第二話



「ア……アリア?」

「あの、それはどういった意味合いなのでしょうか。その、私の想像する形なのかなと思いまして」

「……そ、想像。差支えなければ、アリアはどんな想像をしているのか聞いても?」


 顔を真っ赤に染めてふるふると震えている彼女は、私が問いかけた瞬間、さらに頬を赤く色付け目線を彷徨わせた。

 そして一瞬目を伏せたかと思ったらすぐにこちらを真っ直ぐ見つめてきたアリアに、私の弱い心臓は今度こそ破裂するのでは?と錯覚するくらいに鼓動を速めた。


「その、笑わないでくださいね。私は、私が想像したのはその……手を繋いだり、隣に並んで座ったりだとか、そういった事を想像したのですが……違いましたか?」


 不安そうにこちらを見つめる彼女に、遂に限界を感じてしまった私は、気付けば心のままに叫んでいた。


「違わない!!違うわけがない、全部アリアの想像通りだ!」

「ああっ、良かった!」


 胸の前で手を組み嬉しそうに微笑んでいる彼女は、実は本当に女神なのではないだろうか?

 私の薄汚い想いすらも、アリアの纏う空気そのもので浄化させてしまうような、そんな神々しささえ纏っているのだから。


  (私はこの笑顔を守りたい)

  (そして出来れば私を、私だけを愛してほしい)


 だからこそ次に発する言葉が何よりも重要なのだと、覚悟を決めて彼女を見つめ言葉を紡いだ。


「ひとつ提案なのだが、私達も少しずつ距離を縮めていかないか?アリアが嫌なら無理にとは言わない!でも私は、貴女ともっと婚約者らしい事がしたいんだ」


 そう言って早口で提案したはいいが、肝心のアリアの姿を目にする事すら出来ない自分の不甲斐なさには心底嫌になる。

 不安で吐きそうになりながらも彼女の手元に視線を集中させ、今か今かと返答を待った。


 その永遠とも思える時間を過ごしていると、ふいにアリアの手が動いたのを感じ勢い良く目線を上げると、泣きそうになっているアリアが目に飛び込んできた。


「アリア!!」


 私は自分の立場も忘れ、急いで彼女の元へと移動し謝罪の言葉を口にした。


「す、すまない!!貴女を傷つけるつもりはなかったんだ!アリアが嫌なら二度と貴女には触れないと誓う。もし視界に入るのも無理だと言うのなら、「……くて」」

「……なんて」


 こんな都合の良い夢みたいな事があるのだろうか。

 

「嬉しくて……私、嬉しくて。ア、アイザック様はずっととても紳士的に接して下さっていて、不満なんて感じた事はありませんでした。この気持ちに変わりはありません。でも……共に過ごすうちにもっと一緒にいたい、周りの婚約者がいる友人達みたいに手を繋いだり、触れ合いたいと、私もずっと思っていた事なのです」

「アリア……」


 知らなかった。いつだって女神だと思い細心の注意を払って接してきた女性は、私と同じ想いを抱いてくれていた尊い存在だなんて。

 あまりの衝撃に、気付けば心の中で呟いた言葉が口から溢れていた。

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