ある夫婦の破局
朝山みどり
第1話 団長は不思議に思う
訓練場に響く剣の音にいらいらした感情を感じて団長のフレデリック・レッドウッドは窓から見下ろした。
いつものようにエドワード・ストーンが稽古をつけている。団員も当のエドワードも気づいていないようだったが・・・・原因に心当たりがあったフレデリックはそういうものなのかと軽く笑ってそれを流した。
エドワードは春の初めに結婚したのだが、花嫁の美しさは町のうわさになるほどで彼の耳にもはいっているし、婚約者の自慢をしすぎてからかわれている場面にも何度も遭遇していた。
早く帰りたいのだろうと、今日は事件が起きないといいなとフレデリックは思った。
エドワードは急いで家に戻るとドアを開けた。
出迎えたのは期待した新妻のエリサではなく妹のマギーだった。
「なんでまだいるんだよ。帰るって言ってなかったか?おふくろとおやじが待っているんじゃないか?」
「それがね、手紙の返事にゆっくりしておいでって書いてあったの。だからもう少しここにいるわ」
「手紙?」
「うん、もっと兄さんの
「そしたら好きなだけいていいってだから、帰らない」
「エリサが嫌がるだろ」『すまん、エリサ憎まれ役にして』
「そんなの兄さんがバシっと言えばいいのよ」
「エリサは?」
「お菓子屋さんデザートを買ってくるって」
エドワードは着替えるとマギーと並んでソファに座ってエリサを待った。
その日の夕食はひとりだけ上機嫌に喋るマギーにエリサが相槌をうっているうちに終わった。
夕食が終わりデザートを食べながらお茶を飲んでいる間、エリサはひとりで片付けた。終わって戻ってくるとマギーが
「お姉様、あたしの滞在を嫌がっているそうですね」
エリサはエドワードを見ると
「そんなことないわよ」と答えた。
「なら、良いけど・・・・友達が・・・・普通はもっと気を使ってくれるはずって言うから・・・気になって」
「気をつけますね」そういうとエリサは寝室に去っていった。
「どう、あの態度。兄さんちゃんと奥さんをしつけなきゃ」
と言うと茶器を片付けもせず占領している客間に行った。
エドワードが寝室に行くとエリサはベッドに入り背を向けていた。
「ごめん、今度ちゃんと言うよ。帰れって」と背中に抱きつきながら言ったが
「静かにしないと、うるさかったって言われるのはわたしですよ」と返事が返ってきた。
翌朝、洗濯物を干しているエリサにお隣のダリル夫人が声をかけてきた。
「まだ寝てるの?帰れって言えれば苦労しないけどね」
「ほんとに」
「早くお茶したいよね。刺繍も教えて欲しいのに」
「そうだ。待ってて」そういうとエリサは家にもどり皿を持って出てきた。
「これ少しだけど味見してみて」と焼き菓子を渡した。
「いつもありがとね。じゃがいも食べて持ってくるね」
昼食がすむとマギーは散歩にいくと言うとおこづかいを要求して出かけて行った。
襟元を飾っているのはエリサのネックレスだった。
日々は過ぎてエリサはやつれていき、ダリル夫人は自分が出て行くように言うと息巻いてエリサが必死に止めることもあった。
エドワードが荒れているのを団員も気づきはじめたが誰も口にださず、団長のフレデリックはエドワードの配置替えを考え始めた。
ちょうどその頃、隣の町が盗賊被害にあい、盗賊の大半は山に逃げるという事件が起こった。
団長は団員の半数をつけてエドワードを派遣した。
エドワードがいない間、マギーは自分の友達をエリサの家に招待した。出発準備のどさくさでエドワードに「うん」と言わせエリサには友達が家についてから話した。
マギーと友人達が大騒ぎするので近隣の住民は呆れ果て、怒鳴り込もうとするダリル夫人を羽交い締めして止めた。
住民の一人は団の顔見知りにこのことを伝えた。
フレデリックは部下との雑談でエドワードの問題を知ったが、本人は隣町にいて確認できない、しかし気になるので休みの日に私服で家のあたりをウロウロしてみた。
するとある一軒の家から着飾った女性が3人でて来た。話し声が大きいので声が聞こえた。
「エドさんの奥さんって・・・・・・うるさい・・・・」
「ほんと・・偉そうにして・・・・」
「貸してくれたって・・・・」
エドはエドワードのことか?3人のうち誰が奥さんか?と思いながら見送っていると
隣のうちのドアが薄く開いているのに気がついた。
不信に思われぬようさりげなく通りすぎながら観察しているとドアが開き女性が出てくると3人が出てきた家をノックした。
ノックに答えてでてきた女性を隣の女性はかかえるように自分のうちに招き入れた。
問題があることがわかったが、どこが問題なのかフレデリックはよくわからなかった。
とりあえず、エドワードを家に戻すことにした。念の為にエドワードが戻ってくることをフレデリック自身がエドワードの家に連絡することにして、部下を2人連れて訪ねた。
家をノックすると隣のドアが開き女性が2人出てきた。
お茶に誘われたが、断りエドワードが戻ることを伝えた。隣の夫人の今度ゆっくりおいでなさいの言葉に送られて馬に乗った。
エドワードが戻ってきたが相変わらず荒れているので、フレデリックはあの隣の夫人の家に行って話を聞きたいと思った、どういう口実で行けばいいのか知恵を絞ったが思いつかなかった。
そんなある日事件が起こった。
買い物中のダリル夫人に走っていた子供がぶつかり、夫人が足をくじいたのだ。
詰所で手当を受けた夫人は駆けつけてきて真っ青になって詫びる子供たちの親を快く許しお見舞いのお菓子だけを笑って受け取った。
そしてフレデリックが夫人を家まで送って行った。
お姫様抱っこでソファに座らせてもらった夫人は、恐縮しながらフレデリックにお茶を入れてもらうとお見舞いのお菓子を食べながらエドワードの家の問題を話してくれた。
確かに帰れとはいいにくいだろうなとわかったが解決の方法は思いつかなかった。
フレデリックはため息をつきながら、深まる秋の涼しさのなかゆっくり馬車を走らせて詰所に戻った。
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