【考察2】水星の魔女の原典? 『テンペスト』を読んでみた
ネットで水星の魔女に対するコメントを拝見していると、シェイクスピアの戯曲『テンペスト』との類似性を指摘する声がいくつか散見されました。特に2話終了後、スレッタの母・プロスペラの名前が出た後にその傾向が顕著でした。
そこで、実際に『テンペスト』を読み相関図を作成し、物語の類似性や今後予測される展開などを考察してみました。
近況ノートに掲載の相関図はこちら↓
https://kakuyomu.jp/users/yuno_05/news/16817330648892098361
◆おおまかなあらすじ
戯曲『テンペスト』のあらすじを大まかに書くと、以下の通りです。近況ノートに貼り付けた相関図を見ていただくとより分かりやすいかと思いますので、併せてご覧いただきますと幸いです。
・ミラノ大公プロスペローは、実の弟アントーニオと政敵であるナポリ王アロンゾ―の結託によりその地位を追われ、娘ミランダと共に孤島に十数年間閉じ込められる
・プロスペローは孤島で魔術を習得し、先住民で魔女の息子であるキャリバンや空気の精エアリエルを使役することに成功する
・ある日、エアリエルの力を用いてナポリ王らが乗る船を難破させ、自らのテリトリーとしている孤島に3グループに分けて不時着させる
・グループ①ナポリ王子のファーディナンドは娘のミランダと恋に落ちるように仕向ける。グループ②アロンゾ―、アントーニオらのグループには不和や不安感が生じるように仕向け、プロスペローに対する仕打ちを反省するよう促す。グループ③賄い方のステファノ―と道化のトリンキュローはキャリバンと出逢わせ、プロスペローを狙うためつるむが島のあちこちに追い立てられ、ぼろぼろになる。
・グループ①~③の出来事にはすべてエアリエルが絡んでおり、ミランダ&ファーディナンドの婚約とアントーニオらを反省させることに成功したプロスペローは、自らのミラノ大公の地位を取り戻しアントーニオらの所業を許す
上記あらすじには書いていませんが、他にもナポリ王に仕える貴族やアントーニオに仕える顧問官などが登場します。詳しくは相関図をご覧願います。
◆「水星の魔女」との驚くべき類似性
あらすじを基に『テンペスト』の相関図を作成し、その下に水星の魔女版の相関図を作成したものが近況ノートに掲載した図版となります。こうして上下で並べてみると、あまりの類似点の多さに驚かされます。若干無理やりな部分もありますが、メインキャラクターである
プロスペロー=プロスペラ
空気の精エアリエル=GUND-ARMエアリアル
ミランダ=スレッタ
アロンゾ―=デリング
ファーディナンド=ミオリネ
はほぼ一致すると思います。よって、「水星の魔女」の製作陣が『テンペスト』を参考に作品作りを行っている可能性は高いといえるのではないでしょうか。そもそも、プロスペラとエアリアルの語源は、ここから来ていそうですしね。
なお、私が読んだちくま文庫版によると、プロスペロー=prosperoは「幸運・繁栄」を意味し、キャリバンからは語源通りprosperと呼ばれている。エアリエル=arielは聖地エルサレムを意味する聖書的な名前、あるいはUrielと解釈した場合、四大天使のひとりウリエルか当時の魔術(錬金術)にまつわる名前ともとれるとのこと。個人的にキャラクターやMSの名前の由来を調べるのは好きなので、こうした語源が明記されているとわくわくしますね。
◆今後のキーパーソン予想
さて、相関図に起こすと「水星の魔女」のほぼすべての主要人物が『テンペスト』型相関図の中におさまるのですが、その中でもまだ登場していない、あるいは存在が示唆されていない人物が何人かいます。彼らが今後登場し、それなりの役割を果たすのではないかと思いましたので、ここでは相関図で???となっている人物たちの立ち位置や動きについて予想していきたいと思います。
