第2幕

1.第二幕概要


1-1.出演者

(1)ナレーター(声のみ)

(2)インタビューワ(40歳、現代のテレビ局サラリーマン)

(3)セリヌンティウス(25歳、古代ギリシアの石工)

(4)少女(可愛い娘)(16歳、国王に仕える少女)

1-2.演出時間:15分

1-3.あらすじ:インタビューワがセリヌンティウスにインタビューする。

1-4.舞台設定

・時は現代。場所は放送局の一室(シンプルな部屋)。

・机を挟んでインタビューワとセリヌンティウスが座っている。

・インタビューワは、スーツにネクタイの格好(現代的な服装)。

・セリヌンティウスは、白い布を右肩を露出し体に巻きつけた格好。長い衣装。草履のような履物(紀元前350年頃の古代ギリシャ、シラクサ辺り<イタリア・シチリア島南東部>の石工の格好をイメージ)

・可愛い娘は、白い布を体に巻きつけた格好(庶民よりも華やかな服装)。

・大きなスクリーンには、「走れメロス」のタイトルが大きく映し出される。



2.シナリオ


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メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

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インタビューワ「セリヌンティウスさんと、可愛い娘さんです。よろしく、お願いします」


セリヌンティウス・少女「よろしくお願い致します」


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メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

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インタビューワ「メロスさんは、セリヌンティウスさんと会うことを随分楽しみにしていたようですね」


セリヌンティウス「私は会いたくなかった。実は、メロスに1銀貨の借金があって、私の日給が1銀貨ほどで、必ずそれを返すようにという手紙を受け取っていたから、私は、全然会いたくなかったんです。だから、メロスが来ても、私は仕事から戻ってないと言ってくれと、弟子に言いつけておきました。居留守を使うつもりでした」


インタビューワ「王様の使い方が手紙を持って、セリヌンティウスさんを迎えに行ったらしいですね」


セリヌンティウス「はい。深夜、私が寝ていると警吏が着ました。居留守を使うつもりが、王様の使いだというから、弟子も、つい、セリヌンティウスは奥にいます、なんて言っちゃったんです。メロスからだという手紙を持っていました。その手紙に、『私は王様と面会している。すぐに城に来てくれたら借金はチャラにする。メロスより』、と書かれていました。いい話か、悪い話か、不安はありました。王様はあまり評判がよくなかったものですから。なぜ、メロスが王様と面会しているのかという疑問もありました。でも、借金がチャラになるならと思って、急いで城に行きました」


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竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。

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インタビューワ「結果的には、セリヌンティウスさんが人質になりましたね」


セリヌンティウス「夜の0時くらいでした」


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暴君ディオニスの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言で首肯き、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

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インタビューワ「城に行って、二年ぶりにメロスさんと再会したわけですね。竹馬の友と久しぶりにあって、感激されたでしょう?」


セリヌンティウス「そうか、もう二年もメロスの借金から逃げていたのか。メロスも怒るはずだ。感激はしません。バツが悪かったという思いでした」


インタビューワ「メロスは、友に一切の事情を語った、とありますが、この時はどのような話を聞いたのですか?」


セリヌンティウス「メロスは『妹の結婚式をあげて戻るまで、俺の代わりに人質としてここにいろ。俺が約束通り3日で戻れば、お前は殺されない。でも、俺が間にあわなければ、あきらめてくれ』と言いました。」


インタビューワ「それを聞いて、どう思われましたか?」


セリヌンティウス「絶句しました。でも、ここで嫌だと言っても、すでに国王とメロスの間では、話はついていたみたいで、全てを諦めました。あの時、弟子が、いいつけ通りに居留守を使ってくれればこんなことにはならなかったのに。メロスを抱き締めたことなんて、記憶にありません。気づいた時には、ベッドで横たわっていました。縄には打たれてなかったです」


・セリヌンティウスは、横たわる。少女は、手で扇いで、看病する真似をする。


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路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

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インタビューワ「メロスさんは一生懸命走っているようですが、戻ってくるまでの間、セリヌンティウスさんは、どんな様子だったんですか」


