第11話 地球の魔女 感想・prologueを彷彿とさせる学園外での戦い

 舞台が学園からプラント・クエタへと移り、だんだん不穏さを増してきた本作。残された伏線もキャラ描写も大量にあり、あと1話で話を畳めるのか疑わしいですね(第一クール最終話だけ15分延長とかしてもいいレベルだと思っています)。とはいえ今回は戦闘シーンもキャラ模様も濃密になると思しき最終話に向けた種まき回。主にスレッタの心情の変化に焦点を当てていましたが、他の動きも色々と気になるところです。では感想へと参りましょう。


◆クワイエット・ゼロとは何か

 ――英語をそのまま和訳すると……

 デリングとプロスペラが共謀していたという衝撃の事実が明らかになった今回。個人的には11話で一番驚いたシーンでした。てっきりプロスペラの復讐=デリングの抹殺だと思っていたので、この二人が協力していること、またデリングがプロスペラ=エルノラだと知っていることは意外でした。

 さて、二人を繋ぐキーワードが「クワイエット・ゼロ」なる計画。プロスペラの弁ではエアリアルがパーメットスコア6に到達したことで、計画が最終段階に至ったとのことですが、この計画の内容はどういったものなのでしょうか。

 今まで劇中では「パーメットスコア2」すら人体にデータストームが流入する危険な状態が発生し、ガンビットを使用する「パーメットスコア4」では即死レベルとされていたはず。それが6まで突破していたというのは見過ごせない事実です。恐らくグラスレーの団体戦で、エアリアルが青く発光していた段階のことを指しているのでしょうが、ここまできてなおスレッタはぴんぴんしていることから、やはりエアリアルには普通の技術(例:ファラクト)では考えられない何かが組み込まれていることはほぼ確定しています。


 話をクワイエット・ゼロに戻します。英語だと仮定すると「quiet zero」、直訳は「沈黙をなくす」意訳すると「沈黙からの解放」ないしは「内に秘めた・隠れたものの解放」といったところでしょうか。

 今ぱっと思いつく予想は、「エアリアルの中に囚われている何者か(おそらくエリクト)の意識の解放」を目指す計画であるというものです。これはパーメットスコア6の状態の際に、エアリアルとスレッタが対話しているように見えたところから予想されます。まず、エアリアルが青く発光した際にスレッタは、「そっか、いたんだ」と発言しています。これから、エアリアルの中に対話できる何者かの存在を認識しているように感じられます。その後ザビーナらシャディクガールズとの戦いの際には、その何者かに照準指示をもらい、自らはビームライフルでベギルペンデの頭部を撃ち抜き、後を追うようにガンビットで四肢の動きを封じているように見えました。故に、エアリアルの中には「人と対話できる何者か」がいることがほぼ確定しています。

 ただし、この「何者か」はエアリアルに搭乗している者としかコミュニケーションが取れないようです。スレッタに何を語りかけていたのか、視聴者の我々には聞こえませんでしたし、一人で喋っているスレッタの様子をミオリネが訝しんでいたことから、作中決闘を観戦していた人たちにも聞こえていなかったものと思われます。ということは、GUNDシステムの特徴である「パーメットを利用した相互通信」でしかコミュニケーションができない存在、と考えるのが妥当そうです。

 よってプロスペラが考える「クワイエット・ゼロ」の内容・目的は、エアリアルの中にいる=外とはコミュニケーションがとれない=傍から見ると“沈黙”している何者かを外に連れ出すことだと予想されます。仮にその「何者か」の正体がエリクトだとするのであれば、何らかの原因でGUND-ARMに取り込まれてしまった愛娘を自分のもとへと取り戻すという目的になりそうです。エルノラ=プロスペラであることが確定したので、こうした考えを抱いている可能性はありそうな気がします。

 その場合、「どうやって」エリクトを取り戻すのかが問題になりますが、個人的にはスレッタの身体にエリクトの精神を移植させるつもりなのではないかと予想しています。エアリアルのパイロットとしてパーメットスコアがどんどん上がっていくGUND-ARMに乗り続けることで、あるタイミングでエアリアルの思念がスレッタを乗っ取る可能性があると考えるのです。つまりスレッタはプロスペラにとってエリクトのための肉体の器にすぎない。今まで実娘(と思われる)スレッタよりも、エアリアルのほうを娘と呼んで大事にしている様子が見受けられるのはそういうわけがあるのではないでしょうか。

 あるいはスレッタの人格は残ったままで、エリクトの人格が併存する状態になるのかもしれません。その場合、プロスペラがスレッタに教えてきた「進めばふたつ、逃げればひとつ」の意味が怖くなってきますが。進めば=エアリアルに乗り続ければスレッタとエリクト、二つの人格を手に入れることができるが、逃げれば=エアリアルに乗るのをやめればスレッタの人格のままといった風に解釈できるので。