――プロスペラの直接の仇とその部下
まず、『テンペスト』ではプロスペローの直接の仇である実弟のアントーニオ。「水星の魔女」に置き換えて考えてもプロスペラの直接の仇にあたる重要人物なはずですが、この相関図でその正体は明らかになっていません。今のところ本作で仇として描かれているデリングは、アントーニオよりもナポリ王アロンゾ―の立ち位置のほうが近いと思いますので(子ども同士が婚姻関係になる点からして)、おそらくデリングとは別枠で存在するものと思われます。
他に候補として考えられるのは、ジュターク社のヴィムですが、彼はデリングに仕える立場で、かつ暗殺を企図する点、デリングとの関係性が近い点からアントーニオよりもセバスチャンに近いと私は考えました。プロスペラとヴェムの関係性は薄そうですので、それもヴェム=アントーニオ説を薄める根拠になるかと思います。
よって、私がアントーニオのポジションに当たると考えているのはカテドラル・ないしそこに所属しておりGUND-ARM開発を強硬に反対している人物です。カテドラルの代表者はデリングなので、デリングがアロンゾ―とアントーニオの二役を兼ねている可能性もなくはないです。しかし『テンペスト』にてアントーニオはセバスチャンにアロンゾ―の暗殺を教唆するなど、アロンゾ―に仕えつつも反発心をもつ存在として描かれるため、別に存在したほうが物語としては面白くなるのではないかと考えた次第です。
また、『テンペスト』ではアントーニオに仕えつつ、プロスペローの境遇に心を痛めている審問官のゴンザーローという老人が登場しますが、彼も水星の魔女の相関図に置き換えるならばカテドラルの直轄組織、ドミニコス隊のパイロットに当たるのではないかと思います。より具体的にいえば、ベギルベウのパイロットがここに入る気がしています。『テンペスト』ではプロスペロー・ミランダ親子にも忠誠心をもつゴンザーローが、「水星の魔女」でプロスペラ・スレッタ親子を水星に追いやったベギルベウのパイロットと同一視されるのは少し違和感があるかもしれません。しかし、見方を変えるのであればベギルベウのパイロットはGUND-ARMルブリスを“見逃して”います。デリングの命令に従うのであれば残さず殲滅すべきだったにもかかわらず、です。これは島流しにあったプロスペロー・ミランダ親子に心ばかりの衣料品や食品を持たせてくれたゴンザーローとの類似点として挙げられないこともありません。
そう考えると、アントーニオのポジションにあたるのはカテドラルの誰かではなく、ドミニコス隊の隊長という見方もできるかもしれません。いずれにせよ、このポジションの人物はプロスペラの復讐相手筆頭だと思うので、今後登場することがあれば要注目ですね。
――キャリバンのポジションにあたる人物
『テンペスト』においてプロスペローに仕え、物語の途中では裏切ろうとするキャリバンは、様々な属性をもつ存在です。以下、具体的に列挙すると
・魔女の息子
・(プロスペローからみて)孤島の先住民
・ミランダを襲おうとした怪物
・プロスペローに忠誠を誓う
・ぽっと出のトリンキュローに忠誠を誓う
・プロスペローを裏切ろうとする
などが挙げられます。私は、キャリバンと完全に同一視できる人物が「水星の魔女」に登場するとは考えにくいと思います。なぜなら、キャリバンの属性を水星の魔女に置き換えた場合、少なくとも二人以上の人物に属性が分有されると考えるからです。実際に、上記属性を水星の魔女に置き換えた場合、
・魔女の息子→スレッタ(魔女の娘)
・孤島の先住民→水星の先住民たち/シン・セー開発公社の前CEO
・ミランダを襲おうとした怪物→未出(スレッタを狙う存在が今後出てくる?)
・プロスペローに忠誠を誓う→未出(水星の協力者の可能性大)
・ぽっと出のトリンキュローに忠誠を誓う→未出(トリンキュロー自体が未出)
・プロスペローを裏切ろうとする→未出(水星の内部抗争が起きる?)
