第16話 それぞれのその後②



 あれから、何度もレスター侯爵家に出向いてアイザック様に会わせて欲しいと伝えたけれど、全て門前払いだった。

 いつまでアリアを愛する演技をするのか。いい加減本当に愛している私の事に目を向けてもいいと思うのに……

 でも何度手紙を書いても、アイザック様から返事が来る事は一度もなかった。


 アリアが憎い——。


 生きている間は、厚かましくもアイザック様の婚約者の座に収まっていたくせに。亡くなってもアイザック様と私の仲を邪魔するアリアが憎くてたまらない。

 だけどどんなにレスター侯爵家に出向いても会う事すら出来なかった私は、だんだんと言い知れぬ不安を感じていった。


 (もしかして、アイザック様に何かあったのかしら?)


 どうにもならないこの現状に悶々とした日々を過ごしていたある日。

 両親から呼び出されその場で一通の茶会への招待状を手渡された。

 二人の好意を素直に受け取った私は後日招待された茶会へ出向き、そこで愛しのアイザック様の近況が噂されているのが耳に入ってきた。


「そう言えば、お聞きになりまして?レスター侯爵子息様、最近社交界でお見かけにならないでしょう?何でも不慮の事故で最愛の婚約者を亡くし、そのショックから心の病を患ってしまったようなんですの。それに最近では、亡くなられた婚約者がご自身の側にいると仰っているみたいですし、親であるレスター侯爵も心配でしょうね」

「まぁ、お二人ともとても仲睦まじくされていましたものね……その心情は計り知れませんわ」

「それに、後継についても弟のフィリップ様が引き継がれるのでしょう?」

「まぁ、そうだったんですの?」

「今後レスター侯爵家はどうなるのかしら」



 最愛の婚約者を亡くし、ショックから心を壊した?

 後継もアイザック様の弟に変更?

 それに……アリアが側にいるですって?



 ……どうしてそんな大事な話、最愛の私に話してくれなかったの?

 例え次期侯爵になれなくても、私は愛するアイザック様を捨てたりなんてしないのに。


 アイザック様に一日でも早くお会いしたい。

 会ってあの時みたいに情熱的に抱きしめてほしい。愛してると言ってほしい。


 すぐ横で延々と続くこの聞くに堪えない噂話に、早々に帰宅する事を決めた私は帰る為にふらふらと出口へ向かって歩いて行く。

 こんな嘘ばかりの茶会なんて知っていたら最初から来なかったのに。それに……、


「っふ……ふふっ……っはははははははははははははははははははは」


 突然笑い出した私をここにいる人達がジロジロ見てくるけど、気にしないわ。


「っふ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 気付けばその場で叫び、手当たり次第目に付いた物を掴み投げつけていたけれど、今の私からしたらそんな事些末な事だった。


「嘘吐き!!嘘吐き!!嘘吐き!!!!貴女達、覚えておきなさい。アイザック様の最愛はこの私!アリアなんかじゃないわ!あれは間違いなく死んだのよ!!」


 私は間抜け面の令嬢達に向かって思いっきり叫びながら教えてあげたわ。

 みーんな嘘ばっかり。アイザック様の最愛はこの私、アリアなんかじゃないわ。彼の最愛はここに居る。

 決して死んだ亡霊なんかじゃない。本当にここの連中は嘘ばっかり。

 

 アイザック様。私が貴方の最愛でしょう?そうよね?

 アリアに勝てた唯一がアイザック様からの愛なのに。

 それすらも違うと言うのなら、私は一体何の為にアリアからアイザック様を奪ったの?



 いいえ。いいえ、違うわエミリー。

 大丈夫。アイザック様は私を愛してる。そして私も彼を愛してる。だからこの想いは誰にも壊せない。

 私は彼が元気になるまで、いくらでも待てるもの。

 だって私は、貴方の最愛だから。


 何故だか涙が溢れてくるけれど、きっとこの涙は嘘ばかりの噂話を耳に入れたからよね。

 決して私は現実を知って絶望したわけじゃないわ。



 あぁ、アイザック様。どうか……どうか一日も早く私を迎えに来て。

 じゃないと私は——、

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