第3話 秘密の場所2

 肘置き付きの椅子に足を広げて座り、偉そうに手を組む青年。金色の髪に、宝石のような紫の瞳が映え、どこぞの絵本にでも出てきそうな風貌だが、その顔は険しく今にも舌打ちしそうな勢いである。


「少し様子を見てくるだけのはずだったろう? それをなんだ。店を吹き飛ばしてきやがって。貴重な情報収集できそうな場所だったんだがな!」


 何を隠そう、あの食堂について教えたのはこの青年──レクト・アルタイルだった。彼はこの国の現王、カゲを操る支配者の息子。つまりこの国の王子である。


 この国──グランジュ王国は、表向きは平和そのものだ。しかし町の治安は徐々に、そして確実に悪化していた。貴族たちの悪事が目に付くようになってきたことが原因だ。平和に慣れ過ぎた人間が欲を出し始めたのか、それとも昔から裏で行われていたものが表面化してきたのか。

 さらに困ったことに、その悪事の周辺を調べて行くと必ずちらつくカゲの存在。どうやら貴族たちの手助けをしているようなのだ。つまり、王が加担している可能性が高く、レクトは頭を痛めていた。


 が、どちらにせよ目に余る貴族たちの行動を、レクトが水面下で断罪していくことは変わらない。その手となり足となる筆頭が、クロードとランシェロだった。


「僕が使えるカゲはほんの僅かだ。貴重な情報源、それがもたらした情報を君たちは一瞬で葬り去った。ふざけんなよ」


 王位継承権を持つ王族たちも一定の年齢になれば数人のカゲが与えられた。それは身を守るためでもあったが、王となったとき、つつがなくカゲを使用するための訓練でもあった。


「葬り去ってないって。殺してないんだからさあ」

「そういう話ではない!!」


 空気が震えた。王位継承権を持つ人間は特殊な訓練でも受けているのだろうか。一喝で場が引き締まった。

 クロードの言うとおり、店内に残っていた誰も死んでいないし、大きな怪我もなかった。クロードの連れの女はもちろん、店主もまた助けられていた。爆発の張本人ランシェロの手によって。


 しかし店主がカゲの存在を知っていたのなら、間違いなくカゲが接触していた人物であり、その店は何らかの悪事を行っていたということで。


 レクトは溜息を吐いた。


「そのまま監視していればカゲの動きが掴めたかもしれんのに。揉み消すのも骨が折れること、わかってるんだろうな」

「あは、それはごめんて。でも専門外だったからさあ。それに放っておいて怪我人が出たら出たで騒ぐでしょ」

「……面がなかったからですかねえ、なかなか制御が難しくて」


 それぞれなりに反省したところで、レクトは二人に面を手渡した。

 黒色と白色の対となっている面。

 クロードとランシェロはそれを手にして、口の両端を上げた。


「では、君たち”専門”の仕事だ。これが今回のターゲット、決行は今夜だ。君たちが店を潰してしまったからな。──今度こそ、頼んだぞ」


 そう言って差し出した紙には、シンプルなリングに緑の宝石が三つ付いた指輪が描かれていた。

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