第10話
「こちら、浄。準備出来た、心以外は」
浄は自らが作り上げた、機械仕掛けの神の胸部に設けられたコックピト内に居る。
その顔は緊張で強張っており、余裕が感じられない。
「浄、あとビル三つ倒壊する間なら余裕があるわよ。けれど人は死ぬわよ。まあ、女とブ男が死んでも別にいいんだけどね。美少年と美男子が無事なら」
オペレーターを務めるのは、百八つの超小型監視衛星を所持している鈴だ。
その衛星をフルに使い、町に出現した機神が美男子に怪我を負わせていないか監視している。
鈴にとっては町の壊滅よりもよほど重要なことらしい。
「行けば良いだろ! 行けばっ」
「そうよ、頑張って美少年たちを助けてきなさい。量子転送開始、目標座標X-イチ、マル、ゴ」
ギルドの共同保管庫に仕舞われていた機神アルケミオンは戦場へと送り込まれた。
少女から戻った少年と共に。
†
ゴテゴテとした重装甲に身を包んだ灰色の巨人――凶牙鬼ゲルセルクは、積み木のお城を崩す子どもように、町に乱立するビル群を振りぬいた腕で倒壊させていく。
ヴァチカンを廃墟に変えたあの機神だ。しかし巨剣はまだ抜かれておらず、両肩にマウントされている。巨大すぎる剣はシールドのように垂直方向を向いており、盾の役割も果たしていた。
清清しいほどの青空の下では瓦礫が道行く人々を押しつぶし、道を塞ぎ、阿鼻叫喚の地獄を作り出されていた。
聞こえるのは、破砕の音と悲鳴や断末魔、そして神への祈り。それらが混ざり合い怨嗟の声となる。
そんな厄災の地に突如、紅い機神が何も無い空間から浮かび上がる様に出現した。
人々の目には新たな災いと映ったのか、それとも希望の光を映し出したのかは知る由も無いが、一つだけ確実なことは浄が作った機神アルケミオンということだ。
シャープな装甲で覆われた人型兵器――アルケミオンは、ゲルセルクと違いすっきりとした印象を与える。無駄を省いた機能美の化身。
それがアルケミオンだ。
睨みあうように二体の機神が向かい合うが、ゲルセルクはアルケミオンへの興味が失せたのかまた、建造物の破壊に取り掛かっていった。
ビルごと内の人を吹き飛ばし、肉片に変える。愛する者と未来永劫会うことが出来なくなった者は、ゲルセルクに怒りに満ちた眼を向け復讐を誓うが、ビルの倒壊に巻き込まれ死んでいく。
「おい……無視かよ」
舐めやがってっと言葉を続けながら浄は、左腰にマウントされている長剣型チェーンソウ――ブレイカーエッジを引き抜く。
右手に収まったブレイカーエッジの刀身は、甲高い音を奏でながら超速回転を開始する。
ゲルセルクが背後を見せた瞬間に、アルケミオンは地を駆け抜け抜けブレイカーエッジを袈裟に振り下ろす。
鋼と鉄がぶつかり合う音を彩るかのように無数の火花が飛び散り、ゲルセルクの装甲を徐々に削っていく。
だが、それは車に十円傷をつけたようなものでダメージにはなっていなかった。
それどころか、ブレイカーエッジの刃の方が負け刃毀れを起こしている。
ブレイカーエッジは所有者の期待に応えようと、己の身を磨耗させながらゲルセルクの装甲を切り落とそうとする。
その思いが実ったのか、爆ぜる火花に混じって灰色をした六角形の鱗片が辺りに弾け飛んでいく。
「よし!」
一瞬己があげた効果に注目してしまった浄は、横から撃たれた蒼の閃光への反応が遅れてしまった。
蒼の閃光はすでに回避不能の間合いに入っており、確実にアルケミオンの胸部を吹き飛ばす軌道で飛来してくる。
「しまっ――」
浄の視界が圧倒的なまでの光で覆いつくされていく。
浄が通常の視覚を取り戻すと、アルケミオンは先ほどと変わりなく大地に立っており、攻撃を受けた様子すらなかった。
「浄、ぼさっとしているのは余裕のつもりか?」
通信機を介して聞こえてくる声は千弥のモノだった。
千弥はアルケミオンを狙った攻撃を地上から、半身ほどの巨大な高純度エネルギー砲――グフィトを天へと向け打ち消したのだ。
「すまない。助かった」
「気にすることは無い。俺はお前なしではもう存在できないのだからな」
声のトーンを落とし、呟くように千弥は言う。
「それは事実だが、誤解を招くからそんなことを言わないでくれ」
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