第54話 ベーコンバナナワッフルと登山
「……なんだ、それは?」
「なんでしょうね……」
焼き上がったシーサー2つの間には1つの奇怪なオブジェクトが置かれていた。
……焼く前よりも奇々怪々な雰囲気が増している気がする。
手に取って色々な角度から見ても、これが何なのかが僕には分からなかった。
「西河君はこういうのがちゃんと下手っぴで安心したわ。期待通りよ」
「もっと別の事に期待して欲しいかなあ」
「それにしても奇妙な物が出来上がったわね……でも、魔除けの効果は高そうでよかったわね」
確かにこれが置かれている場所には魔も近づかないよね。
守り神よりも邪神とかSCPに近いと思うけど。
目を離したら襲ってきたりしないよね?
「ああ、西河らしくていいと思うぞ」
「じゃあどっちかにあげるよ。何か怖いし僕は要らないから」
「私も要らないわ」
「いらん」
……ひどい。
作った物は各自の家に届けられるらしいので、手続きを済ませて工房を後にした。
あれが後日家に届くのか……父さんにでもあげよう。
国際通りで解散して自由行動となり、まずは昼ごはんを食べる場所を探すことにした。
調べてみると、どうやら沖縄そばかステーキハウスが有名らしい。
「結構がっつりみたいだけど、芦塚さんは大丈夫?」
「そうね……できれば沖縄そばの方が助かるかしら。それに、こっちのパンケーキも気になるし」
「あー、僕も気になってたんだよね」
芦塚さんと二人でスマホを見ていると、高御堂君も横から覗き込んできた。
「ならそこへ行こう。ラストオーダーまで時間もないじゃないか」
「いいの? ここだと高御堂君は物足りなくない?」
「腹が減ったら何か適当に食べるから気にするな。そのパンケーキも美味そうじゃないか」
「高御堂君ありがと!」
高御堂君のお心遣いによりパンケーキ屋へと向かうことになった。
こういう時にさらっと女子を優先してくれるのが嬉しいよね。
僕としても沖縄そばとステーキにはあんまり興味なかったし、こっちのおしゃれなパンケーキの方が良かったのが本音だ。
そうして少し歩き、パンケーキ屋へと辿り着いた。
中に入ると、他の学校から来たと思われる、制服を着た人達が沢山居た。
少し調べたら出てきたし、やっぱり有名なお店なんだなぁ。
「いらっしゃいませ! 3名様ですか? あちらの席へお願いしまーす」
「はーい」
店員さんの手の方向に空いている4人席があったのでそちらに座る。
すると、先に横の席に座っていた制服を着た男女4人間のグループがこちらに視線を送ってくる。
ははん? 芦塚さんに見惚れているな?
まぁ特別に見るだけなら許してやろう。
沖縄の海よりも美しい彼女を見れた事を幸運に思うがいいさ。
「西河君、何を面白い顔をしているの? ここに来られてそんなに嬉しのかしら?」
「嘘、僕変な顔してた?」
「していたわ。下らない事を考えている時も、よくそんな顔をしているわよ。ねえ高御堂君?」
「ああ、西河はよく一人でニヤニヤしているイメージがあるな」
「嘘でしょ? えっ、僕ってそんなに変なやつなの……?」
どうやら口元が緩んでしまっていたらしい。
ていうかそんなに見ないで……。
「西河が変なのは置いておいて、とにかく先に注文するぞ」
「置いといていいのかなあ」
何となく腑に落ちない僕を他所に、二人はメニュー表に目を向けてしまったので、僕も横に座る芦塚さんの見ているメニュー表を覗いてみる。
値段はそこまで高くなく、パンケーキミックス以外にもオムレツやエッグベネディクト等の甘くないメニューもちゃんとあった。
高御堂君もこれなら大丈夫だろう。
「二人共決めたか? 俺はこのベーコンバナナワッフルにしてみる」
「私は決めたわよ。スフレパンケーキのフルーツスペシャルにするわ。ソースはリリコイにしようかしら」
「僕はそれのストロベリーソースで」
僕たちの返事を聞くと、高御堂君は店員さんを呼んで全員の注文を済ませてくれた。
「ていうか高御堂君、結構チャレンジするね。ベーコンとバナナとワッフルって合うの?」
「分からん。しかし好奇心に勝てなかったんだ。バラバラにすれば食べれないという事はないだろう」
「なら闇鍋の時ももう少し手伝って欲しかったな……」
あれもかなり甘かったよ?
