番外編

第69話 三年生編予告

 新キャラ登場!


 芦塚さんからはセクハラをされて、高御堂君からはズレたイケメンムーブを見せつけられる、そんな日々が今年も続くのだと思っていた。

 しかし日常とは、ドアが開くだけで簡単に崩れるのだと僕は知ることになる。


「真理お姉様! ようやく会えましたわ!」

「水野さん……」

「そんな他人行儀な呼び方はおやめになって? 昔みたいに佳奈と呼んで下さいませ」

「そんな呼び方をした覚えはないのだけれど」

「まあまあそう仰らずに!」


 バン! と大きな音を立ててドアを開けた水野さんとやらは、物怖じすることなく教室に入ってくると、芦塚さんの腕に抱きついてうっとりとした表情を見せた。


「ちょっと、離れてちょうだい」

「嫌ですわ。ああぁ……」


 芦塚さんは迷惑そうに引き剥がそうとするものの、水野さんは離れることなくしがみつくのを止めない。


「芦塚さん、この人誰?」

「中学の時の後輩で私のストーカーみたいなものよ。私を追いかけて、今年からこの学校に進学したみたいね」

「おお……」


 流石は芦塚さんだ。

 同性のストーカーまでいるなんて……。

 しかしまたコテコテの奴が現れたね。

 高御堂君といい僕の周りって変な人が多すぎない?

 類が友を呼んじゃったのかな……。


「ストーカーだなんて酷いですわ! わたくしはただ純粋にお姉様を愛しているだけなのに!」

「あれはそんな可愛らしいものではなかったでしょう。それに私にはもう恋人がいるのだから、今後は控えてもらえるかしら」

「お姉様に……恋人? ま、まあ、お姉様程のお方であれば、お遊びで交際なさることもあるでしょう……ちなみにそのお相手は、こちらの端正な顔立ちの殿方でよろしくて?」

「俺ではないぞ。あっちのかわいい方だ」

「高御堂君……いちいち変な事言わなくていいのに……」


 水野さんはかわいい方こと僕の顔を値踏みするようにじっくりと見つめる。

 ……水野さんもかわいい顔してるなぁ。

 縦ロールの髪型を実際に見るのは初めてかもしれんね。


「こちらの方が……? 確かに綺麗な方ではごさいますが……お姉様、同性であればわたくしが喜んでお相手致しましたのに」

「いや、僕は男子だよ?」

「男性? ……ああっ! あなたが西河様でございますわね! 女性なのに自らを男性だと言い張る綺麗な方が居らっしゃると、一年生の間でも話題になっていますわよ!」

「んー……その噂は少し違うんだけどなあ」


 おかしい……男だから男だって事実を言っているだけなのに……。

 これじゃあ芦塚さんが女の子と付き合ってるみたいになっちゃうじゃん。


「ははぁん? さては、西河様はお姉様の気を引く為に妙な嘘を吐いておられるのですね? しかし西河様、その容姿で男性だと言い張るのは無理がありましてよ? もう少し鏡をしっかりと見る事をオススメ致しますわ」

「無理じゃないもん……本当に男だもん……」

「そんなに可愛らしいお顔をなさっても、わたくしの目は誤魔化されませんわぁ!」


 あぁ……この人も話が通じないタイプか……。


「なるほど、そういう事だったのか。おい、水野とか言ったか? お前は芦塚の事が好きだということで間違いないんだな?」

「そうですわ! 所であなたはお姉様のお友達でしょうか?」

「そうだ。そしてそこに居る西河を狙っている男でもある」

「なるほど……利害が一致しそう、という事ですわね?」

「察しが良いじゃないか」


 話が通じない同士でシンパシーを感じたのか、水野さんは芦塚さんから離れて高御堂君と急に仲良しになった。

 不穏な会話をしているのは多分気のせいでしょう。

 ねえ芦塚さん、これはあなたのお連れ様なのでしょう?

 ちゃんと御自身で面倒を見てくださる?

 そう思って芦塚さんに顔を向けると、彼女はスマホを片手に我関せずを貫こうとしていた。


「……芦塚さん、なんとかしてよ」

「あの子の相手をするのは疲れるのよ。私の恋人なのでしょう? ほら、私の為に頑張ってちょうだい」

「都合がいいなあ」

「もう、仕方ないわね……」


 そう言うと芦塚さんは僕の後ろに椅子を動かし、後ろから腰に手を回して抱きついてきた。

 ……どうしてこうなるの?


「さあ、あとは任せたわよ」

「多分だけどさ、わざとやってるよね?」

「何がかしら?」

「ほら、水野さんが凄い顔でこっち見てるよ?」


 高御堂君は呆れた様にため息をついているが、水野さんは口を開けてワナワナと震えている。

 ほら芦塚さんってこういう所あるからさ……我慢してね?


「お姉様、何をなさっていますの……?」

「いつも通りにいているだけよ。ねえ西河君?」

「えっ!? うーん……いつも通りと言えばいつも通りなんだけど、おかしいのは間違いないと思うよ」

「そうですわ! 人様の前で何をなさっていますの! それに、抱きつきたいのであればわたくしに抱きついて下さいな!」

「嫌よ」

「そんな……」


 水野さんは膝から崩れ落ちてしまった。

 ……この子、ちょっと面白いかもしれん。


「高御堂君、この人僕より面白いよ? どうかな?」

「どうとは何だ?」

「ほら、僕からこっちの子に狙いを変えた方がよくない? あっちはちゃんと女の子だしさ」

「面と向かってそれを言われると少し悲しくなるな。だが、俺はお前以外を好きになるつもりはない」

「お、おう……」


 その男らしさは別の所で発揮した方がいいと思うの。


「わたくしが愛しているのは真理お姉様だけですわ! 西河様が身を引いて下されば全員が幸せになれますのに!」

「僕の幸せはどこ行っちゃったの?」

「高御堂様とどうぞお幸せに。そうしてわたくしはお姉様と幸せになりますわぁ!」


 言いたい放題だなぁ。

 高御堂君も頷いてるけど、残念ながらそんな未来は来ないよ?


「だったら僕よりも芦塚さんに言ってよ。僕から芦塚さんと離れる事はないけど、芦塚さんがもしもそう言うなら……身を引く覚悟はあるし……ぐすん」

「ちょっと、どうして泣きそうになっているのよ。大丈夫よ西河君、あなたは一生私が面倒見てあげるから」

「あ、芦塚さん……!」

「ほら泣かないの。よしよし」


 相変わらず僕は情けないね……。

 ていうか僕達は教室で何をやっているんだろう。


「か、変わった関係でいらっしゃるのね……」

「そうだ。こいつらは見ていて飽きないぞ」

「それはそうでございますが……わたくしもお姉様によしよしされたいですわぁ……」


 そんなに物欲しそうにしてもダメです。

 ドヤ顔して返してやろう。


「あっ! 高御堂様見まして? あのお顔……むかつきますわぁ……」

「そうか? かわいいじゃないか」

「高御堂様もまともではないようですわね……まあいいですわ。高御堂様、あのお二人を別れさせる同盟を結成いたしましょう!」

「俺はそこまで力ずくで別れさせたい訳でもないが、常識的な範囲内であれば協力しよう」

「流石ですわぁ! この中で最も常識的な思考を持つわたくしが、見事にお姉様を手に入れてみせますわ!」

「……こいつ、本当に大丈夫か?」


 どう見ても大丈夫じゃないでしょ。


 

―――――――――――――――――――――――

 三年生編更新未定!

 

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