第2話 破滅

エドワードのいらつきは頂点に近かった。


マギーを見ればさっさと帰れと思い、エリサを見れば帰るように言えと思ってしまうのだ。

勿論、自分が言うのが一番だとわかっていたが言えなかった。


エリサの柔らかい身体はそばにあるのにお預けなのだ。


休みの日、エリサを誘ってそういうホテルに行こうとしても、マギーが外出についてくるのだ。

欲しいものがあれば買わされ、ぜいたくな店で食事をしてひとりだけ楽しくすごして意気揚々と家に戻るのだ。


ある夜、1年目の記念日に飲もうと新婚旅行先で買ったワインをマギーが見つけ出して、勝手に飲みはじめてしまった。


さすがにエリサが抗議したが


「ワインくらいなによ、ねぇ兄さん。それよりつまみがしょぼい。なにか買ってきて」

「もう遅いから、行かなくていいぞ」

「そうやって甘やかすからこの人、付け上がるのよ。なにその態度。さっさと行って」

エリサは助けを求めてエドワードを見たが、あきらめて出て行った。


さすがにエドワードは止めようと席を立ったがマギーに腕を引っ張られて

「いいのよ、いい薬よ」と言われてタイミングを逸してしまった。


情けないやつだという自覚はあるので酒が進んでしまったエドワードはマギーの顔もみたくなくなり、ワインの瓶とグラスを持つと寝室に移動した。


マギーも文句の続きとばかりグラスを持って2人の寝室へはいった。




激しくドアを叩かれてエドワードは目を覚ました。団長がエリサを横抱きにして立っていた。その隣にダリル夫人がいて大声を出している。


「・・・だい!」

なんと言ってるんだ?


「この恥知らず、あんたたち兄妹きょうだいだろ。ずうずうしく家に連れ込んで」


エドワードは飛び起きようとしたが、そのまま凍りついた。横に寝ているのがマギーだと気づいたからだ。


ドアを激しく叩く音、ダリル夫人の大声で付近の住民が目を覚まし外にでると王都騎士団の馬車とその護衛たち、護衛の騎士たちは礼儀正しく騒がせたことをわび、家にはいってくれと行って回ったが、誰ひとり家に戻らず状況をみていた。


やがてエリサはまた馬車に戻り、ダリル夫人も同乗し去って行った。


エドワードの家はドアを閉め騎士団は付近の搜索に散って行った。


しばらくするとエドワードが制服を着て家を出て行った。


エドワードは詰所にやってきたが団長は不在だった。団員はエドワードを見たがなにも言わなかった。


そういえばエリサは団長が抱いて出て行った。なにがあったのだ?


団員は忙しく出入りして捜索状況を報告しては次の指示で出て行った。たまにチラッとエドワードに目を向ける者もいたがその目は侮蔑に満ちていた。


エドワードは身の置き所がなかったが、隅に立って団長が戻るのを待っていた。


昼近くなって団長が戻って来た。エドワードを見ると部屋に来るように言った。


「状況をどれくらいわかっているか?」


「団長に抱かれてエリサが戻って来ました。怪我をしたのでしょうか?今どこに?すぐ行かないと・・・・どこですか?」


最初、声を落として話していたエドワードはだんだん声を荒らげて団長に詰め寄った。


「確かに怪我をした。暴漢に襲われた」


「なぜあの時間にひとりでだした?いやじっくり話さないといけないが・・・・奥さんとも話さないといけないし・・・・まだあの妹は家にいるのか?」


「わかりません」


「すぐに追い出せ。それからもう一度戻って来い。先ず追い出せ」



エドワードは急いで家に戻った。


家は散らかり酒臭かった。夕べの酒の残りがソファのまわりと寝室にあり、食堂のテーブルにはマギーが食べたと思われる朝食の残りが残っていた。


客間からはマギーの荷物がなくなり、二人の寝室のが荒らされていた。いつもきちんと片付いているエリサの鏡台が散らかっていた。


ざっと片付けて家をでようとしたら隣からダリル夫人が出てきて


「エドワードさん念の為に聞くけどあの女は実の血のつながった妹ですか」


「そうだが・・・」自分の声が夫人の目に吸い込まれるような気がした。


「こんなことが起こるとはね」


「酔っ払って寝ただけだ」


「あの女がどれくらいエリサを苦しめていたか・・・・・あの時間にひとりで外に出すなんて・・・・」


なかなか開放してもらえないエドワードは話し半ばで逃げ出した。



団長からエリサに起きたことを聞いたエドワードはすぐにエリサの元に行こうとしたが止められた。


「おまえは許可がでるまでエリサと会ってはいけない。しばらくここで謹慎だ。仕事もでなくて良い。おまえの姿を見られるのはまずい」


「反省はしてますが、エリサに」


「どこまで覚えている?エリサをひとりで買い物に行かせたな。危険を予知できなかったのか?」


「危険だとは・・・すぐそこまで」


「そうか、エリサが怪我をして歩けないからわたしが家まで送って行った。おまえは妹とベッドに入っていた。服は着ていたから・・・・たんに酔っ払っただけだろう。だがな・・・・騎士団の妻が怪我をしたことは大きな問題だ。おまけにいままでのお前と妹のやっていたことが・・・評判が悪すぎる」


「評判とは?」


「妹は確かマジーと言ったか?」


「マギーです」


「そうかマギーは近所中から嫌われていただろ。そのうえおまえがいない間友達を呼び寄せエリサに負担をかけって・・・こき使い・・・おれはそれを聞いていたからおまえが帰るという連絡をエリサにしたんだ。急に帰るとマギーと友達もばつが悪いだろうと思って・・・・おまえは友達と顔を合わせなかったな・・・・自覚があったんだろう。おまえが戻ると聞いて帰ったようだから、だがマギーは残った・・・・おまえ、帰るように言わなかったのか?親はどう言っていた?」


「ちゃんと言ってました。エリサが怒っているから帰れって・・・」


「エリサが怒っているからか・・・おまえはマギーがいても平気だったってことだな・・・」


「いえ・・・いやでしたが・・・」


「そうか、エリサはおまえの顔をはみたくないそうだ。今ホテルに泊まっているが歩けるようになったら家に戻るそうだ。それから家を片付けて出て行くつもりだ」


「そんな、ぼくが手伝います。エリサを愛しています。僕が世話をします。マギーがいなければうまく行きます」


「わかっていてもマギーを家にいさせた。マギーの言いなりになってエリサに惨めな思い、悲しい思いをさせた。おれとしてもおまえとエリサを合わせるわけにはいかない」


エドワードは焦点の合っていない目を見開いてじっと立っていた。


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