セリヌンティウス「お城では、なぜか、ゲストのような扱いを受けました。三度の食事は美味しいし、とっても可愛い女の子がいて(二人は目を合わす)、食事を運んでくれたり、時々、お話したりしました。王様も、最初にメロスと3人で会った時は、すごく怒っていたのに、翌日からは随分にこやかにしていました」


・少女は、セリヌンティウスのセリフに合わせて、食事代わりにリンゴを渡す。


インタビューワ「メロスさんが戻られるかどうか、3日間、不安ではなかったですか?」


セリヌンティウス「最初は不安でした。でも、王様は『詳しい事情は言えぬが、何も心配せぬで良い』と言ってましたし、晩御飯は王様と可愛い娘と三人で、一緒にお酒を飲んで談笑して、楽しかったです」


・セリヌンティウスと少女は目を合わせ、少女は、恥ずかしそうに、両手を両頬にあてる。


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「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。

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インタビューワ「3日目、いよいよメロスさんが戻られる期限が迫ってきました」


セリヌンティウス「夕方、日が暮れはじめた頃、王様は、『この戯曲も、そろそろ終演の時間だ。何も心配しなくて大丈夫だ。メロスが戻ってきたら、メロスに頬を殴られて二人でひしと抱き合ってくれぬか。もちろん、礼ははずむ。そうすれば、この戯曲もより一層盛りあがることじゃろう、あはははは』と言ってました。私は、承知し、十字架に縛られました。そして、幕があくと、広場、刑場ですが、そこに国民がたくさん集まっていました。あとで聞いた話では、なんでも国民は、私かメロスのどちらかが死刑になるのを見にきたのだとか。入場料は1銀貨。悪趣味の国民が多いことにあきれました」


・セリヌンティウスは、ひとりで、殴るかっこう、抱き合うかっこうを演じながら、王様を真似て話す。


インタビューワ「日没ギリギリまで、メロスさんは戻ってきませんでした。その時のお気持ちはいかがでしたか?」


セリヌンティウス「不安でした。王様には『心配しなくていい』、と言われても、磔にされて、鋭い剣を持った屈強の兵士が構えています。メロスは自分が殺されるのに、戻ってくるはずはない。このまま私は死刑になると思いました。王様も、ずっと余裕の顔をしていたのに、この頃はソワソワしだして、しだいに顔を蒼白にし、眉間の皺が刻み込まれたように深くなっていました」


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「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。

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インタビューワ「日没とほぼ同時にメロスさんは戻ってきたことに気づいた時の気持ちは、いかがでしたか?」


セリヌンティウス「ようやく不安から解消されてすごくホッとした表情を、王様と可愛い娘がしていたので、それを見て、私も安心しました。まさか、メロスが戻ってくるとは思っていなかったから驚きました」


・セリヌンティウスと少女は目を合わせ、少女は、恥ずかしそうに、両手を両頬にあてる。


インタビューワ「メロスさんは、両足に噛りついた、とありますが、これはどういう様子でしたか?」


セリヌンティウス「これは、メロスの子どもの頃からのクセで、うれしいことがあると腕や足に齧りつくんです。噛むならまだわかりますが、齧るって、あいつは犬か、まったく。私は小さい頃からこれまで何度、齧られたことか。その癖だけは直せと言っても、全然、治らないんです。」


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「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

 セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。

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インタビューワ「メロスさんに、「私を殴れ」と言われて、右頬を力いっぱい殴りました」


セリヌンティウス「メロスがなんと言ったかはよく聞いてなかったけど、齧られた足が痛かったんです。しかも、この時は、両足を齧ったんです。片足だけでも痛いのに、わざわざ両足を齧るんですよ。お返しに頬を思いっきり引っぱたいてやりました」


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「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。」

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インタビューワ「その後、セリヌンティウスはメロスさんに、「私を殴れ」とおっしゃってますね?」