お肉も入ってたし、それとあんまり変わらないんじゃないかな。
「見た目が全然違うだろ。あれは好き好んで食べる物ではない」
「僕だって好きで食べた訳じゃないのに」
「二人とも、食事の前に嫌なことを思い出させないでもらえる?」
嫌なことって……。
そんな会話をしていると、横の席に座る知らない男子生徒と目が合った。
この人、さっきからチラチラ見てるのバレバレなんだよね……。
すると彼は意を決したのか、こちらに声をかけてきた。
「お姉さん達楽しそうだね、何処から来たの?」
ほら芦塚さん、声かけられてるよ?
僕はお姉さんじゃないから返事できないんだよね。
こちらで唯一の女性である芦塚さんに、返事をしないのかと顔を向けると、我関せずと言わんばかりに水の入ったグラスに口を付けていた。
……ちょっと? 向こうの男子も固まっちゃったじゃん。
「芦塚さん、返事してあげなくていいの? なんか可哀想だよ」
「あなたが話しかけられていたのに、どうして私が口を挟む必要があるのよ」
「だってお姉さん達って言ってるし、芦塚さんと話したいんじゃないの?」
「あなた、もしかしてまだ自分の事を男子だと思っているの? 彼らから見たら、あなたも立派なお姉さんよ」
「えぇ……」
いや、僕は顔がとってもかわいくて女子の制服を着ているだけの立派なお兄さんだよ?
……無理があるな。
仕方ない、話し相手になってあげましょうか。
異文化交流ってやつだね。
「あ、えーっと……愛知からだけど……」
「愛知かー、俺達は富山から来たんだけどこっちは温かいね」
「そ、そうですね……ていうか北の方の高校の修学旅行はスキーってイメージだけど違うんだね」
「詳しいね。他の学校はそうだけど、うちの学校は沖縄なんだよ。だからこの学校を選んだくらいなんだ」
「へー」
芦塚さん、そろそろ助けてくれない?
イヤホンまで付けて関係ないアピールもやめてもらっていいでしょうか……。
……ん? 違う、イヤホンの片方をこっちに渡さなくてもいいの。
一緒に見たいとかじゃないから……。
「しかしそっちの三人は皆綺麗だね。やっぱり都会だからかなー」
「あはは……都会は関係ないんじゃないかな……」
「ねえ、どっちが彼と付き合ってるの?」
「どっちも付き合ってないよ。ただのお友達」
「まじで? うわー勿体ない」
ぐいぐい来るなこいつ。
ていうか……。
「勿体ないって、もしかして彼に一目惚れしちゃったの? まあ彼はモテるからね」
「違うよ!?」
「いいんだよ恥ずかしがらなくて。僕はそういうのに理解あるし、彼を好きになっちゃった男の人を見るのも初めてじゃないからさ」
「おい西河、それは本当か?」
困る僕を見て見ぬふりし続けていた高御堂君が、ついに会話に混ざってくれた。
そっちの女の子もどうだい?
僕の代わりにこの男達と会話を楽しんだらどうかな。
僕は芦塚さんと動画見てるからさ。
「本当だよ。誰かは言わないけど風の噂で聞いたことがあるの」
「……まあ、危ない事にならないなら問題ないか」
「大丈夫だと思うよー」
彼は結構紳士的だったし。
でももし、彼が力づくで高御堂君に襲いかかったら糧なさそうだなぁ。
星名君だっけ? あの人めっちゃガタイ良いし。
「やっぱり都会はすごいな、こっちだと同性を好きになる奴なんて見たことないのに。そういう人って結構いるの?」
「……西河、どうなんだ?」
「僕に聞かれても……高御堂君のことはたまたま知ってただけだし」
僕が結構告白されることから察するに、結構多いと思います。
でもここで、僕は男だーって言うと話が長くなりそうだしやめとこ。
この話から逃れるように芦塚さんに顔を向けると、何かを思いついた様に口元を緩ませながら僕の腕に抱きついてきた。
ちょっ……どうしたの?
