第40話 瑪瑙
『お礼なんて別に良かったのにー・・・わざわざごめんねぇ・・・しかもこれめちゃめちゃいい大吟醸じゃん』
「部屋代にシャンパンまで付けて貰ったからな」
こっちに戻ってすぐに将太にお礼を兼ねて、お勧めの日本酒を送っておいた。
あの夜は、彼が届けてくれたロゼシャンパンのおかげでかなりいい思いをした。
口当たりの良いシャンパンを上機嫌で口に運んでいく彼女を黙って見守って、ほろ酔いになったところで仕掛けたら、何の抵抗もなくあっさりと楓は腕の中に納まってくれた。
これまでの葛藤が何だったのかと呆れてしまうくらい素直に身を寄せてくれた彼女に、どこまで許して貰えるだろうかとお伺いを立てつつ柔らかい肌に触れた。
慣れない撮影現場で緊張もしていただろうし、疲れていたせいもあって、酔いが一気に回ったのだろう。
智寿の質問にも素直に応えて身を震わせる彼女は途方に暮れてしまいそうなくらい魅力的だった。
砂糖まみれの声が耳元を擽って、そのたび腰が重たくなった。
いやさすがにソファで最後まではと、どこか冷静な自分が突っ込みを入れながらも、もう一人の自分は攻める手を緩めようとしない。
ほんの数歩先にツインのベッドルームがあるにもかかわらず、立ち上がる気になれないのだ。
だってどれだけ待たされたと思っている。
こちとら万年寝不足だし、二人暮らしに慣れて、緊張感が解けて、楓が笑顔を増やして行くたびに堪らない気持ちになった。
慣れた様子で腕の中に納まって、おやすみなさい、と零す彼女に、いつだったらいい?と尋ねそうになって、そのたび急かしてはいけないと自分を叱責してきた。
けれど、将太の言う通り、すべてはきっかけとタイミングだったのだ。
いつもと違う雰囲気で高揚感に包まれた楓は、柔らかい胸に触れても悲鳴を上げなかった。
それどころかこみ上げ来る嬌声を必死に堪えて身体を震わせて来て、肩にしがみついて来たのだ。
視界に収めるだけに留めていた豊満な胸は、吸いつくような極上の触り心地だった。
智寿の手のひらを十分に満たしてくれる柔らかい膨らみと、控えめな尖りのアンバランスにくらくらして、これからこの身体に火をつけるのかと思うと、さらに劣情が滾った。
怖がらせないように、慎重に。
彼女の反応を確かめながら指と舌で味わって、零れそうな膨らみに頬を寄せて唇の痕を残して。
煩悩の全てで彼女のそこを味わい尽くす直前に、先に限界が訪れた楓がびくりと大きく身体を震わせた。
胸への愛撫は当然初めて。
刺激を受けた身体が素直に熱を弾けさせて、ぐったりと項垂れる彼女を抱き寄せた途端、穏やかな寝息が聞こえて来た。
そっと確かめた太ももの隙間はしっとりと潤んでいて、この状態で意識を飛ばしてしまった彼女を信じられない思いで見つめながら、暫く放心状態で過ごした。
それからノロノロと楓を抱えてベッドに移動して、その夜初めて彼女の寝顔を見ながら一人で処理した。
ほんの一瞬足を借りようかと思ったが、歯止めが効かなくなりそうで止めた。
眠れなくなると困るので、彼女の身体を見ないようにしながらルームウェアを着せ付けて、残り僅かなロゼシャンパンを飲み干して、久しぶりに熟睡した。
いつもの夜とは何もかもが違う、満たされた夜だった。
あの程度でこれだけの満足感を得られるのだから、最後まで抱いてしまったら本当に楓の沼から抜け出せなくなるかもしれない。
節度と遠慮が次の課題になるのだろう、多分。
『で、なに、そんな上機嫌な声してるってことは、満足したんだ?』
「ん、した。かなり満足した」
『へえーどうなの、楓ちゃん、ベッドでは相当エロいの?』
「教えるわけねぇだろ」
『あの子の掠れ声聞いてたら、いつまで収まんなさそうだけど』
どうして将太は毎回図星を突いてくるのか。
あの声で耳元で囁かれたら、本気で我慢が効かないかもしれない。
楓的には保たないほうが楽でいいのだろうが、こちらにも沽券と意地がある。
『うわーそこで黙り込むところがやらしいわぁー。なにーどんなエロい夜過ごしたの?参考までに聞かせてよ』
最近俺らもマンネリでさぁ、とどうでもいい話を振って来た将太の質問は当然のようにスルーする。
教えるつもりは毛頭ない。
一生独り占めして自分を慰める時にしか使わない。
「とにかく、借りは返したから。あと、これ俺の番号な。プライベート用だから、広めるなよ」
ここまでしたのだから、義理は果たしたはずだ。
身内とごく少数の友人にしか伝えていない電話番号を開示したのは、将太に恩を感じたからだ。
『・・・・・・はいはーい。またこっちに来るときはちゃんと連絡してよ』
「それはこっちのセリフだ。次に来るときは事前に教えろよ」
『え、なに、楓ちゃん込みで飲み行く?』
「なんでだよ。楓は連れて行かない」
どうして楓込みで三人で飲みに行かなくてはならないのか。
『ええー。俺もお近づきになりたいんだけど?あの子、俺の事見てキャッキャ言ってはしゃいでくれてたし』
「はしゃいでねぇよ。お前は俺のおまけだ」
彼女が見つめていたのは、今も昔も自分一人だけ。
あの夜の彼女の扇情的な表情を思い出してまた頬が緩む。
『うわ!ひど!元相方に!!!』
ぎゃんぎゃん喚く将太を無視して、仕事だから、と言って一方的に電話を切った。
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