第49話 土耳古石-2
「こ、こういう癒しもいいですけど・・・っ・・・・・・・・・見て感じる癒しも・・・・・・っ」
「一番近くで見てるだろ・・・触る権利もお前しかもってないぞ・・・やっと慣れて来たところなのに・・・・・・」
悔しそうに呟いた彼が、身長差を埋めるように屈み込んできて、かぷりと耳たぶを甘噛みされる。
「ひゃっ」
「今夜はするから」
初めて智寿に抱かれた夜、彼の全部を受け入れることは出来なかったけれど、ちゃんと繋がれた、夫婦になれた、という実感が持てた。
あれから何度か夜を過ごして、そのたび楓の身体に自分を馴染ませていった彼は、つい先日やっと最後まで受け入れて貰えて以降、平日でもこうして誘い掛けてくるのだ。
楓の身体が智寿の熱量を忘れないうちに、完全に馴染ませておきたいのだそうな。
「~~っなんで今言うの!?そ、そういう事は、夜になってから・・・」
「言っとかないとテンパるだろ」
湯上りの油断しきったところを抱き上げられて、今日はちゃんとムダ毛処理してない!と半泣きになったのはつい先日の話である。
暗いから見えない、と言い返されたけれど、そういう問題ではないのだ。
「わ、分かりましたからっ・・・とにかく、これは私の持ち物だから、智寿さんは口出さないでくださいっ」
お互い仕事があるし、智寿は家を空ける時間も多い。
この雑誌やあの日の写真データが、彼がいない時の癒しになるのだと訴えれば。
「・・・・・・・・・分かった」
物凄く不承不承だが、どうにか了承の返事を取り付けることに成功した。
「ほんとですか!?全部ですよ、一枚も残らずもらってくださいね?あ、私からショウさんにご連絡しましょ・・・」
善は急げと、本棚に置きっぱなしのスマホを取り上げれば、後ろから伸びて来た手に取り上げられてしまった。
本棚の一番上に楓のスマホを乗せた後で、智寿が腰を抱き寄せてくる。
「それはしなくていい」
「・・・・・・・・・じゃあ、連絡はお任せします」
「お前もさ、あれに注ぐ熱量の半分でいいから、直接俺に向けてくれるといいんだけどな?」
PrideBeを一瞥した彼が、これ見よがしに胡乱な視線を向けてくる。
いまでもファン目線になることはしょっちゅうだが、これでも精一杯加賀谷智寿の妻をやっているつもりなのだが。
「・・・・・・そ、注いでます・・・よ?」
「・・・・・・・・・折角俺がいるんだから、もっと見て、触って確かめれば?」
「~~~っ」
息を詰めた楓の唇を啄んで、智寿が本棚の横にあるパソコンデスクの上に楓を抱き下ろした。
閉じ込めるように両脇に手をついた彼が、蠱惑的に瞳をきらめかせる。
「楓の好きなサービスしてやるけど」
彼の別のスイッチを入れてしまったと気づいた時には、もう腕の中だった。
ムダ毛処理はともかく、こんな時間からベッドルームに籠るのは正解なのだろうか。
っていうか今からしたら夜まで・・・と恐ろしい考えが頭を過って、慌ててその考えを追い払う。
いくら彼が近ごろ楓にご執心といえど、夕暮れ時から夜中までなんて、そんなことは、たぶん、ない。
「私、ファンサ求めたことありませんよね!?」
これでもちゃんと彼が一般人だという認識はあるのだ。
時々あやふやになってパニック状態に陥るけれど。
慌てて顔を背けて、ついでに智寿から逃げようと身体も捻る。
すると、狙っていたかのように背後から腰を抱き寄せられた。
優しく身体のラインを辿られて、勝手に鼓動が跳ね上がる。
「・・・・・・・・・楓がもう無理って半泣きになるコト、してやろうか?」
妻が夫婦生活に慣れて来たことが嬉しいのか、智寿は時々こうして意地悪になるのだ。
涙目になった楓を見下ろす彼の幸せそうな顔といったら無い。
「それ・・・サービスじゃな・・・・・・っ」
負けじと言い返そうと振り向けば、顔を近づけて来た智寿が唇を塞いできた。
息を飲んだ瞬間にキスが深くなって、あっという間に口内に舌が潜り込んで来る。
「・・・んっ」
舌裏を擽られた途端、身体から力が抜けた。
絡め取った舌をおびき出した智寿が柔く甘噛みしてから、もう一度楓の身体を抱き上げる。
「ここでする?」
耳元で聞こえた最後通牒にぶんぶん首を横に振って彼の背中にしがみつく。
楓の返事に、吐息で笑った智寿がつむじにキスを落として、つま先をベッドルームへ向けた。
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