第6話
ボキバキボキと音を立てながら、机に突っ伏した浄が体を起こしていく。
「んぁ、変な格好で寝てたから体中が痛い」
ふと、浄が時計に目をやると短針は七を長針は十を指し示している。
「…………寝過ごした!? しかも、遅刻ぎりぎりぃ」
遅刻。その単語が浄の頭を過ぎった瞬間に彼は物凄い勢いで覚せいした。そのままの勢いで、準備を済まそうと部屋のクローゼットがある位置に、駆け寄った時点で固まった。
そう、ここは浄の部屋ではなく実験室なのだ。クローゼットが無くて当たり前。その代わりに試験管などが置かれているのだから。
「…………」
興奮した牛の様に猛然と実験室を飛び出していく浄。
廊下に出た瞬間に彼は、喉が潰れるくらい大声を出した。
「誰か俺を量子転送してくれ!」
それに答える者は誰もおらず、静まり返った通路に空しく声が反響するだけだった。
かに思われたが、たった一人だけ浄の魂の叫びを聞き届けたものがいた。
浄の救世主となったのは、目の下に物凄いクマを作り、瑞々しい肌とは無縁と言って良い位肌が荒れ、ぼさぼさの髪を手串で整えながら現れた林 鈴だった。
鈴は、美容のことに無関心だがこれでも一応女性である。
「どうしたの、浄? 朝っぱらから怒鳴り散らして」
「鈴、頼むから俺を俺の実家に量子転送してくれ! 一刻を争うんだ」
「ショウガナイわね……ほら、さっさとテレポーター室に行くよ」
「ありがとう!」
こうして浄は自宅へと転送された。
しかし、無事ではなかった。
何と、鈴は浄を転送する際に設定を微かに弄り、再構成後の体を女性にしてしまったのである。
勿論、質量保存の法則があるから外見的にはあまり変わっていないが、よく見れば髪がサラサラで少し長くなっている。そして、胸も小振りだがはっきりと自己主張をしていた。
全体的に体のライン特にウエストが細くなっていることから、腹回りの脂肪が胸に回されたのだろう。
浄は望まずとはいえ、女性の叶わぬ夢を実現してしまった。
そう、腹の贅肉がバストに変わって欲しいというあの夢を。
時間が無いので、仕方なくそのままの姿で登校することになった浄だが、胸を隠すための包帯をしっかりとカバンの中へと入れていた。
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