第6話 視線とネクタイと二進指数え法
見られている。ものすごい見られている。
トロイノイは今、マギヤにものすごく見られている。
視線が物体となって相手に当たる魔法薬等がマギヤにかけられてたら、トロイノイの体のあちこちにタンコブとかが何個できるか分からないぐらいである。
マギヤの視線の圧があまりにすごいので、トロイノイは率直に、何? と問いかけてみた。
「……ネクタイ、歪んでます。……整えましょうか?」
トロイノイがそう言われて自分の制服のネクタイを見る。
トロイノイとしては言われるほど歪んでる気はしなかったが、マギヤが言うのなら整えてもらってもいいかと思い、じゃあお願い、と承諾する。
マギヤがトロイノイのネクタイを持った直後、数秒程そのままでいたが、気を取り直し、粛々とトロイノイのネクタイを整える。
「ありがと、マギヤ」
「……どういたしまして」
それから三日程経った日の放課後、トロイノイはマギヤに呼び出され、体育館棟裏に来た。
トロイノイが自分を呼び出した用件を聞くと、マギヤは息をやや荒らげながらこう答えた。
「ネクタイを整えたあの日から、貴方のことで頭がいっぱいなんです。……どうしたらいいでしょう?」
トロイノイは悩む。
トロイノイがマギヤに、自分が恋人と言わないでいた理由は、マギヤが異性の記憶を無くす少し前、トロイノイを猫のように過度に可愛がり、人前でトロイノイと交尾しようとしかけたりで、かなり困惑したからである。
のちに、マギヤは、あのときの自分が正気でなかったことや、その時のあれこれを、最敬礼&眼鏡を外しての土下座で、トロイノイに謝った――それからマギヤがトロイノイの靴を舐めようと、あるいはトロイノイに蹴られようとしたが、それはトロイノイが止めた――。
トロイノイが意を決して、マギヤに、自分とマギヤが付き合ってることを伝えようと顔を上げたら、トロイノイの前にマギヤがいなかった。
いや、いなかったは不正確だし不誠実だ。
マギヤは、いつの間にか、うつむいて体育館棟裏の壁前に座り込んでいた。
トロイノイが、マギヤ? と顔を確認すると、目は開いてるがなんだか虚ろで、か細く「あぁ……」と呻くマギヤ。
開いてるマギヤの手を持ち上げ、じゃんけんのパーに勝つ手やって、と言っても指を動かさず、あぁ……としか答えないし、手の位置を変えて、あたしの手握ってと言っても、やはり、あぁ……と言いつつも動かないので、
トロイノイがマギヤの頬をペチペチしたり強めにつねったりしても、手どころか眉すら動かない。
医務室まだやってたっけ、と、やや焦り気味に呟きながらトロイノイはマギヤを連れて聖女邸の医務室前に
結論、やってたので事情を説明し、マギヤの意識覚醒を待つことになったトロイノイ。
しばらくするとマギヤが頭をトロイノイに向けて「あの……」と声をかける。
「あ、マギヤ! ここがどこか分かる?」
するとマギヤは部屋を見渡し「聖女邸の医務室ですか?」と答える。
「九足す九の答えを、小指を一とした二進数で示して」
「えっと十八ですから十六と、二の……こうですね」
そうマギヤが答えるとトロイノイは、よかった……! と寝てるマギヤに抱きつく。
でも、即座に「あ、ごめん!」と離れるトロイノイ。
「……離れなくていいのに。だって私達、恋人同士……ですよね?」
「え、マギヤ、記憶戻ったの……?!」
「……トロイノイのことだけ、ですけど。……一度医務室を出ましょうか」
二人は医務室の人に挨拶した後、医務室を出る。
出てすぐ、マギヤはトロイノイに、こっちを向くよう頼み、トロイノイがそれに応じると、マギヤから抱き締めてきた。
十数秒後、マギヤは少し離れて、トロイノイの頬に手を添え、微笑みながらこう言う。
「これから離れてた分も含めて、いっぱい愛し合いましょう?」
その言葉を受けてトロイノイが目を閉じると、マギヤはその瞼に口付けた。
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