第55話 ご当地のお土産は大抵通販で買える

 昼食を食べ終えて、次はどこへ行くかと話していると、先程調べていた時に気になるお店があったのを思い出した。


「そうだ、行ってみたい所があるんだけどいいかな?」

「私は構わないけれど、何のお店なの?」

「なんか有名な石鹸のお店があるらしいんだよね。ちょっと気になるの」

「俺は特に行きたい所もないし構わないぞ」

「ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」


 パンケーキのお会計を済ませて外に出る。

 その石鹸のお店は国際通りに何店舗も出しているみたいで、少し歩くと直ぐに店舗に辿り着けた。

 この狭い場所に何店舗も出すってすごいね。

 よっぽど儲かってるのかなぁ……。


「西河君が行きたがる場所って珍しいわね。あなたってそんなに石鹸とかにこだわっているの?」

「いや全然。でも何か綺麗じゃない?」

「確かに綺麗ね……そういえば、あなたの家のボディーソープってパッケージと違う中身が入っている気がするのだけれど、実際どうなの?」

「シャンプーもボディーソープも全部中身はバラバラだよ。薬局で行った日に一番安いやつを買ってるから、僕も今は何が入ってるのか覚えてないんだよね」


 これも一人暮らしをしているとよくある事だと思うんだけど、芦塚さんはため息をついて首を降ってしまい、高御堂君は目を細めて横目で僕を見つめている。

 二人とも美意識高そうだもんね。


「お前はよくそれでこの店に興味があると言えたな。まあ俺も見ていて楽しいからいいんだが」

「そうね。私もこういうお店は結構好きよ」


 ならいいじゃん……。


「二人が退屈して無いならよかったよ。ていうか結構高いんだね。ほら、これ一つで3000円だよ?」


 手に取ったのは一番人気っぽい場所に置いてある洗顔用の石鹸だ。

 3000円あったら僕が使ってる洗顔1年間分以上買えると思う。

 

「それくらいはするものよ。私が使っている洗顔も結構高いし、有名な商品なら妥当じゃないかしら」

「そうなんだ……なら試しに買ってみようかなあ」

「いいと思うわ。ほら、通販もやっているみたいだから、気に入ったらずっと使えるわよ」

「あれ? 通販があるなら今買わなくてもよくない?」


 便利な時代になったね……。

 でも何ていうか、これはちょっと違うと思うの。

 情緒も風情もあったもんじゃない。

 引きこもりに優しい時代になったなぁ。


「細かい事は気にしないの。私はこっちの固形のやつを買うことにするわ」

「その青いやつ綺麗だよねえ。でも折角だしこの洗顔を買ってみようかな。泡が凄いって書いてあるし」


 普段使っているやつがメンソールでスースーするやつだから、こういうスースーしないやつは物足りなくなりそう。

 でもまぁお土産だし、最悪使わなくてもいいか。


「高御堂君は何か買うの?」

「俺はこのハンドクリームを買っていこうと思う」


 ハンドクリーム?

 この男はそんな手荒れとか気にするタイプだっけ?

 もしかして……。


「あー、例のお手伝いさんにあげる感じ? ていうかもしかして女の人なの?」

「そうだ。言ってなかったか?」

「初耳だよ……えっ、その人って若いの?」

「具体的な年齢は知らないが、結構若いと思うぞ」

「そんなハレンチな……」


 年頃の男子と若い女の人が同棲だと……?

 しかもお手伝いさんだなんて、昼ドラなら間違いなく男女関係になっててその女が犯人でしょ。

 遺産目当てに高御堂君のお父さんを殺して、息子である高御堂君に迫っているに違いない。

 この男は結構抜けているし、コロっと騙されそうな雰囲気かあるのでピッタリな配役だ。

 やっぱり彼は悪い女に騙される運命にあるんだね……。


「……また馬鹿な事を考えてそうだが、本当に何もないぞ? お前こそ昨日は先生と何も無かったのか?」

「昨日は酔っ払いの相手をさせられたくらいかな。はぁ……今日も寝るのが遅くなるのかな……」

「……大変そうだな」


 これも全部君のせいだからね?

