第3幕
1.第三幕概要
1-1.出演者
(1)ナレーター(声のみ)
(2)インタビューワ(40歳、現代のテレビ局サラリーマン)
(3)シラー(50歳、ドイツの作家。45歳でなくなっているが50歳くらいの設定)
(4)太宰治(50歳、日本の作家。38歳に亡くなっているが50歳くらいの設定)
1-2.演出時間:20分
1-3.あらすじ:インタビューワがシラーと太宰治にインタビューする。
1-4.舞台設定
・時は現代。場所は放送局の一室(シンプルな部屋)。
・机を挟んでインタビューワとシラー、太宰治が座っている。
・インタビューワは、スーツにネクタイの格好(現代的な服装)。
・シラーは、1800年頃のドイツの男性の服装をイメージ(燕尾服でもジャケットでも可)。
・太宰は、1940年頃の日本の男性の服装をイメージ(着物姿)
・大きなスクリーンには、「人質」のタイトルが大きく映し出される。
2.シナリオ
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(人質)
暴君ディオニスのところに
メロスは短劍をふところにして忍びよつた
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インタビューワ「今日もスペシャルゲストに来ていただいています。私は少し緊張しています。シラーさん、太宰さん、どうぞ、よろしくお願いします」
太宰・シラー「よろしくお願いします」
インタビューワ「お二人は、どのような関係ですか」
太宰「シラーさんは、私よりも150歳ほど年上の大先輩です。『ウィリアム・テル』などシラーさんの作品は、言葉の選び方が繊細で無駄がなく、教科書のように拝読しています。私の『走れメロス』はシラーさんの『人質』の詩を元に創作しました」
シラー「私も太宰さんは尊敬してやまない、大好きな作家で、作品も生き方も大変興味があります。小説の内容も面白いものが多く、特に、『走れメロス』は、私の詩では書かれていない心情やできごとを表現した、いい作品だと思います」
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(人質)
暴君ディオニスのところに
メロスは短劍をふところにして忍びよつた
警吏は彼を捕縛した
「この短劍でなにをするつもりか? 言へ!」
險惡な顔をして暴君は問ひつめた
「町を暴君の手から救ふのだ!」
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インタビューワ「シラーさんの詩の冒頭は、メロスが短剣を持って城に行って、捕まるところから始まってますね?」
シラー「詩の場合は、いかに言葉を端折って、イメージを伝えるかが大事です。詩の背景にある状況をよく太宰さんが書いてくれたと感謝しています。」
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(走れメロス)
メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此(こ)のシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿(はなむこ)として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
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インタビューワ「太宰さんの作品の冒頭部分ですが、ここはシラーさんの詩にはない所です。シラーさんの詩では、メロスが短剣を忍ばせて、城に行くところから始まりますが、太宰さんは、それまでの様子を細かく記述されていますね?」
太宰「このあたりはすべて私の創作です。作品背景を描いています。」
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(走れメロス)
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣(よつぎ)を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「呆(あき)れた王だ。生かして置けぬ。」
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インタビューワ「この場面で国王はたくさん人を殺しています。しかも、王様は、派手な暮らしをしているという理由だけで、人質として差し出すことを命じていますね」
太宰「国王ディオニスの乱心ぶりを際立たせたかったのです。本当は、国王はそんなに悪い人ではないことは知ってました。悪魔のような心を持った国王が、最後にすっかり改心する様子を書きたかったのです。最初は、国王は妹を殺して、一方でメロスは妹を大切にしている対比を書きました。でも、ものたりなくて、国王は妻も息子も殺したことにしました。国民に恐怖心を与えるために、身内だけでなく、裕福な暮らしをしている国民も殺されることにしました。裕福なのに私にお金を貸さない人への皮肉を込めたわけではありません。」
