレッタは親に対して素直すぎる性格なので、そこがシーズン2で変わっていくのかが見どころになってくると思います。

 しかし、12話にてプロスペラに従う=エアリアルと戦場に出る、ミオリネに従う=エアリアルで殺人を犯すことを拒むという図式に変わりました。もしシーズン2が学園を飛び出した戦争モノになるのであれば、ミオリネとの和解はずっと後になってしまうかもしれません。何もかもを殺戮しつくしてぼろぼろになったスレッタをミオリネが受け止める図、というのが思い浮かびます。

 他方で、舞台が再び学園に戻るのであれば、ミオリネとの和解イベントは10話→11話のように早く訪れるかもしれません。彼女とわかりあうことが、プロスペラと距離を置くことに繋がると思うので、そこには期待したいところです。


 問題になるのは、スレッタが乗るエアリアルはプロスペラの手先という点です。スレッタはプロスペラに対する感情と同じくらい、エアリアルにも強い信頼を抱いています。ガンビットを通じて外界の様子を把握し、スレッタに情報提供するまで進化していたエアリアル。スレッタとミオリネが和解したタイミングで、エアリアルがプロスペラの思惑通りの挙動をして二人がまた離れ離れに……という展開にもなりそうで怖いです。いずれにせよ、シーズン1で解決しなかった謎や伏線はまだまだたくさんありますので、シーズン2の展開に期待したいと思います。


 この感想置き場は、シーズン2開始時にはまた週一回の更新をしていくつもりですが、その間で思いついたことなどがあれば今まで通り、【考察】という形で記事を更新していこうと思います。四月までは不定期更新になるかと思いますが、皆様宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る