 君のせいで私ううーだよ。

 ジロリと彼を睨んでみても、彼はどこ吹く風とレジへと向かっていった。

 相変わらずこの男は都合が悪くなると逃げるよね……。

 


 石鹸のお店を出てからは名物を食べ歩きながら商店街を見て回った。

 父と暮らす妹の渚にお土産を買っていこうかとも思ったけど、邪魔になるから明日空港か水族館で買った方がいいと気づいたのは偉かったと思う。

 ホテルに戻って夕食を済ませ、そこからは先日と同じくホテルでの自由時間となった。

 昨日の反省を活かして今日はさっさとシャワーを済ませてしまおう。

 この時間であれば、いくら何でも先生が帰ってくることはないはずだ。

 時間も沢山あるし湯船を貼っちゃおうかな。

 


 湯船にお湯を貯めて浸かった後、お湯を抜きながら体を洗って入浴を終えた。

 久しぶりに湯船に浸かると眠くなるね。

 酔っ払いに絡まれる前に早く寝るのもいいかもしれない。

 でも電気付けたまま寝るのって苦手なんだよね……うとうとするくらいならいいんだけど。

 途中で起こされるのも嫌だし、今日も先生が寝るまで我慢してようかな。

 そんなことを考えながら浴室を出ると、今日も今日とて先生と鉢合わせてしまった。

 またしても下着1枚の姿を先生に晒すことに……先生はラノベの主人公なの?


「……先生わざとやってる? そんなに僕の裸が見たいの?」

「違う! お前は本当に間が悪いな……」

「だって昨日はこの時間に居なかったじゃん」

「今日はこの時間が休憩なんだよ。就寝前にはまた出ていくが」

「なるほど……でもちょっと見すぎじゃないですか?」


 先生は会話しながらも、顎に手を当て、うなずきながら僕の体を舐めるように見ている。

 そのいやらしい視線をやめてもらえますか……?

 さっさと着替えちゃいましょうね……。


「いやすまん、改めてちゃんと見ても男の体には見えなくてな。骨格からも男らしさが欠片も感じられないし、何より全体的にほっそいなー。ちゃんと食べてるのか?」

「食べてますよーだ。今日もお昼にパンケーキ食べたし、普段もカロリーの高い物ばっかり食べてます」


 宅配ピザとかカロリーメイトとかね。

 あいつらはカロリー化け物でしょ。

 そういえば最近、コンビニの弁当は値上げが凄くて買うのが馬鹿馬鹿しくなってきて全然食べなくなったなぁ。

 これ以上値上がりしたら貧乏人は死んじゃうよ?


「それで太らないのか。これが……そうか……その体の中にあるものが……若さか」

「先生も古いネタ挟んでくるじゃん。今の若い子に伝わるのそれ?」

「ブリーチは古くないだろ!?」

「いや古いよ……」


 僕みたいに一日中ネットを眺めている暇人ならともかく、ネットのネタに詳しくないパーリーな人には伝わんないでしょ。

 でも最近は皆スマホ持ってるし結構知ってるものなのかな?

 芦塚さんは知らなさそうだし、僕の狭すぎる交友関係を参考にすると、やっぱり古いし伝わらないと思うの。


「馬鹿な……一護とグリムジョーのカップリングは鉄板だよな……?」

「僕はそういう目でブリーチを見たこと無いんで、すみません」

「急に突き放すなよ……」


 先生とブリーチのカップリングについて語れる男子高校生はこの世にいないんじゃない?

 もし詳しくても教師と語り合うのはヤバいでしょ。

 心臓に鉄の毛が生えてないと無理だよ。


「先生って結構キツめのオタクなんですね。この修学旅行で一番勉強になった事かもしれないです」

「これくらいは一般教養だ。刃牙とかワンピースと同じくらい知ってて当然の内容だ」

「ワンピースはともかく刃牙はどうなんでしょうね。僕は好きだけど」


 それからも先生と漫画談義をしていると、結構趣味が合うことが判明した。

 連絡先まで交換したし、先生が同級生だったら友達になれたかもしれない。

 でも残念ながら先生なのよね、これからも程々な距離感でお願いします。

 学校で『西河、昨日のチャンピオン見たか? 勇次郎はすごかったな!』なんて話しかけられて刃牙談義をする光景はいたたまれないでしょ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る