2  アイリス・ワーズ





「三日前に荷物が全部盗まれてしまったんです。」


アイリスはぺろりと料理を食べた後、話し出した。


「一週間前に地球に来てホテルにいたのですが、

三日前に荷物を盗まれてお金も払えなくて追い出されて……。

領事館にも行きましたが、

パスポートが発行されるのに五日かかるって言われて、

仕方なく空港で寝泊まりしてたの……。」

「じゃあ三日も空港にいたの?」

「ええ。知っている人もいないから……。」

「それなら火星に連絡して金を送ってもらえば良かったじゃないか。」


俺が言うと彼女は口ごもった。


「……ちょっと今は事情があって連絡出来ないの。」

「あんた、幾つだ。」 

「二十才です。」


本当かどうか分からないが、見た目は未成年だ。

もしかすると家出娘かもしれない。

俺とキューサクは目で合図をした。

親から捜索願いでも出ていれば、謝礼がもらえるかもしれない。


「で、どうするの?パスポートがもらえるまでまだ二日あるんでしょ?」


キューサクはにっこりと笑って聞いた。


「女の子一人で空港にいたなんて、ほんとに危なかったのよー。

良く無事でいられたわね。

このままあなたを帰すなんて心配で出来ないわ。

良かったらこの船にいてもいいわよ。」

「でも……。」


俺もとびきりの笑顔で彼女に言った。


「空港でずっと過ごすなんて本当に危ないぜ。

何もしないから安心しな。

俺も火星生まれだから、同郷のよしみと言うやつだ。」


彼女はあっと言う様な顔をしてからにっこり笑った。

その素直な笑顔は下心ありありの俺の気持ちを

少し恥ずかしくさせるのに十分だった。


「あたし達もしばらく地球にいるから、

パスポートが出来たらここに連絡してもらいなさいよ。

さあ、領事館に電話しなさい。」 


キューサクはピュータの端末を彼女の前に出した。

これ一台でテレビも通信もコンピュータ分析でも何でも出来る、

一家に一台、必需品ってやつだ。


彼女が触れるか触れないうちに

ピュータの画面にはぱっとある男の顔写真が写った。


それを見た途端、彼女の顔は凍り付いたようになった。




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