第7話

 教室に入った時から、浄は女子からの盗み見るような、こそこそとした視線を感じていた。


「クソ、鈴のやろう……絶対報復してやる…………」

「浄、だよな?」


 恐る恐ると言った感じで浄に話かけてきたのは、身長百八十の長身を誇り、整った顔立ちから女性ファンが多い高嶺 千弥だった。彼も浄と同じく錬金術師ギルドにとある事情で錬金術師でも無いのに所属している。


「そうだ。鈴の野郎にやられた」

「ははっ。鈴は野郎じゃないだろ? それにしても、あのBL好きにも困ったものだな」


 どこか、作り物めいた印象を受ける千弥の笑顔。

 それでも女生徒のウケはいいらしい。


「とりあえず聞くが、俺の胸はちゃんと隠れているか?」

 そう言いながら、自分の胸を指差す浄。

「微妙だな。まだ少し膨らんでるぞ。それも服の上からわかる位には」


 千弥はそうだなと言葉を続け、ブラを付けているみたいだと言う。

「………………」

 浄は納得した。女子に盗み見られている理由を。

「まあ、気にするな。これが始めてって訳じゃないだろ?」

「ああ、この前もやられた……」

 苦虫を噛み潰したような表情で声をひねり出す。

「きゃっ『ヤラレタ』だって!」


 黄色い声が、女子のグループから漏れ、浄の鼓膜を振動させる。

 どうやら、勘違いされているらしい。浄のパーソナルカラーは紫だと。

 むにゅ、むにゅにゅにゅっと浄の胸が後ろから掴まれ、揉みしごかれていく。


「んっ!」


 声が漏れそうになるが理性を総動員して何とか抑制する浄。

 もし、ここで声など漏らしたら、一生解く事のできない誤解と一緒に高校生活をする羽目になっただろう。


「すごいすごい! なんか小さいけど本物みたいな弾力だねっそのパッドどこで買ったの? あとでこっそり教えてね」


 浄の胸を揉んだ痴女もとい、少女は長い髪の毛を頭の両側で黄色いリボンで結んでいた。俗に言うツインテールだ。

 くりくりした円らな瞳を好奇心で満たしている。彼女の胸はお世辞にも大きいとはいえない。精々今の浄と同じくらいだろう。勿論身長も平均よりも低い。そのため、よく中学生と間違われている。

 彼女の名前は伊踏 由貴。よく当たる占い師として女生徒から評判である。


「えっと…………」


 流石に、パットじゃなくて自前だとは言えない浄に代わり、千弥が浄の変わりに答える。


「企業秘密だよな? それは試作品だから」

「あ? ああ」

 千弥のドロで出来た助け舟に、片足を水面に落っことしながらも乗り込めた浄であった。

「え? そうなの? 残念~」

 しょんぼりとさっきまでの元気がどこかへ行ってしまったかのように、ローテンションになる由貴。

 とそこで、教室に居ない生徒を遅刻者と定めるための鐘が鳴り響く。

 教師が教室に入ってきて、いつもどおりのHRを行いすぐに出て行く。

 担任と入れ替わるように一時間目の担当教諭が教室に来る。

 そして、ツマラナイ時間が始まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る