「あら祐希ちゃん、あなただって女の子が好きなんでしょう? 私と付合っているのだし」
「えっ……まじで?」
名前も知らない富山から来た彼は若干嬉しそうに確認を取ってくる。
もう富山君と呼ぼう。
こんな嘘に騙されるなんて、富山君は純粋だなぁ……。
「そうよ? 私とこっちの彼とでこの子を取り合ったの。激闘の末に私がこの子を勝ち取ったという訳ね」
「芦塚さんこっちの話聞いてたんだ……」
「おい芦塚、その話はあまり他の人にしないでくれと言ったはずだろ」
高御堂君のマジっぽいリアクションに、富山君一派は僕の顔を見て戦いている。
……いや、そんなに震えられても。
「うわあ……最初はそっちの人のハーレムかと思ったのに、その子のハーレムだったのか……そりゃー同性愛に理解がある訳だよ」
「あなたもこの子と仲良くしたかったのかもしれないけれど、私は独占欲が強いのよ。だからご遠慮頂けるかしら?」
「す、すみませんでした! おい、そろそろ出ようぜ」
「う、うん……」
「いいなー、私もあんなかわいい彼女が欲しいなぁ……」
「えっ?」
何やら一人が不穏な発言を残していったものの、芦塚さんのおかげで富山君達を追い返すことができた。
あの子も彼女ができるといいね。
ていうか身近に同性愛者いたじゃん、気づいてあげなよ。
「……もう出てったよ。芦塚さんはいつまで抱きついてるの?」
「私は独占欲が強いからいつまででもね」
「えー……芦塚さんって結構束縛するタイプ?」
「さあ、どうかしら? 束縛する相手もいなかったから分からないわ」
「まあ程々にしてあげてね」
自覚のない束縛女か……実は芦塚さんは結構厄介なタイプなのかもしれん。
芦塚さんに束縛されるのは悪くないと思える人でないと、彼女とお付き合いすることは難しそうだ。
僕はドンと来いですよ!
まぁ全部冗談ですが。
芦塚さんが厄介なタイプなんてあり得ないでしょ!
「それにしても西河は、俺の次は芦塚と付き合っていることになったのか。節操がないな」
「いや、二人が勝手にやってるだけじゃん……」
「西河君と付き合ってるフリってやつを私もやってみたかったのよ。この前も二人で楽しそうにしていたし」
「まあ、さっきの連中と会うことはもう無いだろうしな」
優香さんに嘘を吐くのと違って、富山君にいい加減な事を吹き込むのは問題ないだろう。
どっちかと言うと高御堂君の方が面倒を引き起こしてるんだよね……。
もう何でもいいんだけどさ。
「お待たせしましたー! ごゆっくりどうぞー」
そんな話をしていると、注文したパンケーキ達が到着した。
高御堂君の注文したベーコンバナナワッフルには、思っていたよりも分厚いベーコンが乗っていて迫力すら感じさせる。
……あのベーコンはピザの上に乗っていれば美味しそうなのにね。
高御堂君は迷う事なくベーコンとバナナとワッフルを一口サイズに切り分け、まとめて口に入れた。
「どう? 美味しいの?」
「……不味くはないがベーコンは別で食べたいのが本音だな。それぞれが美味いから何とか食える感じだ」
「そっかー。そういえばさ、名古屋にもそんな感じの料理を出してる喫茶店があるんだけど今度行く? マウンテンって所なんだけど」
喫茶マウンテン、それは愛知県民なら一度は聞いたことのある有名なお店だ。
甘口抹茶小倉スパを代表とする、イチゴやバナナ等のクリームたっぷりな甘いスパゲティが看板メニューらしい。
ここに行くことは登山と呼ばれ、毎年遭難する者が後を絶たないとか何とか。
僕は行った事がないけど高御堂君ならば行けるかもしれない。
しかしマウンテンの名前を聞いた芦塚さんは、パンケーキを食べる手を止めて顔をしかめてしまった。
「私は行かないわ。行くなら二人で行ってきなさい」
「えー芦塚さんも一緒に行こうよ。束縛するタイプなんでしょ?」
「嫌よ。あそこにだけは行きたくないわ」
「まあ芦塚さんは苦手そうだもんね。高御堂君はどうする?」
「いや、俺も遠慮しておこう」
だよねー……。
芦塚さんがここまで嫌がるお店に行きたいとは思わないだろう。
あのお店を悪く言うつもりは全く無いんだけどさ、入る勇気がどうしても湧かないんだよね。
でもいつか挑戦してみたいなぁ。
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