シラー「もう片っ端から、遠慮なく殺している。私には、こうは書けません。国王の乱心よりも、太宰さんのご乱心ぶりが面白い。」
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(人質)
さつそくに彼は友逹を訪ねた。「じつは王が
私の所業を憎んで
磔の刑に處すといふのだ
しかし私に三日間の日限をくれた
妹に夫をもたせてやるそのあひだだけ
君は王のところに人質となつてゐてくれ
私が繩をほどきに歸つてくるまで」。
(走れメロス)
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、佳(よ)き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。
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インタビューワ「シラーさんの詩では、メロスがセリヌンティウスの所に行って、人質になってくれと、頼んでいるように読めます。それに対し、太宰さんの小説は、セリヌンティウスは王城に召されて、そこで初めてメロスと会ったことになってますね」
シラー「私の創作では、メロスは自分でセリヌンティウスの元に行き、お願いしたことにしています。」
太宰「私は、メロスが逃げないように、セリヌンティウスが「人質」になってから、メロスを解放してます。」
シラー「メロスに人質になってくれと言われ、セリヌンティウスは自ら人質として参上するほどの厚い信頼と友情が築けていたという思いで、詩を書いています。」
太宰「ここのストーリーを、メロスに相談したんです。メロスは『セリヌンティウスに俺の代わりに人質を頼んでも、あいつが来るわけはない。必ず逃げる。そのストーリーはやめてくれ』と言ったので、城で初めて事情を説明することにしました。」
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(走れメロス)
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
・・・・・・
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。
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シラー「太宰さんの作品は、シラーさんの詩にはない、3日間のいろいろな描写があります。」
シラー「猶予をもらった三日間で、どのように時間を使ったかは、私の詩では細かいことまで書いていない。太宰さんは、小説ゆえに、そこのところが実によく書けていると思いました。『村人たちは野に出て仕事をはじめていた』というのは、朝の9時くらいとして、それからメロスは、妹に命令した後、3時間くらいかけて祝宴の席を整え、昼の12時頃には寝たとしましょう。『眼が覚めたのは夜だった』とあるから、起きたのが夜の8時頃かな? 8時間ほど寝たのかと思いました。最初からたっぷりメロスを寝かせているところがいい」
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(走れメロス)
メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
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シラー「ここも、太宰さんが、メロスの性格をよく表しているとこです。夜まで寝て、それから、花婿の所に行って、明日、結婚式をあげろと頼むんです。これが、ホントにいい。太宰さんの考えるメロスは、婿となる人へ「明日結婚式を挙げるように」と、妹に伝えに行かせるのではなく、自分が伝えから眠りにつくのでもない。たっぷり寝てから、夜になって、ようやく自分で頼みに行く。明日、結婚式をしてくれと。これがメロスらしいところです。真っ先に伝えるべき人には、一番最後に伝える。太宰さんのメロスは、常にドン・キホーテのように間が抜けたことをする。すべての場面で常識的な行動から外れ、関わる人全員に迷惑をかける。だから「走れメロス」は何度読んでもおもしろいんです。」
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(走れメロス)
なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。
