3  探し屋





二十世紀の終わりに始まった宇宙開拓は、

ハイパー・メディションと言うワープ宇宙航法が開発された事で

ここ五十年あまりで爆発的に進んだ。


太陽系は木星の衛星ガニメデ、イオまで入植が進み、

今は土星の衛星に入植のため研究者が住み始めた。


世界は広くなり過ぎた。

かと言ってまだまだ宇宙旅行は大変だ。


そんな宇宙をあちらこちらにかけずり回って、

委託されたものを見つけ出すのが「探し屋」の仕事だ。

俺はそのような仕事を総合探索業務会社「ダウザー」から

委託されるエージェントの一人だ。


エージェントと言えば聞こえは良いが、

俺とキューサクは正社員でなく外注で、

報酬は成功しないともらえない悲しい立場なのだ。


捜し物は物だったり、動物だったり、人だったり色々ある。

たまには表向きには出来ないが警察から委託される事もある。

そういう危険な仕事は大抵俺達のような外注に任される。

実は今回もそんな仕事だった。


「あーら、何か急な連絡みたい。ごめんなさいね。」


それはダウザーからの情報だった。

情報は優先的に入るようになっていて、

それがたまたま彼女が電話を掛けようとした時に入ってきたのだ。


キューサクは脳天気な声でくるりとピュータを自分のほうに向けた。

隠すわけじゃないが警戒されても困る。


「その人、どうしてそこに出ているの?」


彼女の顔は真っ青だった。


そのダウザーからの情報は、

いま俺とキューサクが追っているウインザー・ドルリアンと言う男の情報だった。


その情報は極秘だった。

警察関係と俺達のようなダウザーの極僅かなエージェント以外は

まず知らないはずだ。


「私はその人を探しに地球に来たの。」

「あんた…、もしかして同業者?」

「何か知っているならどうか教えて下さい。」


彼女の目は必死だった。その様子はどうも同業と言う感じではない。


「……。」

 

キューサクは何も言わなかった。

守秘義務も仕事のうちに含まれるからだ。

人に喋ったとばれれば仕事を首になるどころか犯罪者になってしまう。


「お願い!」


俺はキューサクと目を合わせた。

彼を知っているのなら何かの情報を持っているかもしれない。

それに家出娘かどうか分からないが、どうも彼女もすねに傷持つ者らしい。


俺は決心した。


「俺達は探し屋だ。言っておくが善良な、だぞ。

その情報はダウザーからの情報だ。

俺達が地球に来たのはそのウインザー・ドルリアンを探すためだ。」

「探し屋……。」

「詳しくは言えないんだけど、

この男を捕まえてある所に連れていかなくてはいけないのよ。」

「まあ、俺達は別情報だけでも分かればと思っているんだが、

アイリス、どうしてあんたはこの男を知っているんだ?」


彼女は口ごもった。


「喋らないなんてずるいわよ。あたし達はちゃんと話したんだから。」

「……ごめんなさい、どうしても言えないの。

でもお願い、私も一緒に連れていって。

もしかするとその人に会えるかも知れないんでしょ?

私はどうしても会いたいの。」


一体この女の子にどんな事情があるのだろう。

突然舞い込んだ話に俺は訳が分からなくなった。

彼女をほうり出した方がいいんだろうか?でも……。


「パスポートさえ戻ればカードも再発行出来るから、

お礼が払えるかもしれないわ。」


ちょっと狡そうに彼女は言った。


「お金って言ったって、ちゃんと持ってるの?」


疑わしそうにキューサクは彼女を見た。


「大丈夫。絶対にあなた達が満足出来る額が払えるわ。」

「あんた金持ちなのか?」


とてもそうは見えない若さだ。

でもびっくりするような答えが帰ってきた。


「そうよ。私はお金持ちなの。」


信用出来るか、出来ないか。

しかし、彼女が身につけている服やペンダントはちょっとしたものに見える。

キューサクは値踏みするように彼女を見てから、

ぱちっと指を鳴らして言った。


「分かったわ。必要経費プラス人件費。

相手に会えたら成功報酬ももらうわよ。そう、宿泊代と食費もね。

分かった?怪しいお嬢さん。ただし何かあったら分かってるわね。

身ぐるみ剥ぐわよ。」

「ええ。その代わりちゃんと働いてね。怪しい皆さん。」

 

おいおい、いいのか?こんな簡単に決めちゃって…。






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