第44話 西河vs.高御堂 炬燵での攻防
女性二人に調理をお願いして、我々男性組は炬燵で待機することになった。
前も二人で待ってたよね……揃って進歩がない……。
今度二人で料理のお勉強しましょうか。
前時代的な考え方かもだけど、やっぱり料理は女の人にやってもらえた方が、男としては嬉しいんだよね。
まぁ女性としても男性にやってもらった方が嬉しいんだろうけどさ。
男女平等が騒がれる世の中なのでこれ以上の考えは危ない。
今回は料理が得意な人がたまたま女性組だっただけなのだ。
僕と高御堂君が得意だったら僕達がやりましたよ?
何なら今回だってやる気だけはあったのに。
「高御堂君は料理やったことないって言ってたけど、苦手意識とかある?」
「特にないな。やれば多分できると思うぞ」
「だよねー。僕もそうだし」
やっぱり男はみんなそう考えるものなんだよね。
レシピ通りにやるだけでしょ?
「いや、お前はどうだろうか……」
「毎回思うんだけどさ、僕ってどうしてそんなに信用ないの?」
「お前は想像もつかないようなミスをして、その失敗に気がついてもそのままゴリ押ししそうな気がするな。食べれるから大丈夫とか言いながら」
「あー……」
なんか分かるかも。
でも、食べれるならそれはミスじゃなくない?
「それにしても、二人に任せっきりで申し訳ないね。キッチンも広くないから二人以上は入れないんだけどさ」
「お前は場所を提供してくれたではないか。俺は材料を用意したのだし、気にしなくても大丈夫だろう」
「そう言って貰えると助かるなあ」
場所を提供するだけで高価な食材と女の子の料理が手に入るのか……。
なんか釣り合ってないと思うの。
「お前は正月に何かしたのか? どうせ何もしていないとは思うが」
「そうだねー……あっ、でも久しぶりに父さんとは会ったよ。初めてお年玉も貰えたし。あとは年越しは芦塚さんと一緒に居たかなあ」
「思ったよりも充実していたんだな。何もせずに一日中寝てるだけだと思っていたぞ」
ほう、中々に理解のあるカレピッピじゃないか。
「昨日と一昨日はそんな感じだね。高御堂君は向こうで何してた?」
「家に親戚が集まったくらいだな。親父は取引先の人との挨拶や会食に行ったりとバタバタしたいたが、俺はまだ参加しなくてもいいそうだ」
「社長さんも大変なんたね。高御堂君って、将来はお父さんの会社に入るの?」
「そのつもりなんだが、正直迷っている。社長の息子というだけで白い目で見られるのは間違いないだろうしな」
「そういうものなの?」
「恐らくそうなるな。表ではいい顔されても、影ではジュニアと呼ばれてバカにされるのが目に見えている。まあ、彼らは苦労して得た立場があるのに、社長の息子というだけで俺みたいな若僧に気を使うのは面白くないというのは理解できるがな」
確かに、社長の息子に変な対応をして社長からの評価が下がるのはマズそう。
そう考えると、会社の偉い人達も大変なんだね……。
「なるほどねえ。じゃあ高御堂君は文句を言わせないくらいに頑張るしかないね」
「そうできれば良いな。だが、こればっかりはまだ分からん」
普段は自信満々な態度を取る高御堂君だが、余程不安なのか暗い表情を見せている。
まぁ彼の態度はキャラ造りによるものであって天性のものではないからね。
事が事だけに、本当に不安なのだろう。
……よし、あれを試すか。
プランを決めた僕は高御堂君の方に体を少しだけ詰めて、彼の頭に手を乗せる。
「大丈夫、高御堂君ならきっとできるよ。普段から僕にも気を使ってくれてるのは分かるし、ちゃんと高御堂君の良い所は伝わると思う。最初から色眼鏡で見る人には何をしても無駄なんだしさ、理解してくれる人を大切にしようよ」
「……お前、たまにはまともな事も言えるんだな」
「僕はたまに変な事を言うだけであって、普段は結構まともな事しか言ってないつもりなんだけどなあ」
高御堂君の表情は多少和らいだものの、彼の口からは憎まれ口しか出てこない。
彼はツンデレ気質があるので素直になれないだけなのだ。
もっと素直にデレてもいいのにね。
「クリスマスの時といい、相変わらず弱った男に付け込むのが上手いな。あと、そろそろ頭から手を離せ」
「えーいいじゃん別に。ほら、僕達付き合ってるんでしょ? よしよし、高御堂君元気出して?」
「別に元気が無い訳ではない」
そう言うと高御堂君は僕の手を、虫でも払うかのようにして払いのけてきた。
もう、恥ずかしがり屋さんなんだから!
僕は負けじと彼の頭に手を戻そうとするが、彼は体を避けたり手で防御したりと必死の抵抗を見せる。
「頭撫でられるの嫌じゃないくせにー。恥ずかしがらなくてもいいんだよ? ほら、大人しくしなさいって」
「お前に羞恥心はないのか? ほら、優香がこっちを見てるぞ」
確かに優香さんはじゃれつく僕達をニヤニヤしながら見ている。
あの顔ムカつくなぁ……。
ていうか君、高御堂君の事好きなんじゃないの?