となります。つまりスレッタと水星にいるプロスペラの協力者の二人は確実に存在するものと思われます。
prologueにおいてGUND-ARMルブリス及びそのパイロット=魔女と呼ばれていたので、スレッタは魔女というより魔女の娘といったほうがしっくりくるかと思います。また、prologueや「ゆりかごの星」の感想にも少し書きましたが、プロスペラが現在の地位まで上り詰めるには、水星に元々いた権力者が彼女に協力的である必要があります。その人物こそ、キャリバンのポジションに最も近い人物となるでしょう。もっとも彼(or彼女)にキャリバンの属性が多く付与されると考えると、登場するなり「この人そのうち裏切りそう」と思ってしまいそうですが。とはいえキャリバンは『テンペスト』では道化のような役回りなので、「水星の魔女」が『テンペスト』に忠実であるならば大事には至らないでしょう。その辺りは製作陣がどれだけアレンジしてくるかわからないので、何とも言えませんね。
◆プロスペラはどういった形で復讐を成就させるのか?
『テンペスト』においてプロスペローは、空気の精エアリエルを用いて幻術を見せたり、眠らせたり起こしたりして孤島に流れ着いた一行をマインドコントロールし、自らに対する仕打ちを反省させます。また、同様にエアリエルを用いてミランダとファーディナンドを結び付け、自らの復権を図ります。これらの目論見はいずれも成功し、復讐は果たされます。では、「水星の魔女」におけるプロスペラの復讐は如何なるものとなるのでしょうか。
今のところ、スレッタが自らの刃であるエアリアルを用いて決闘に勝利し、ミオリネの婚約者となるところまでは成功しています。あとはデリング以下、モビルスーツ開発協議会の面々(=御三家CEO)を反省させ、GUNDフォーマットおよびGUND-ARMの存在を認めさせることがプロスペラにとってのゴール(復讐成就)になるように思われます。『テンペスト』でエアリエルを使い幻術を見せていたプロスペローですが、「水星の魔女」のプロスペラも同様に、GUND-ARMエアリアルを用いてデリング以下を翻弄し、GUND-ARMが他のMSより性能面で勝っていると認めさせることができれば、ベネリット・グループの幹部がプロスペラに屈したとみることができるのではないでしょうか。
4話終了時点でエアリアルはグエル(=ジュターク社)に二勝しているので、ジュターク社のMSに対しては優位性を見せています。あとは残りの御三家の二社+カテドラル(ドミニコス隊)のMSに勝利することが、プロスペラの復讐条件になるように感じられます。とはいえ現時点でエアリアル=GUND-ARMとばれると廃棄処分待ったなしなので、ネタばらしはベネリット・グループのあらゆるMSに勝利した後になるでしょうが。
そこまで考えた際に、気になるのはスレッタの意志です。『テンペスト』と「水星の魔女」の最大の違いは、前者ではプロスペローが直接エアリエルに命令し従わせているのに対し、後者ではプロスペラの娘であるスレッタに、エアリアルの操縦権利が委ねられている点です。つまり、いくらプロスペラの思惑が復讐にあったとしても、スレッタにその気がなければエアリアルは言うことをきいてくれません。話の流れからしてスレッタが御三家の強MSとどんどん戦う羽目になったとしても、それを操縦するスレッタはどう考えるのか、は今後の物語においてキーになりそうです。「水星の魔女」の主人公はあくまでもスレッタですから。彼女が母の復讐心に気づいた時何を思い、どういった選択をしていくのかが物語中~後半の見どころになるような気がしています。
◆さいごに
『テンペスト』は文庫本で160ページちょっとの分量なので、普段文章を読み慣れているカクヨムユーザーの方であれば難なく読破できるかと思います。図書館などで簡単に手に入りますので、興味を持たれた方は是非手に取ってみてください。
近況ノートに掲載の相関図はこちら(再掲)↓
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