セリヌンティウス「私が殴られたら、礼をはずむと王様と約束していましたから。私が先に殴れば、怒ったメロスが殴り返すというのが、私が考えた戯曲のシナリオです」


インタビューワ「「たった一度だけ、ちらと君を疑った。生まれてはじめて君を疑った」とありますが、これはどういうお気持ちでしたか?」


セリヌンティウス「最初にメロスに会って、話を聞いた時から、すっかり手紙に騙されたと思ってました。それなのに、その後は、王様から歓待されたので、メロスは、本当はいい奴だったのか? と、ちらと思っちゃっいました。一瞬だけでも、はじめて、メロスをいい奴だと勘違いするとこだった。でも、足を齧られて、やっぱりこいつはただのバカだと、いい奴だと思ったのは勘違いだったということを言いたかったのです」


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「君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。

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インタビューワ「『君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない』って言ってますね」


セリヌンティウス「頬を殴られて、抱擁すれば、王様から礼がたんまりもらえますから。お金のために、頬を殴れとお願いしている場面です。私がメロスを殴ったのが少し痛かったのか、メロスの目が本気で怒ってました。メロスは、私の倍の力で、腕に唸りをつけて殴り返してきました。」


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「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

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インタビューワ「このように、二人で抱き合ってますね?」


セリヌンティウス「この場面は、全然覚えてないんです。頬を殴られたことまでは覚えてるんですが、そのあとの記憶は飛んでます。同じくらい音高く私の頬を殴れ、なんて言うんじゃなかった。」


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「万歳、王様万歳。」

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インタビューワ「広場で一斉に、万歳と歓声があがりましたね。」


セリヌンティウス「少しの間、気を失っていましたが、その声で正気に戻りました。」


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ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」

 勇者は、ひどく赤面した。

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インタビューワ「可愛い娘さんですね。お名前を聞いてもいいですか」


少女「シャルロッティウスといいますが、『可愛い娘』でいいです」


インタビューワ「メロスさんにマントを着せた時のお気持ちはいかがでしたか」


少女「メロスさんは、まっぱだかだったんです。」


・少女は、セリヌンティウスの服を脱がし、パンツ1枚のかっこうにする。


少女「私は、男の人を見るのがはじめてだったんです。春に芽を出したつくしのようでした。最初は、遠くにいたんですが、もう少し近くで見たいと思いました。それで、マントを持って近寄りました。」


・少女は、マントをセリヌンティウスにかけてあげる。


インタビューワ「セリヌンティウスさんは、『早くマントを着るがいい』言っていますね。」


セリヌンティウス「この可愛い娘が3日間、ずっと私の世話をしてくれて、一緒に食事をして、いろんな話をしました。私は、すっかり恋に落ちていました。メロスがまっ裸の姿を見て、たまらなく口惜しかったのです。口惜しいのは、娘の思いではなく、私の気持ちです。」


インタビューワ「最後にメロスさんは赤面していまね?」


少女「私の視線は、ずっと初めて目にする男の人のものに釘付けになっていました。月日は一瞬で流れ、ふきのとうが花開きました。メロスさんよりも私の方が赤面しました。」


インタビューワ「この後、幕が降りて、王様とメロスさんは握手していたと聞きました。」


セリヌンティウス「王様の指示で幕が降ろされました。まさに、戯曲の終演です。王様は握手を求めてきたので、私が手を出すと、王様とメロスががっしりと握手しました。私はさし出した手をそのままに、王様はメロスの次に私に握手を求めると思って待ってました。でも、王様とメロスは握手が終わると、ひしと抱き合っています。すると私のさし出した手を、可愛い娘が両手で握ってくれました。私は可愛い娘と、ひしと抱き合いました」


・少女は、セリヌンティウスの右手を両手で握り、二人は抱擁する。


インタビューワ「最後に、今日のインタビューを受けていただいた感想をお聞かせください」


セリヌンティウス「ありがとうございました。ずっと言いたくて、うずうずしていたのを言えてよかったです。初めから人質になるなんてわかってたら、絶対に城にはいかなかったのに、あの弟子ときたら、使えない奴だったから、もう破門にしました。それにしても、メロスのあの齧る癖は治してほしい。『齧れ、メロス』じゃないのに、ホント。スルーしないで、笑ってください…」



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