4  高飛びした男





ウインザー・ドルリアンは三週間前にこの地球に来ていた。

いわゆる高飛びをしたと思われている。


実はこの男、一年ほど前に火星政府へ詐欺を働いた犯罪者だ。


政府関係のコンピュータにハッキングし、大金をせしめた。

それがなぜ犯罪として公にならなかったのか分からないが、

ダウザーへ極秘に依頼が来ているのを見ると何かやばい事があるんだろう。

そのせいか報酬額もやたら高い。


ドルリアンは地球に入国したまでは確認されているのだが、

その先がまだはっきりつかめていなかった。

少しでも情報が欲しいと思っていたところにこの話だ。

ちょっと運が向いて来たのだろうか。


「ところでベルツ、何か情報はあったの?」


アイリスは領事館に電話をしていた。


「知り合いの情報屋に当たってみたよ。

でもどうも火星マーズギャングがらみの話みたいで、

そのギャングの所に転がり込んでいるようだ。」

「あの子、ウインザー・ドルリアンと一体どんな繋がりがあるのかしら。

何かに使えないかしらねぇ。」

「使うって何にだ?」

「女の子が探してると言うネタを流してとか……。」

「止めとけよ。あの子が危ない目にあうかもしれんぞ。」

「でもねえ、立っているものは親でも使えって言うでしょ。」


この人の良さそうな小太りのおっさんは、

こんなとんでもない事を考えて彼女の提案を受けたらしい。


「パスポートの連絡はこちらにしてもらえるそうです。」


無邪気な顔でアイリスはにこにこしていた。


「あらそう、良かったわねー。」


キューサクも底抜けの笑顔で言った。


「ところでアイリス、さん、」


キューサクの豹変ぶりに何となく気まずい俺は彼女に聞いた。


「アイリスで結構よ。」

「パスポートを申請したら本国に連絡が行くんじゃないのか。」

「きっと誰も探しにこないと思うの。

私がいないほうが都合の良い人が多いから……。」


しかし、それを聞いたキューサクはえっと叫び、


「ちゃんとお金はあるんでしょうね。

後になって無いじゃこっちも困るのよ。」

「大丈夫。結構へそくりを持っているの。こっそり貯めていたのよ。」


と、彼女はにこにこ笑っていた。

こっそり貯めるなんて子供じゃあるまいし、

一体どれぐらい持っているのだろう。


でも俺はこの火星訛りのある女の子に少し愛着を持ち始めていた。

自分と同じ故郷だと言うこともあるが、

どこか人を楽しくさせる雰囲気があった。

いずれ無事に火星に帰してやろうと言う気持ちだった。


キューサクはどう思っているか分からなかったが、

少し人が悪くなっている俺だが、

普通の人には手を出さないのが俺の主義だ。


その時突然俺の電話が鳴った。


『ベルツ、いるか?』


相手はさっき会った知り合いの情報屋だった。


『さっきの話の続きだぜ。三十万リグでどうだ。』

「高い。」

『じゃあ十五万リグだ。その価値はあるぜ。』

「話次第だな。」

『へへっ。ドルリアンだがパルプのビルにいる。で、近々動くぜ。』


パルプと言うのはマーズギャングの名前だ。


『ドルリアンはどうもパルプを脅しているらしい。』

「何かネタでもあるのかな。」

『パルプは誰でも知っているギャングだぜ。ネタはいくらでもあるだろうさ。

ただ普通はすぐ殺されちまうだろうがまだ生きてる。

でかいネタなのかもなぁ。』

「分かった。パルプのビルの場所を教えろ。

そうすれば二十万リグ振り込む。」

『毎度!場所は…。』


長い付き合いの情報屋だから間違いないだろう。

明日から張り込みになる。

ちょっと相手がやばいが、上手くいけば捕まえられるかもしれない。






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