第12話

○出会い


 「お父さま」

ユーリが飛びこんでくる。

勢いでバランスを崩し、座り込む。

きっ、と顔を上げ

「お父さま、お母さまは生きています。見えたんです、お母さまが」

息を弾ませ、一気に言い切る。

その目は潤んでいた。

肩を震わせながら、じっとタジルを見ている。


タジルは、この娘には知らせておくべきだと思った。

なぜなら、幼い頃から、とっぴな行動をしていたが、それは何か霊感のような、第六感を持っていると感じていたからだ。

感じるものがあったのだと、理解する。


「ユーリ、秘密にして悪かった。

そうだよ、お母さまは生きているんだ。

実はね、手紙が届いたんだよ。

今は、サリという町に、ムサとともにいる。すぐには無理だが、戻る準備をしている」

「やはり・・・」

声にならない。

ユーリは、安堵して泣いた。


 ミーナは嫌な予感がしていた。

中央政府の皇帝が、配下各地を巡る途中、天山南路のすぐ近くまで遠征し、西軍将軍がタスクル国を調査したこと,

タジルの手紙で知るが、それだけでは終わるはずがない。

一体何を仕掛けてくるのかと思いを巡らせていた。

この度のタジルからの手紙には、ミーナを気落ちさせることも書かれていた。


『キル国ナスリ王の娘、ハンナを側室に迎える。昨年、友好の証として提案され、この情勢ではそれもありだと受け入れていた。引き伸ばしていたが、9月に婚儀を行う』とのことだった。


タジルの手紙に関しは、必ず、ムサに内容を伝えているが、今回は、なかなか伝えづらい気持ちでいた。


 ある日、ムサから

「この間の手紙では何か、特別なことはなかったの」

「あ、ごめんなさい。遅くなったけど」

と、中央政府の皇帝と西軍将軍の動向を話す。

ムサも、アビルの手紙でおおよそ知っていたので、この先何が起きるかと、危惧していると話す。


そして、もう一つ。

昨年から、友好の証として、キル国ナスリ王の娘、ハンナを側室に迎えることが決まっていたため、9月に婚儀を行うことも伝える。

ムサの顔色が一瞬に変わる。

急ぎ足で部屋を出る。

何事かと、首を傾げるミーナ。


ムサは、息苦しいほどのショックを受けていた。

ハンナが

まさか、しかし。

逃げるように別れ、その後なのか。


ムサの忘れられない娘は、ハンナだったのだ。


後ろから、ミーナが近づいていた。

ムサは気づかない。

バシッと、腰に、ミーナの剣のさやが当たる。

「一本!すきあり。

真剣だと死んでたわよ」

ミーナは笑う。笑ったが、なんだか妙な雰囲気を感じて固まる。


「姉さん、やめてくれよ」

ムサが、苦しんでいる、男泣きに泣いている。

「もしや、ハンナを知っているの」

ミーナは、瞬間的なひらめきで言ったのだが

「知っているどころか、想い人なんだ。愛してるんだ」

驚いて言葉も出なかった。


 「お母さまはやはり生きている。

また、きっと会える」

ユーリは、草原をシリウスに乗り駆ける。

従者はかなり遠方に見えてはいたが、その距離を保って近づかないでと、強く言われ遠くから見ているだけだった。


ユーリ!ユーリ!ユーリ!

呼ぶ声が取り巻くように響く。

ぐるぐると全方位から聞こえる。

シリウスから降りる。


砂漠の砂と岩をぬって小さな川が流れるこむ湿地で、シリウスを休め、キラキラと光る水を眺めていた。

オアシスだがそれほど広くはない。

ここは、ユーリの好きな場所だ。

母に会える、きっと会える。

じんわりと嬉しさが込み上げる。

嬉しい時も、辛い時も、この水辺にひとり座っていた。

キラキラ光る水の微かな歌を聞きながら、うっとりと見つめる。

そっと手を浸すと、地のエネルギーが伝わり、パワーが湧いてくるようだ。


ふと、馬の蹄の音に気づく。

遠くから、馬が駆けてくる。

乗り人はいない。裸馬だ。

立ち上がりさらに見る。

スピードはそれほど早くなく、後ろには人が見える。


すぐ近くで、馬が止まる。

水を飲み始めた。


しばらくして、鞍を手にした男が走り着く。膝に手をつき、へとへとになっている。


遠くの従者が近づこうとするが、手を動かし、戻れと合図する。


「驚かしてすまない。こいつには、やられっぱなしなんだ。ちっとも言うことを聞かない」

馬の尻を叩く。

「でも、暴れ馬じゃなさそうよ。

綺麗な目をしてる」

ユーリは、近づいて頭を撫で、体も撫で下ろす。

おとなしく、されるがままだ。

「いい子ね」


「びっくりだ、僕の言うことは聞かないのに」

やれやれと、座り込む。

見返すと、若い男だった。


「どこから来たの」

「知らないと思うけど、サリという町から来たんだよ」

「えっ、サリ、サリからなの」

父から、お母さまはサリにいると聞いたばかりだった。

さらによく見ると、男はきちんとした服装だ。

「どこへ行くの」

「どことは決めてないんだけど、ここはもうタスクル国だね」

「そうです、タスクル国です」

「それじゃ、タジルさまに会いに行こうかな」

と笑う,

「えっ?」

「冗談だよ」

笑いながら立ち上がる。


しげしげと見ると、背が高く、金色に光る薄茶色の髪、あまり見かけない外見の男だ。

ユーリは

「じゃあ、城へ行って、タジル王に、挨拶しましょう!一緒に行きましょう」

「え、え」

驚いて、もたもたしている男を急かす。

合図すると従者が駆け寄り、男を取り囲み、馬に乗るよう指示する。

そして、ユーリを先頭に走る。

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