【考察3】水星の魔女はホラー作品? プロット分析から考える今後の展開予想

 皆様は、水星の魔女スペシャル特番をご覧になったでしょうか。阿座上さん(グエルの声優さん)ナレーションののちょくちょくメタなネタが挟まるダイジェストは、かなり面白かったので未視聴の方は視聴をお勧めします。特にグエル好きな方は必見ですね。Youtubeのガンダムチャンネルでも無料で見ることができるようです。


 さて、今週は本編の進捗がないということで、最近私がカクヨムコンに向けた勉強用に読んでいる『ホラーの哲学』(※書誌情報は末尾に記載します)を基に、「水星の魔女」のプロット分析を試みたいと思います。まだ話が全体の1/4しか進んでいない状況でプロット分析は無理があるかもしれませんが、『ホラーの哲学』に記されたあるプロット形式が、「水星の魔女」にある程度当てはまるのではないかと感じたので急遽筆をとった次第です。


◆『ホラーの哲学』におけるホラーの定義

 ――モンスター=GUND-ARMが成り立つのではないか?

 『ホラーの哲学』にて分析対象となるホラー作品は、アートホラーと称されます。アートホラーの定義については、下記のように記載されています。


“わたしの仮説では、アートホラーは感情状態であり、そのうちでは本質的に、何らかの通常でない興奮の身体状態が、モンスターについての思考によって――作品や映像によって提示された詳細と関係しつつ――引き起こされる。またこの思考は、モンスターは危険であり、不浄であるという認知を含んでいる。”【第1章|p81】


 ここでは、特定のモンスターとしてドラキュラの例が示されています。


“わたしが、何らかのモンスターX、例えばドラキュラによって顕在的にアートホラーをいだくのは、次の場合でありかつ次の場合に限られる。(1)わたしは何らかの異常な身体的興奮(震え、ぞくぞくすること、叫びなど)を感覚する状態にある。(2)それは次のような思考によって引き起こされている――(a)ドラキュラは存在することが可能である。また次のような評価的思考によって引き起こされている――(b)ドラキュラはフィクションで描かれている仕方で身体的に(おそらく道徳的にも社会的にも)危険であるという性質をもっている。(c)ドラキュラは不浄であるという性質をもっている。(3)この際、通常これらの思考にはドラキュラのようなものに触れることを避けたいという欲求が伴っている。”【第1章|p67】


 ここまで読んだ際、私は水星の魔女に登場するGUND-ARMを、モンスターXに当てはめて考えることはできないかと思いました。すなわちGUND-ARMに搭乗した場合、通常では

(1)何らかの異常な身体的興奮(=データストーム流入による異常状態)を感覚する

(2)(a)GUND-ARMは「水星の魔女」の世界において存在する技術である

  (b)GUND-ARMは身体的に(道徳的にも社会的にも)危険であるという性質をもっている

 (c)GUND-ARMは不浄である(←データストームの存在から)という性質をもっている

(3)この際、GUND-ARMのようなものに触れることを避けたいという欲求が伴っている

といった具合です。(2)(c)はホラー作品に登場する種々のモンスターの不浄さと比べると少々無理やり感がありますが、人に害をなす存在と見なされている点は共通するでしょう。また「不浄」を辞書で引くと「心身の汚れていること」という意味もあるようなので、データストームで汚染された状態は「不浄」と表現しても差し支えないように思います。



◆「越境者型プロット」から見る水星の魔女

 前述したアートホラーの定義、より正確にいえばアートホラーで定義されるモンスターにGUND-ARMが当てはまるのではないかという考えに基づき、次の章に進みます。

 『ホラーの哲学』の第3章では、ホラーストーリーで特に頻出する物語構造として大きく分けて2種類のプロットを提示しています。ひとつが複合的発見型プロット、もうひとつが越境者型プロットです。前者の方がバリエーションが多く、具体例として挙げられている作品も有名なものが多いのですが、ここでは後者に着目したいと思います。


 越境者型プロットとは、下記のように定義されます。


“越境者型プロットは、禁断の知識――科学的知識であれ、魔術の知識であれ――に関わるものだ。こうした知識は、実験や、邪悪な力をもった呪文によって検証にかけられる。~(中略)~越境者型プロットの場合、科学の知識への意志が批判される。~(中略)~越境者型プロットで繰り返されるテーマは、神々(あるいは他の誰か)に委ねておいたほうがよい知識があるということだ。”【第3章|p264】


 水星の魔女に置き換えて考えてみます。モンスター=GUND-ARM自体はあの世界における科学技術のひとつですが、水星の魔女が「テンペスト」を典拠にしていることを考えると、一種の魔術としても捉えられそうです。作中でGUND-ARM開発者のことを「魔女」と称していることからもそれは伺えます。デリングによってGUND-ARMは開発を禁止されているため、禁断の知識といえます。エアリアルやファラクトの開発は、GUND-ARMの知識に基づく一種の実験です。ここでも、水星の魔女の世界観にプロット構造を当てはめて考えることができそうです。

 さらに、越境者型プロットの構造は、『ホラーの哲学』の中で下記のように定義されます。


“越境者型プロットの基本となる直線的プロット構造、あるいはその基礎となるファーブラ[※筆者注:物語の主題となる素材、時系列的・因果的順序を保持しつつ記述される出来事連鎖]の形式は、一般的に四つの展開によって構成される。

①実験の準備……主要登場人物が実験内容を説明/正当化する。この要素は、議論や論争という文脈に置かれることが多い

②実験……①に基づき実験を行い、部分的に成功する

③実験が失敗した証拠の蓄積……すぐに、実験が失敗したことが明らかになる。実験によって生み出された、あるいは他のかたちで存在するようになったモンスターは危険なものだ。モンスターは無実の犠牲者を殺し、傷つける。この種のプロットの標準的パターンのひとつでは、モンスターによって危険にさらされる可能性が最も高いのは、実験者の身近で親しい人たちだ。

