第40話
40
○メイファン姫
「折り入ってのお願いとはなんでしょうか」
リンリーの部屋に、カシム、マリク、リンリー、メイファンがいた。
「はい、その前に、私の事情を説明させてください」
メイファン姫の話によると
エミール国は、度々北のモンコクに脅かされ、戦争寸前の状況だったという。
1ヶ月ほど前のこと、急ぎ戻った偵察隊からの情報により、モンコクから、エミール国に3人いる姫の内、1人を側室に差し出せと書かれた新書が届くという知らせが入ったのです。
姉たちも私もモンコクへは行きたくない、絶対嫌だった。
上の姉は恋人と即結婚し、下の姉も想い人を説得してお金を積んで結婚しました。
私は相手がいないため、病気療養で南路の遠縁に預けていると言うことにしたのです。そのため、国を出ました。長い旅でした。
途中、世話をしてくれていた若い侍女が怪我が元で亡くなり、苦しい旅の上に、家臣は道に不案内で、絹の道から外れ進むうちに、ここまできたのです。
リンリーは、看病中にその話を聞き、自分の身の上話をして、お互い慰め合いすっかり打ち解け、友達になったと言う。
カシムも、マリクも、ここ最近、いつも2人寄り添い、まるで姉妹のようだったなと思い返す。
「カシムさま、私をここに置いていただきたいのです。お願いします」
えっ、と驚くが、マリクは自身も居候だから何も言えない。
カシムは、うーんと、考え込んでいる。
3人は、カシムを見る。
えっ、僕、というような顔をする。
「私も少し剣術を習いました。ほかにも、料理も、刺繍もできます、お役に立てることをみつけて働きます」
メイファンが言う。
リンリーが
「カシムさまのお嫁さんなんてどうでしょうか」
とんでもないことまで言う。
「メイファンさん、お供の家臣の方々はどうするつもりですか」
「それは考えております。家族の元に戻してあげたいので帰国させます」
旅の途中で付き添ってくれていた侍女が亡くなったこともあり、難儀な旅を続けることにも無理があると考えていたらしい。
「でも、それでは、メイファンさん、あなたが心細いのでは」
カシムが続けて聞く。
「いえ、末っ子ですが、独立心があるんですよ。大丈夫です」
「そうです、私もいますから」
リンリーが言う。
しばらく考えていたカシムが
「わかりました。メイファンさん.ここに残ることを許可します」
と言う。
「でも、一つ条件があります。
今は良くても、この先どうするのか、それは、マリクも、リンリーも同じです。
3人とも、身を立てることを考え、お金を得ることを考えながら、定期的に話し合いをしながら、仲良くやりましょう」
「わあ、良かった」
「嬉しい、カシムさま、ありがとうございます」
メイファンもリンリーも抱き合って喜ぶ。
マリクも、あまりの正論に納得して、メイファンの願い通りにしたことに、懐の深いやつだとまたカシムに感心する。
そして、リンリーの喜ぶ顔に、こいつ、やはり寂しかったんだなと改めて想う。
良かった、と、じっとリンリーだけを見つめていた。
翌日、リンリーの隣の空き部屋にメイファンが移る。
甲斐甲斐しく手伝うリンリーも、メイファンも、嬉しさを隠せずにいる。
お互い、北部の出身だから、言葉もほぼ同じで、知っている歌にも共通があるらしく、2人で片付けをしながら、楽しそうに歌う声が響いていた。
翌日、エミール国のキャラバンが出発する。
年配の家臣は、メイファン姫に、文は必ず書くこと、帰りたい時はいつでも迎えにきますと言い残して別れる。
メイファンは、キャラバンが遠く消えて見えなくなるまで立ち尽くして見送っていた。
カシムが誘い、剣術の練習に参加し、リンリーに指導を受けるメイファンは基本はきちんとできていた。
剣士にならなくとも、護身のための剣術は必要だと練習に励む。
お礼がしたいと、熱心に刺繍をして、剣の形に針を通した匂い袋を渡し、カシムを喜ばせる。
リンリーとともに、アルム宮殿内の仕事を手伝い、問題なく過ごす日々が続いていた。
カシムは、自分でもよくわからない感情に戸惑っていた。
鈍いからわかっていないだけで、実は、一目惚れしていたのだ。
メイファンが妙に気になり、正直なところ、ここに残ったことも悪い気はしなかった。
しかし、しばらくして、悪夢のような知らせがカシムの元に届いた。
エミール国が、北のモンコクに攻撃され、滅びたというのだ。
元々時間稼ぎに過ぎなかった和平の提案を渋られ、痺れを切らし、それを理由に襲撃し、一族郎党惨殺されたという。
悲しいかな、メイファンの姉たちの回避策も何の意味も持たなかったということだ。
キャラバンの家臣たちが戻った後か、その前かも不明だ。
カシムは、どうしてよいかわからない。ここにはメイファン姫がいる。
1人残されたメイファン姫にどう話そうかと思い悩んでいた。
リンリーに先に話そうかとも思ったのだが、人を介さないで話した方がいいと思い至る。
「メイファンさん」
午後は部屋にいるだろうと声をかける。
「ちょっといいかな」
「はい、どうぞ」
メイファンは浮かぬ顔をしているように見える。
「どうかされましたか」
「はい、少し昔を懐かしんでおりました」
「お寂しいですか」
「いえ、そんなことは。楽しかったことばかり思い出しておりました」
こちらを見て微笑む。
カシムは、これから告げねばならない話をどう切り出そうかと戸惑っていた。
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