第4話 すれ違い

「お父さん」


凛と父親は珍しく、平日に自宅で夕食を取っていた。


「どうした、凛。困った事でもあったのか?」


杏を自分の近くに置きたい。

凛は困っていた。

杏にとっては子供が一番だ。だから…。


「杏と子供を、住み込みでお願いしたいんです。仕事中には乳母に見させて。杏は、夜は食事を取らずに直ぐに帰ってしまうんです。これでは、お父さんの望む話し相手にはなれません。」


「わかった。ただ、本人に聞かないと契約出来ないからな」



週末の夜、凛にとって残酷な事が父親から告げられる。


「お父さん、どうでしたか?」


「それがな、杏さんは子供とだけの時間が欲しいそうだ。仕事とは別の時間だそうだ。杏さんの事がえらく気に入っているようだが、この件については諦める事だな」


「そんな…」


膝から崩れ落ちるような感じがした。


上手くいかない。


凛が社会的に、頂上まで上り詰めるのも間近。

かたや、低学歴で母子家庭であり、就職先も探すのに困難な杏。

どちらが負けていて、どちらが勝っているのか…。


凛の頭の中は、杏の事でずっといっぱいだ。

杏は学歴を除けは頭の回転が速いので、常に杏がリードしているかのように苦しめる。



それから毎日、凛は杏の夢を見るようになった。

杏と再び友達になる夢。

そして、杏とエッチな事をする夢。

凛は、自慰をしても自慰をしても、満たされない日々が続く。

杏が直ぐそばにいても全く満たされない。凛は肉体的に限界を感じていた。




後日。

大学は冬休みに入り、凛は家にいることが増えた。


「寒い…」


掃除を手伝っていた杏は、荒れた手を摺り合わせた。


「杏ちゃん」


掃除担当のヘルパーさんが、呼びに来た。


「どうしました?」


「凛さんが自室で呼んでますよ」



凛ちゃん?

珍しい事もあるものだなと、杏は思った。自室に誰かを招く何て聞いた事がない。


あのことは悪かったなと杏は思った。

住み込みで働かないかと、凛の父親から打診があったが、少しの時間で良いから子供と一緒に居たかった。


杏は変わってはいない。のんきで優しいままだ。

変わってしまったのは凛のほう。

子供の頃も凛は気が強くて賢かったが、どこかこう、温かかった。凛はやたらとスキンシップを求めてきたが、普段とのギャップがあって可愛かった。


凛と杏はすれ違っている。

凛は苦しみ、杏は恵まれた生活を送っていた。










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