④モンスターとの対決……モンスターによる死と破壊――多くの場合、越境者の愛する人に関わる――が越境者を正気に戻し、自らの創造物を破壊することを決意させる。”【第3章|p267】


 ここで記述される「越境者」をGUND-ARMの開発者、すなわち(水星の魔女本編では)プロスペラ及びベルメリアとすると、①~④の図式は容易に想像がつきます。まずベルメリアのほうから考えてみたいと思います。


――ベルメリア=越境者とする場合

①ベルメリアがペイル社に拾ってもらい、GUND-ARMの開発を認可される(本編において、なぜ開発が禁じられているはずのGUND-ARMを作る判断をペイル社が下したのか等の経緯はまだ明らかになっていませんが、このくだりは確実に存在するはずです)

②ベルメリアがGUND-ARMの開発および強化人士の開発を行い、「データストームに耐えうる強化人間を作ることで、GUND-ARMの欠点を克服する」ことには成功

③強化人士には使用回数制限があり、かつ任務に失敗した場合は使い捨ての駒として処分される。

④GUND-ARMが在るかぎり強化人士の処分は免れない。強化人士1~4号の処分などがベルメリアを正気に戻し、開発方針を改める(?)


 ④については作中ではまだ描かれず、憶測の域を出ません。しかしベルメリアは強化人士4号の助命をニューゲンCEOに嘆願していたので、強化人士の使い捨て処分については思うところがあるようです。ベネリット・グループの審問会にてGUND-ARMの廃棄命令が下されるorプロスペラのリークによってベルメリアが魔女だと露呈する等の手法によって、ベルメリアがGUND-ARM開発をできなくなる状況に追い込まれる可能性もありますが、ペイル社―ベルメリアサイドのGUND-ARM開発が今後どうなっていくかは注目ですね。

 では次に、プロスペラを越境者と見なす場合を見てみましょう。


――プロスペラ=越境者とする場合

①審問会にてエアリアルをGUND-ARMではなく「新型ドローン技術」であると誤魔化し、開発を正当化する(本編2話)

②エアリアルは決闘に立て続けに勝利(3勝)し、GUND-ARMが持つポテンシャルの高さを見せつける(本編1~6話)

③エアリアルが暴走、ないしデータストームを肩代わりしている何らかの存在(6話で少女のシルエットを取っていたガンビットなど)がスレッタの意図と無関係に動き、スレッタあるいは決闘相手、ないしスレッタの大切な人を傷つける(?)

⇒ここでエアリアルが赤目になる?

④エアリアルにより大切な娘が傷つくのを目の当たりにしたプロスペラは己の考えを改め、GUND-ARM開発方針を変え、復讐一辺倒だった行動原理を見直す(?)


 こちらは、③④がまだ本編で描かれていません。スレッタ目線からすれば、6話のエラン戦が③にあたる(超越的な技術を用いてエランに勝利したことで、結果的に強化人士4号が処分されるという結果になってしまう)かもしれませんが、プロスペラ目線としてはこれも復讐の一環であり、これまでも繰り返されてきたであろう強化人士の処分については何も思わないでしょう。


 しかし、越境者型プロットに則って考えるとするならば、③④で例示したような展開が今後待ち受けている可能性はありえます。「テンペスト」でも空気の精エアリエルを使って復讐を仕掛けていたプロスペローは最終的に敵を許すので、プロスペラも何らかのきっかけで復讐をやめるかもしれません。また今のところスレッタがエアリアルの戦闘絡みで傷つく描写はありませんが、6話でガンビットが少女のシルエットになったり、データストームの流入を肩代わりしている何らかの存在が示唆されていたりと今後、エアリアル暴走の可能性は十分あり得ます。その際、スレッタは何を思い、どんな選択をするのか。プロスペラはどこまでを復讐対象と考え、スレッタの感情をどこまでくみ取ってくれるのか。

 ベルメリアとは異なり、プロスペラの復讐は本編の本筋に関わってくるテーマだと思いますので、今後明かされていくでしょう。プロスペラの真の考え、エアリアルの開発プロセスをスレッタが知ることはあるのか。それらを知った時、彼女は何を思うのか。今後の展開から目を離せません。


◆おわりに

 アートホラー作品によく見られるとされる「越境者型プロット」を基に、今までのあらすじの整理、および今後の展開を予想してみましたが如何だったでしょうか。楽しい学園ものに見せかけて、プロスペラ目線で物語を追うとホラーになるかもしれないという作品の二面性には驚かされます。そもそも、prologueと第1話でかなりの温度差があったので、このギャップはきっと必然なのでしょう。

 水星の魔女、第一クール後半も楽しく、そしてプロスペラの復讐プランやエアリアルの開発経緯について戦々恐々としながら視聴していきたいと思います。今後とも宜しくお願いします。


◆参考文献

『ホラーの哲学――フィクションと感情をめぐるパラドックス』ノエル・キャロル(著)高田敦史(訳), フィルムアート社, 2022年

http://filmart.co.jp/books/jinbun/the-philosophy-of-horror/


⇒ホラー作品の定義から、「人はなぜ存在しないとわかっているはずのものを見て怖がるのか?」というホラーのパラドックスに対する回答、ホラープロットの構造、「なぜ不快・不浄な(=日常生活であれば避けるであろう)ホラー作品に人々は惹きつけられるのか?」といったテーマについて詳しく論じている本です。ホラー小説が怖くて読めないという方でも恐怖を感じずに読める内容となっています。

 上述したテーマが気になるという方は、是非お手に取ってみてください。

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