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シラー「ここも、私の期待通りの駄メロスだ。『夜明け』というのは、朝の5時としましょう。結婚式は真昼に行われた、とあるから、昼12時開始としましょう。すると、結婚式まであと7時間。メロスは、前の日、たっぷり8時間、昼寝をしてるから、翌朝5時まで、とくとくと妹婿を説得する元気がある。妹婿にしたら、夜、眠りにつく時間にメロスが訪ねてきて、明日結婚式をあげろと迫られる。メロスは、自分は元気で、妹婿はフラフラだと計算ずくです。こういう相手を騙すような気質なのに、冒頭で『けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった』と語っているところがいい。8時間寝た後に、夜中じゅう、9時間くらいかけて説得する。この時間間隔をもつメロスを描く太宰さんを、私は賞賛します」
太宰「そんなに褒められると照れてしまいます。何時間かけて説得しても、私にお金を貸してくれない人への皮肉をこめているわけではありません」
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(走れメロス)
「おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
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シラー「太宰さんのメロスは、ハチャメチャな行動をとって、会う人みんなを例外なく辟易させ、けれども、それをメロス自身は気づいていない。けれど、一貫して、口だけは哲人のように潔く清らかなことを語り続けるところが読みごたえがあります。」
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(人質)
その場から彼はすぐに出發した
そして三日目の朝、夜もまだ明けきらぬうちに
急いで妹を夫といつしよにした彼は
氣もそぞろに歸路をいそいだ
日限のきれるのを怖れて
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インタビューワ「メロスさんが、城を旅立ってから結婚式をあげて戻るまで、シラーさんの詩ではこれしか書かれていいませんね」
シラー「私の詩では、メロスは城をすぐに出発し、すたすた家に戻って、ばたばた結婚式を挙げて、あっという間に3日目の朝になり、もう、帰路を急いでいます。」
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(人質)
中で雨になつた、いつやむともない豪雨に
山の水源地は氾濫し
小川も河も水かさを增し
やうやく河岸にたどりついたときは
急流に橋は浚はれ
轟々とひびきをあげる激浪が
メリメリと橋桁を跳ねとばしてゐた
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インタビューワ「この後、シラーさんも、太宰さんも濁流で橋が流され、荒れた川を泳いで渡る場面と、山賊に襲われる場面が描かれていますね。メロスさんが言うには、あれは作り話だとか…」
シラー「メロスがそれをばらしちゃいましたか?」
太宰「そうです。3人で相談してその話を入れました。どちらも作り話です。濁流で橋が流され、川を泳いで渡った、というのが、私の案で、山賊に襲われたことにしよう、というのがシラーさんの案です。途中で足を怪我した人を助けたことにしよう、というメロスの案は、不採用としました」
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(人質)
すると向ふからフィロストラトスがやつてきた
家の留守をしてゐた忠僕は
主人をみとめて愕然とした
「お戾りください! もうお友逹をお助けになることは出來ません
いまはご自分のお命が大切です!
(走れメロス)
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」
後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。
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インタビューワ「フィロストラトスさんのご主人は、どなたですか?」
シラー「メロス、という設定です。」
太宰「セリヌンティウス、という設定です。」
シラー「私の詩は、フォロストラトスが自分の主人、メロスに『自分の命を大切してください』と言ってます。それを聞いたメロスは『友を救えなくても、死んでひとつになれる』と、友が死んでも駆けつける決心であることを語っています。」
太宰「メロスの弟子だとしたら、メロスの家から走って、濁流を泳いで、メロスよりも先に来たことになる。しかも、磔のことまで承知しているのは、違和感があるから、セリヌンティウスの弟子の方がいいと考えました。」
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(人質)
ばらくはまぢまぢと二人の者を見つめてゐたが
やがて王は口を開いた。「おまへらの望みは叶つたぞ
おまへらはわしの心に勝つたのだ
信實とは決して空虛な妄想ではなかつた
どうかわしをも仲間に入れてくれまいか
どうかわしの願ひを聞き入れて
おまへらの仲間の一人にしてほしい」
