第47話 蛋白石-3

「ふぅ・・・っ・・・ぁ・・・っン、んっ」


宙に浮いた爪先が勝手に丸まっては広がってを繰り返す。


内ももは震えっぱなしでそこを慰めるように往復する手のひらはしっとりと汗ばんでいる。


時折智寿の唇が抱えた両方の足にキスを落としては、また濡れたその場所を探られるから、まともな言葉を紡げない。


お腹の奥に溜まっていく熱が、いまにもはじけてしまいそうで、けれど上手く加減されてしまって、はじけてくれない。


響いた水音が自分のどこから生まれていて、彼の唇がいま何処をまさぐっているのか理解したら、羞恥心と快感で勝手に涙が零れた。


最後までして、とお願いしたのは自分だけれど、こんな暴力的な快感を、楓は知らない。


東京の夜とは比べ物にならないくらいの強い愉悦で頭の中がぐちゃぐちゃになる。


密に濡れた唇を乱暴に拭った智寿が、内ももに強く吸いついた。


反射的に腰を捻って枕の端をひっつかむ。


そうしていないとどこかに連れ去られてしまいそうなのだ。


「・・・堪えなくていいから、声出して」


「ぁ、だ・・・っ・・・う・・・ゃ、ぁ、あ・・・っ」


ついさっきまで舌で舐っていたその場所にそっと指を沈めた智寿が、低く息を吐いた。


「こないだみたいに、気持ちいい場所、教えて」


情欲にまみれた掠れ声で指示されて、訳も分からずこくこくと頷く。


優しく媚肉を押し撫でる指の腹は、決して強引では無いのに、自分の中をこじ開けられる初めての感覚にどうしても脅えが勝ってしまう。


逃げた腰を引き戻した智寿が、おへその下にキスを落とした。


「今からこの中、トロトロにするから」


「・・・ん、っっン・・・ま・・・ゃ・・・こわぃ」


ゆっくりと動き出した指先が、探るように狭い隘路を擦り立てる。


引きつるような違和感が消えて、代わりにこみ上げて来た見知らぬ感覚に、楓は智寿の肩を掴んだ。


「怖くないよ。気持ちいいだけ」


静かに返した彼が、芽吹き始めた小さな粒に唇を寄せる。


ちゅうっと吸いつかれて、ぱちぱちと快感が泡のようにはじけた。


「ひ・・・っンんぅっっ」


堪らず腰を浮かせて爪先を丸めれば、体重を掛けてシーツに楓を縫い留めながら器用に智寿がそこを舌で転がしてくる。


ちゃんと目を開いているのに、視界が濁って何も見えない。


遠くでキーンと耳鳴りが聞こえた。


真っ白な世界に投げ出される予感に、無我夢中でシーツを掻きむしる。


伸びて来た智寿の大きな手のひらが、楓の指を絡めとってしっかり握り込んでくれた。


「・・・イって」


捻じ込まれた指を締め付けながら、駆け抜ける電流に身を任せる。


投げ出された直後の急降下で一瞬息が止まって、世界が暗転した。


自分が目を開けているのか閉じているのかも分からない。


響く水音が増えて、智寿が中の指を広げる動きをした。


さっきまでの違和感がほんの少し和らいでいる。


こちらを覗き込む彼の顔がぼやけて見えて、あ、目を開けてたんだ、と初めて気づいた。


「・・・悦さそうな顔」


優しく頬を撫でた彼が、屈み込んで唇を塞いで来る。


当たり前のように舌を絡ませてくる動きに必死に答えているうちに、また心地よい波に襲われて、節ばった指が増やされた。


誰かと抱き合うことは、もっと単純で簡単なことだと思っていた。


こんなに思考が回らなくなって、感覚の全部を支配されることだなんて、知らなかった。


天井を向いた胸の先を唇で吸い込んで、もう一度楓を導いてから、彼が枕元に手を伸ばした。


「たぶん・・・・・・大丈夫だから・・・・・・挿れていい?」


「・・・・・・たぶん・・・って・・・なに・・・」


「挿入ると思うけど・・・きつかったら、途中でやめる」


避妊具をつかんだ彼から聞こえて来た冷静な返事に、そんなこと出来るの?と率直な疑問が浮かんだ。


「・・・全部は無理でも、半分は受け入れて」


「は・・・ん・・・ぶ・・・・・・・・っ」


馴染ませるように蜜口に擦りつけた屹立が、ぐうっと隘路を侵してくる。


途端力んだ楓の身体を優しく撫でて、智寿が苦しそうに息を吐いた。


「・・・楓、力抜いて・・・・・・まだ痛くない?」


「・・・・・・ん・・・」


こちらの表情を窺いながら慎重に腰を進める彼に、必死に息を吐いて頷き返す。


さっきまでの執拗な愛撫のおかげか、違和感はあるものの想像していたよりも痛くはなかった。


「よく濡れてるから・・・もうちょっと」


「・・・・・・ぅ・・・ぁ・・・っ」


ぐうっと体重を掛けられた途端、引きつる痛みを覚えて楓が息を詰めた。


馴染ませるように腰を揺らしながら、智寿が顔をしかめて天井を仰ぐ。


「・・・ん、今日は、ここまで」


楓が痛みを訴えなかった場所まで腰を引いた彼が、労うように額にキスを落とした。


「・・・・・・あ・・・と、どれくらい?」


「・・・・・・もうちょっと」


そのちょっとが具体的に知りたいのに、ふやけた頭で思った途端、抱えた腰を揺さぶられて、それどころではなくなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る