第7話 脱出は派手に
少女は久しぶりの解放感を味わった。手足を伸ばして、小さく飛び跳ねて、自由を噛み締めるように喜んだ。
「この部屋からはどうやって?」
脱出するのか、と少女は尋ねた。
身体の枷はない。部屋から、屋敷から脱出できれば完全に自由である。
しかし何度も言うが、クロードには正面から戦う力はない。部屋の鍵は開けられるが、出て行ったところで力負けするのは明らかだった。
とん、と窓際の壁に寄りかかり、足を組んだ。
「そりゃあ、シロが助けにくるだろうさ。あいつは俺の保護者で、俺がいないとダメなんだから」
そう言ってじっと扉を凝視する。
クロードには視えていた。そこから飛び出してくる、今にも泣きだしそうな顔のランシェロが。
「あは、俺には未来がわかるんだよね。……くるぞ」
そう言ったすぐ後に、勢いよく開かれた扉。
顔を出したのは筋肉男でも伯爵でもなく。
「クロ……!」
お面をしたままでもわかる。涙目のランシェロに違いなかった。
長身の彼からのハグを甘んじて受け入れ、安心させるように背中を叩いた。ランシェロは傷もなく落ち着き払った姿を確認すると、すぐに立ち直った。感情を乱した様子もなくクロードの状況確認にすらすらと答える。
「敵は?」
「見えた相手は倒しています。けれど集まってきてはいるでしょうね」
「……レクトは?」
「煙が上がるでしょうから、待機しているでしょう、いつも通り」
「だよな」
ランシェロには特殊能力があった。
クロードと頷きを交わした後、身体に沿ってゆらりと空気が歪む。
「え? 熱い……?」
少女にはランシェロがほんのりと光に包まれたように見えた。
「近づくなよ。溶けるぞ」
ランシェロは高温の熱気を生み出せた。それは周囲を燃やし、鉄をも溶かす。一気に外へと力を放てば、店の一つや二つ、あっという間に焼失させられる。
ただ決して望んだ能力ではなく、本来現れるはずのない能力で。上手く制御ができないこの力のせいで、昔の仲間からは欠陥品と疎まれ、捨てられたほど。
しかし。
ランシェロは懐から黒い銃身に金の装飾が施された銃を取り出した。す、と流れるように構える。
この銃はランシェロのために作られた特別製で、放つのは銃弾ではなく、身に纏った熱気。
これを手にしてからというもの、明確に銃弾をイメージできるからか、ランシェロは格段に力を制御できるようになっていた。
ただまだ完全にとはいかず、ランシェロが鬱憤を晴らすようにそれを使用する時、毎回大きな爆発を伴った。
ランシェロの武器は強力ではあるものの、あまりに派手で、泥棒としては逃走するときにしか使えないのが弱点である。
「おい! ユビワ! 来い!」
「ちょっと、ユビワって私のこと!?」
差し出された手に自身の手を乗せて、少女は文句を言いながらも笑みを浮かべていた。
どのくらいの間捕まっていたのかクロードたちは知らないが、ようやく家に──それも無事に、帰れるのだ。嬉しさと安堵によるものに違いなかった。
銃を構えたランシェロは怒りのままに力を溜めて。
──発砲した。
爆発の瞬間、窓から飛び降りる。
少女の手はクロードからランシェロへと移り、塔から救い出されたお姫様のように、抱きかかえられて屋敷を脱出したのだった。
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