 仮にプロスペラの目的がそうだとして、デリングがそれを「私の計画だ」と言っているのは何故でしょうか。元軍人としてのデリングの立場、及びprologueの演説で述べた「兵器は人を殺すためのみに存在するべきである」という考え方を今も変わらず持っているとするならば、パーメットスコア上昇による戦場でのパイロット同士の対話を可能とする力を欲しているのではないかという気がしています。前述したプロスペラの目的に比べると弱い動機に感じられますが、パーメットスコアが充分に上がったGUND-ARMを戦場に投入すれば戦場で互いの殺意を相互に把握できるようになり、より人を殺す意識が高まるような気がします。その逆もありえそうなので諸刃の剣ではありますが。

 GUND-ARMのパーメットスコア上昇により、周辺の人間に通信干渉を行う現象は本編でも複数回観測されています。まずはprologueでベギルベウと対峙したルブリス量産機の中で、ナディムが歌っていたハッピーバースデーの歌。これはルブリス量産機と通信を繋いでいなかったベギルベウのコックピット、及びカテドラルの宇宙船内にも響いていました。ここから、GUNDフォーマットには通信の拡張機能があると思われます。

 また、6話のエラン(四号)戦でエランが少女の幻影を見た際、ロウジが見ていた映像に一瞬通信障害のノイズが入りました。後に7話でエラン(オリジナル)は「僕の機体と君の機体が混線するみたいな」と表現し、ペイル社のCEOが「GUND-ARM同士が相互干渉することで起きる現象」と説明していましたが、ここでも何らかの通信に対する影響をGUND-ARMがもたらしていることがわかります。

 デリングとしてはこうしたGUND-ARMがもつ通信干渉系の能力に着目し、それを汎用化してベネリットグループで独占したい思惑があるのではないでしょうか。


 ――スレッタの父親は結局誰なのか

 SNSをちらっと確認したところ、「クワイエット・ゼロ」を「死者蘇生計画」と予想している向きもありました。確かにプロスペラは夫を、デリングは妻を亡くしています。愛していた配偶者を失ったというのが本作でわかりやすく示されている二人の共通点なので、そうした考察が出てくるのも頷けます。

 その場合気になってくるのが、スレッタの父親は誰なのかという点です。prologue=ヴァナディース事変の時点でナディムが死亡している場合、スレッタが生まれるのはヴァナディース事変の四年後なので、ナディムはスレッタの父親ではないことになります。しかし5話で行われたアリヤの占い及びスレッタの発言によると、父親はスレッタの幼いころに亡くなっているようです。精子バンクか何かが残っていて、父親が実はナディムという可能性もなくはないですが、それより濃いのはスレッタがエリクトのDNAを基に作られたクローンという線でしょうか。そうなると、父親が見えないというアリヤの占いとも矛盾せず、エリクトとスレッタの容姿が似ているのも説明がつきます。今まで水星(シン・セー開発公社)にはそんな技術力・資金力はないだろうと思い可能性は極めて低いと捉えていたのですが、実はデリングがプロスペラに協力していたとなれば話が変わってきます。もしかするとエアリアルの開発資金や技術スタッフも、デリングが内々に用意させたのかもしれません。

 スレッタの父親とミオリネの母親(特に後者)は、今後の物語でも鍵を握る人物だという気がしているので、今後正体が明かされるのが楽しみです。


◆「地球の魔女」の由来は?

 ――ソフィとノレアはどこから派遣されているのか?

 「地球の魔女」ことソフィとノレアの公式HPに掲載された情報を確認すると、“反スペーシアン組織「フォルドの夜明け」に派遣された~”と書かれています。つまり、彼女ら二人はフォルドの夜明けの構成員ではなく、GUND-ARMと共に依頼された仕事をこなす傭兵的なポジションのようです。今回ナジの命令にソフィが背いていたのも納得ですね。ゲリラ組織であるほど上への忠誠心は強いイメージがあるので、彼女らが構成員ではないというのは腑に落ちます。

 さて、彼女らの派遣元ですが、気になるのは二人が乗るGUND-ARMがどちらも「ルブリス」の名を冠していること。今まで作中に搭乗していたルブリスはオックスアース社が製造していた量産型と、エルノラが乗っていたガンダム・ルブリスのみ。ウルとソーンが前者の改良機であるならば、地球の企業であるオックスアースの存続企業かどこかがゲリラ化して、独自にMS開発を続けていたという可能性がありそうです。しかし後者だとすると、プロスペラの関与が疑われます。プロスペラは「ゆりかごの星」で地球と水星圏を行ったり来たりしていたと書かれていたので、その際に地球でウル&ソーンを開発している組織と接触し、技術提供を行っていた可能性があります。プロスペラが二機のことを知っているのか否かは次話で明らかになりそうなので、その際の彼女のリアクションを待つとしましょう。


