第42話 残夜-1
甘ったるくはあったけれど、それは穏やかとは言い難い夜だった。
覚悟していたアレコレが、その通りだったこともあったし、その通りでなかったこともあった。
紙ベースで与えられた知識だけで妄想を膨らませていた未弥は、一晩で様々な情報をアップデートさせられて、へとへとのトロトロになった。
蜂蜜みたいに蕩けた身体に、朝陽は終始嬉しそうに唇を寄せては舐めたり齧ったり吸い付いたりしていた。
”痛かった?”と尋ねて来た朝陽に、”人生で二番目に痛かった”と答えたら目を丸くしてから優しいキスが落ちて来た。
人生で一番痛かったことは、今の所小学生の時に自転車で転んで足を骨折したことである。
和室で一緒に眠るようになってから、未弥より先に眠ったことの無かった朝陽は、未弥より後に起きることもなくて、彼の声が目覚まし時計の代わりみたいになっていたのに、その次の朝は二人揃って恐ろしく朝寝坊した。
二人の休日が久しぶりに揃った月曜の朝だった。
身体が軋むという人生初の大異変に気づいて意識を浮上させた未弥は、ベランダの向こうがすでにかなり明るいことと、付けていたはずのナイトブラが行方不明であることに気づいて、日焼けを知らない白い胸元に巻き付く大きな手のひらを確かめて、うわあと言葉を失くした。
身を捩れば妙な声を上げてしまいそうで、どうにか手を伸ばし上掛けを首元まで引っ張り上げる。
起きるべきなのだとは思うけれど、巻き付いた腕が想像以上に重たくて、疲労困憊状態の身体では脱出は無理そうだ。
一緒に夜を過ごした誰かとの後朝トークなんて分からない。
未弥が読んで来た本にはその夜の事までは大まかに描かれていても数時間後の詳細なやり取りなんて記されてはいなかった。
皆さんお好きに想像なさってくださいというやつだ。
全くもって役に立たない。
逃げられないのなら朝陽が起きて部屋を出ていくまで寝たふりを決め込もうと目を閉じたら、背後で彼が動く気配がした。
すぐにカーテンの裾が軽く翻って顔の周りが一気に眩しくなる。
「・・・晴れたなぁ」
寝起きの朝陽の声が聞こえたけれど、未弥は当然返事なんて返さない。
私は寝ていますと全力で呼吸に集中していると、胸を包み込んだままの手のひらが悪戯に動いた。
ふにゅりと豊満とは言い難いふくらみを捏ねられて、否応なしに声が出る。
「・・・っひぁ」
そもそもなんで胸の上に手が置きっぱなしなのか、それが物凄く気になるけれど、尋ねたらよろしくないことが起こることくらい、経験値不足の未弥にだって分かる。
漏らしてしまった声をどうすることも出来ずに眉根を寄せたら、こちらを覗き込んだ朝陽が耳たぶに吸いついた。
「寝た振りしててもいいけどさ」
「っ!胸、やだ」
もう夜の時間は終わったはずなのにいつまでもこれでは困る。
「昨日は気持ちいいって言ってくれたのに・・・なんだ、もう嫌になったのか」
昨夜の行為については、きちんと記憶に残っているけれど、最中にどんな言葉を交わしたのかなんてさっぱり覚えていない。
ほとんどまともな言葉を発していなかったような気もするし、何度も朝陽の名前を呼んだ気もする。
あと、夢中で彼に好きだと伝えた気も。
うわああ・・・これはだめだ。
この手の事にさっぱり耐性のない未弥は、甦って来る記憶に大慌てで蓋をした。
この話題で朝陽に勝てるだなんて思わないけれど、黙って頷くわけにも行かない。
真っ赤になって反論しようと口を開く。
「・・・・・・!?い、言ってない!あ、や、ちょ・・・」
残念だなあと胸の先を弾いた朝陽が手のひらを脇腹から腰へと滑らせる。
彼の手のひらが何処を目指しているのか気づいて、大慌てで両足を閉じた。
昨夜は気持ちのいいキスに夢中になっている間に膝を割って間に陣取られてしまったけれど、横向きの状態ならどうにか彼の手から逃れることができた。
ほっと息を吐いた途端、後ろから這わされた手のひらが昨夜の名残が残るそこを優しく撫でた。
身体に残る甘い疼きと熱がとろりと思考を濁らせ始める。
そんな素質皆無だったはずなのに、たった一晩でこの身体は愛されることを覚えてしまった。
指の腹が何かを探るように動き始めて、ぞわぞわと爪先から覚えたての快感が這い上がって来た。
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