最終話 逢魔時《おうまがとき》と彼《か》は誰時《たれとき》

「マギヤ、ほんとにヴィーシニャのこと、なんだと思ってるの?」

 帰り道、ホテルでトロイノイが一度失神したほど衝撃的な、あのノートのヴィーシニャの絵等を受けて、トロイノイはマギヤに尋ねる。


「そりゃあ、聖女だと思っていますよ」

「……マギヤにとって聖女って何?」

「純白がよく似合う、身も心も清らかで美しい人でしょうか」

 純白……確かに精液も白いけども……。


 トロイノイが次の質問とマギヤの回答予想を考えていると、マギヤが急にトロイノイの首を絞めようとしてきたので素早く避ける。

 またマギヤが首を絞めようと仕掛けてきたのでまた避ける。

 仕掛けられては避け、仕掛けられては避けを繰り返し、二人は聖女邸の門前まで帰ってきたが、未だ決着は付かない。


 女子班員で一番の実力者たるトロイノイといえど、相手は男子、もっと言えば男子班員で実質一番の実力者たるマギヤ。

 長引けば体力面魔力面ともにトロイノイが不利になる。


「マギヤ……今何が見えてるの?」

「今? 裸一貫のくせにちょこまかと私から逃げる貴方が、ヴィーシニャさんが見えますが?」

 トロイノイは自分とマギヤ以外で近くの人の気配を探知するが、聖女邸内以外に人はいないと出る。


「……そのヴィーシニャさんになにする気?」

 マギヤはその質問に一瞬止まりつつも、こう答える。

「……首を絞め殺そうかと」

「どうして? 絞め殺したらマギヤはどうなるの?」

「……絞め殺すは言い過ぎました。けど、貴方を絞められたら私はすごく嬉しくなる。

 ウリッツァは優しいから貴方に頼まれたとしても、そんなことに応じないでしょう?

 でも、私なら応じられる、貴方の願いを叶えてあげられる。そして私も満たされる。

すごくwin-winだと思いませんか?」

 狂気あふれるゆがんだ笑顔で目の前の相手に語りかけるマギヤ。


「今は絞めないでほしい……って言ったら?」

「もちろん絞めませんよ。あ、でも……その代わり、膝立ちになって目をつぶって唇を巻き込んで口を開けて待って――」

 そう言いながらマギヤは、おもむろにズボンのベルトを外そうとしたので、トロイノイは「やめなさい」とベルトを持ったままのマギヤの手を止める。

 あれ? と目をパチクリさせてるマギヤが余計なことを考えつく前に、トロイノイはさっさとマギヤと聖女邸に入った。



 聖女邸に帰ってきて手洗いうがい等済ませたマギヤとトロイノイ。

 で、今マギヤは、そのトロイノイの顔や頭に、やたらふにふに、すりすりと触ったり撫でたりしてくる。


「マギヤ、そんなにあたしが珍しい?」

「いえ、そんなことは」

 なおも触り続けるマギヤに、トロイノイが少し不快そうに「……とりあえず、手ぇ止めて?」というと、マギヤはそれに従って、トロイノイの顔から手を離す。

 ……空中に手をやってるのが落ち着かなかったのか、マギヤは自分の両手をトロイノイの肩にそっと置く。


「マギヤ、あんたヴィーシニャについて考える時間が多すぎるんじゃない?

 タケシやメルテルや、ウリッツァやプリストラにも聞いたけど、当番じゃない日も望遠魔法使ってまでヴィーシニャをガン見したり、監視魔法でヴィーシニャを探ったりしてるときがあるって。

 ……マギヤのお母さんのこともあって、聖女が、ヴィーシニャが心配なのは分かるけど、マギヤに必要なのはヴィーシニャ以外のことを考える時間じゃない?

 ヴィーシニャのことを考えるたび、変な方向に向かってるとこあるし」

 それから……とトロイノイが言うことに詰まらせていると、マギヤはトロイノイを抱き寄せてきた。

「こら、マギヤ! まだ話の途中!」

 トロイノイがマギヤの腕の中で、もがいたり暴れたりするにも構わず、マギヤはトロイノイを抱く力を強めて、うっとり呟く。

「トロイノイ、大好き……」

「……うん、それはそれとして、離して、それか離れて?」



 トロイノイの言葉が本当は聞こえてたのか否か、その翌日からマギヤは変わっていった。

 ウリッツァ班でヴィーシニャにあげたペンダント……にかけられていたマギヤの監視魔法が捉えた映像やら音やら位置情報やらを、マギヤしか閲覧や把握出来なかったのがマギヤが認めた日常警護班各員にも出来るようになった。

 本人曰く、今までこの設定にするのをすっかり忘れていた、とのこと。

 初回一年があれだったとはいえ、一年以上は忘れすぎである。


 あと、仕事時とそれ以外を切り替えられるようになった。

 当番じゃない日はヴィーシニャのことをあまり考えないよう、タケシにおすすめの娯楽がないか聞いてみたり、弓道に真剣に向き合ったりしている。


 それから、マギヤとヴィーシニャの二人きり禁止令が再びしかれつつも、ヴィーシニャ以外にうちこめるように本来の給料が、生活費以上の給料が出るようになった。

 恒常的な時止め対策装備の研究再開や、対策ゼロよりマシとトロイノイが時止めを会得――止まった時の中を認識したり動いたりできるのは神や強力主人公補正等その加護を持つ者以外だと時止めを使えるもののみ――してきたり、マギヤないし時止め使用者が好き勝手できないよう聖女親衛隊も進化してきてる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マギヤの女子に関する記憶全部消える(仮) 霜月二十三 @vEAqs1123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