 ――そもそも「魔女」とは誰を指すのか

 作中で「魔女」は「GUND-ARM開発者」及び「GUND-ARM搭乗者」の二パターンを指すことがあり、それぞれが混同されている印象を受けます。例えばヴィムが自室で投資家たちに詰られていた際、通信を切った後「魔女め……」と呟いている際は魔女=プロスペラ及びスレッタの両方を指すと思われます。しかし10話でミオリネがベルメリアに問いかける際に使っていた「魔女」の意味合いは、「GUND-ARM開発者」に留まっている印象を受けました。少なくともスレッタを魔女には含めていない様子です。また、確か6話でプロスペラがどこかに電話をかけた際、「魔女はペイル社にいたわ」と告げています。ここでいう魔女は文脈からしてベルメリアを指しているので、やはりプロスペラも「魔女=GUND-ARM開発者」という意味で使っているように思われます。

 そして今回、ソフィはスレッタに対して、自らのことを「地球の魔女よ」と名乗っており、ソフィの認識では「魔女=GUND-ARM搭乗者」ということになります。魔女というのは作品のタイトルになっているだけあって重要な概念だと思うのですが、このようにキャラクターによって定義が微妙に異なることが気になっています。この辺りも、残り一話ですっきりするのでしょうか。あるいはタイトルに絡む問題なので、二期まで引き延ばされるかもしれませんね。


◆カテドラルはどう動くのか

 ――ジェターク社+魔女のテロに見える今回の事件

 今回ちょっと不気味に感じているのは、カテドラルの実働部隊が出てきたところです。ケナンジの変貌ぶりに気を取られそうになりますが、彼らはすでにボブ(グエル)たちが乗る巡回船が不審な動きをしていることに気づいています。しかもその船はジェターク社所属、中から出てきたMSもボブ(グエル)の弁ではジェターク社の旧型MS+GUND-ARMなので、彼らからしてみればジェターク社がベネリットグループを裏切ってプラント・クエタ襲撃を行っているように見えるのではないでしょうか。

 そうなった場合、カテドラルは問答無用で船を撃ち落としたりしないでしょうか。prologueのイメージだと、カテドラルの実働部隊は関係者全員皆殺しスタイルをとるので、ボブ(グエル)たち捕虜も解放されぬままテロリストに協力した共犯者として扱われかねないように思います。しかも船の中にグエルがいるとばれたら、更に状況は悪化します。このテロの主導がジェターク社だという認識を、カテドラル側はますます強めてしまうかもしれません。ボブ(グエル)の今後の安否が非常に心配です。


 次回、カテドラルはどう動くのか。「地球の魔女」に対処するのは誰になるのか。気になるところです。


◆次話予想:プロスペラがエアリアルに乗るのか?

 今回、落ち込んでいたスレッタをプロスペラがエアリアルの元まで誘導しようとしていたのも気になります。もし、プロスペラとフォルドの夜明けが繋がっていて、今回のテロ行為を事前に察知していたのなら、それに備えてスレッタを早く乗せようとしていたのではないかと勘繰ってしまいます。

 実際にはミオリネがスレッタを捕まえて、プロスペラのもとへと向かうのは阻止したのでスレッタはエアリアルのもとへ到着しておらず、プロスペラはエアリアルを見て「置いていったりしないわ」という言葉を残しています。このことから、スレッタが来ないと悟ったプロスペラが自らエアリアルに搭乗するパターンもあり得るのではないかと思っています。彼女も元はルブリスのテストパイロットですし、「ゆりかごの星」ではスレッタ幼少期の頃の話ですが、シューティングゲームはスレッタより上の腕前だとされていましたから。その場合、エリクトの人格が流入する先がプロスペラになり、今まで器として育ててきたスレッタの存在意義がなくなり、母に見捨てられたスレッタがどう動くかの決断を迫られる……といった話に持っていくのではないかという気がしています。デリングの生死を含め、誰が死に誰が生き残るかが見えない状況ですが、今まで受動的に状況を受け入れることが多かったスレッタが能動的な決断を下す……それも盲信的に従ってきた親との決別を意味する決断をする場面が出てくるのではないかと気になっています。


 長くなりましたが、年明けの第一クール最終回も楽しみにしております。

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