好きな人が他の女とじゃれ合ってるのを見ていて楽しいのか?
メンタル強すぎるでしょ。
なら、もっと見せてやろうじゃないか。
「全然気にしないよー。そうだ、そんなに嫌なら代わる? 僕の頭も触っていいよ」
「どういう理屈だ? だがまあ、確かにそっちの方がまだマシではあるな」
「そうでしょう? ほらどうぞ」
自分でもよく分からないが、取り敢えず高御堂君を言いくるめることに成功した。
正直彼に頭を触られても何とも思わないから、これで高御堂君の反応が見られるなら安いもんだ。
「全く……お前は面白い女だな」
そう言いながら高御堂君はゆっくりと僕の頭に手を乗せた。
彼がやたらと優しい顔をしているのが何となく面白くないので、僕は彼の目を見つめて反撃に出る。
女の子の髪を触るんだからさ、もっとこう……ないの?
まぁ実際は男の髪の毛なんだけどね。
そりゃー何とも思わないか。
「……おい、どうしてそんなに見つめてくるんだ。少し恥ずかしいぞ」
「だって高御堂君が普通にやるから。なんか面白くなくて」
「お前は俺に何を求めているんだ?」
「んー……僕が普段、芦塚さんにやられてる時の僕みたいな反応かなあ。僕ばっかり恥ずかしい事されてずるいじゃん」
「あれはお前達だからそうなるだけだ。普通ああはならなん」
「やはり僕では実力不足なのか……」
芦塚さんはすげぇや……。
僕が彼女みたいになれる日は来るのだろうか。
そもそも性別が違うんだから目指す意味もないんだけどさ。
「ほら、もういいだろ。全く、何の時間なんだこれは……」
そう言うと高御堂君は僕の頭から手を離した。
彼は面倒くさそうにしているけれど、実は心臓バックバクに違いない。
そう信じよう。
じゃないと僕、本当に変な奴じゃん……。
「まあ、今回はこれくらいで勘弁しといてあげるよ」
「やけに上から目線だな。今日は本当にどうしたんだ?」
「いやあ、折角高御堂君と二人だからね。この機会にやれるだけやってやろうと思いまして」
「今一つ意味が分からんが、程々にしといてくれ」
「ちなみにさっきまでのは何点?」
「そうだな……65点といった所だな。流石にしつこいのがマイナスだ」
結構厳しいのね……。
「ちなみに良かった所は?」
「やはり気持ちが落ち込みかけている所を見逃さなかったのは高得点だったな。頭を触られるのは初めてだったが、案外悪くなかった。あとはお前の髪が綺麗だったのも加点ポイントと言える」
「なるほど、勉強になります」
「相変わらずよく分からんやつだ」
「でも、そんな僕が好きなんでしょ?」
高御堂君は大きく目を見開いて言葉を詰まらせる。
たしか、高御堂が先に僕の事を好きになったみたいな設定だったよね。
優香さんの居るこの場で言い逃れはできないはずだ。
さぁ高御堂君、デレちゃいなよ。
少し間を空けて、高御堂君は観念したように大きくため息をついた。
「はあ……そうだな。俺はそんな西河が好きだ。でもお前みたいなやつと付き合えるのは、俺か芦塚くらいだと思うぞ」
「ありがとー。これからもよろしくね?」
「ああ、わかったわかった」
高御堂君は照れ隠しなのか、炬燵の机に肘をついてそっぽを向いてしまった。
確かに、嘘でも好きって言うのは照れくさいよね。
半ば無理やり好きと言わせたのである程度は満足はしたけど、僕の中のリトル西河がまだいけると訴えかけてくる。
最後のひと押し、やっちゃいますか。
僕は炬燵の中で高御堂君の足を探し出してスリスリと触ってみる。
触れた途端に逃げられたものの、再び触ってみると観念したのか、なされるがままとなった。
その感じ分かるなー。
僕もそうだったし、やっぱり最後は諦めるしかないんだよね。
彼のふくらはぎに僕の足を擦り付けていると、流石に我慢の限界なのか、上から足で抑え込まれてしまった。
「もういいだろう。なんの遊びなんだこれは?」
「僕も分かんないけど、芦塚さんにやられたから高御堂君にもやってみようと思って」
「お前達は正月から何をやっているんだ……」
「ほんとにねー。炬燵の中で足を触られるとゾワゾワするよね」
「分かっているならやめてくれ」
「やめてもいいけど、次は僕が高御堂君の上に座ることになるよ?」
そう言うと、高御堂君は不愉快そうにしながらも足をどけてくれた。
僕としても高御堂君の上に座るのはやりすぎだと思うので助かります。
芦塚さんは本当にやりすぎなんだよなぁ……。
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