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インタビューワ「シラーさんの詩では、ここで終わっています。一方、太宰さんの方は、万歳と叫ぶ場面や、シラーさんの詩には登場しない「可愛い娘」がでてきますね」
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(走れメロス)
「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
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シラー「太宰さんのこの場面は、観衆が一斉に「万歳」と叫ぶ様子が目に浮かぶようです。」
インタビューワ「太宰さんの方は、まっぱだかのメロスが赤面する場面で終わってますね。この場面を追加されたのはなぜですか?」
太宰「シラーさんのメロスよりも、人間として不完全な部分がある、親しみのあるメロスにしたかったのです。残虐な王と、友を信頼するセリヌンティウス、正義感が強く人間味のあるメロスという三者の物語です。メロスは、海より深い妹への愛情、空より厚いセリヌンティウスとの友情を持っています。どんな困難にあっても最後まで走り続ける希望を持っています。人間の本質は善であり、全知全能の神ゼウスであっても侵すことのできない信実がある。その人間の真理を大切にすること、人はこういう生き方をしなければならないと、私は伝えたかったのです。」
シラー「太宰さんの『走れメロス』は、一言で言えばコメディです。冷静に考えると何か変だ、矛盾があると感じる文章は、ちぐはぐな話になるように、コメディとして太宰さんが描いているからです。コメディとして読まずに、道徳的な解釈や作品の主題を考察しても、メロスの言動に違和感を感じたり、身勝手だとむかついたりすることでしょう。コメディとして読むと、太宰さんの書いたボケが理解できる。太宰さんのメロスは、出会う人すべてに滑稽な行動を取り、恥をさらしています。恥の多い生涯を送ってきました。そして、刑場で十字架の周りに集まった人々には、まっぱだかの姿を見せました。太宰さんのメロスは、言行不一致で、落語のような面白さがある。最後の場面は、「万歳」と叫んでおきながら、実は、まっぱだかだっというのは、落語そのものです。落語だから、最後にオチをつけないといけない。太宰さんは、秀逸なオチを用意しています。ここまで幾度と「赤」を強調するために、「妹は頬をあからめた」、「真紅の心臓をお目に掛けたい」、「斜陽は赤い光」、「赤く大きい夕陽」、「王様は顔をあからめて」と前振りしておいて、最後に真っ赤な「緋のマント」を着せられて、顔を真っ赤にして終わっています。刑場という目立つ舞台で、上から下まで真っ赤っかの姿というわけです。しかも、フルチンです。赤いマントをつけて、一番目立つ格好で、赤っ恥をかかせるために、私の詩では存在しない「可愛い娘」を登場させています。太宰さんが赤いマントを渡すのは、はだかを隠すためではなく、全身真っ赤にして、よりフルチンが目立つようにするためです。それゆえ、タオルではなく、フルチンが隠れないようにわざわざマントにしたのです。その場面を思い浮かべると、因果応報というべきか、メロスは廊下に立たされた生徒のように、これまでみんなに迷惑をかけたことを反省しなさい、と言われているようです。私の詩は、友情、信頼、希望、信実、改心といった主題がありますが、太宰さんはそういうネタも入れながら、ドン・キホーテのようなダメロスぶりをコメディとして笑って欲しかったのでしょ? それまでの一見高尚な言動は、最後のオチで爆笑させるための伏線でしょ? 太宰さんがラストに用意した秀逸なオチとは、「『走れメロス』はコメディにオマージュした小説である」というオチです。でしょ? 白状しなさいよ、太宰さん。」
太宰「小説の解釈は千差万別で、コメディと思ってもいいし、道徳の教科書と思ってもいいし、文学作品と思ってもいい。読者の経験と感受性は皆、異なり、どこが面白いと感じるかは人それぞれです。」
インタビューワ「太宰さんは、走れメロスを書くにあたって、宿代を払えなくなった時に、友達を人質に残してお金を借りに行ったことがあると聞きましたが?」
太宰「熱海の宿に泊まってお酒を飲んで、壇を残して、井伏さんの所にお金を借りに行きました」
インタビューワ「それで、メロスのように、約束の時間までに戻ったのですか?」
太宰「井伏は金を持っているのに、どれだけ将棋をさしても金を貸してくれず、期限を過ぎても私は戻れなかった。金を貸してと言い出せなかったのだが、俺の顔を見れば金の無心とわかったはずです。井伏さんは邪知暴虐の悪人です」
インタビューワ「最後になりましたが、今日のインタビューを受けていただいた感想をお聞かせください」
シラー「今日のインタビューは、シラーだけに、白けちゃってませんか?」
太宰「シラーさん、そのおやじギャグは、ダサい。お~寒。」
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