第33話 裏切りの音がする!
クリスマス会とやらへの参加が決まったので、そこで行われるビンゴ大会で必要なプレゼントを買いに行くことにした。
やって来たのは名古屋駅の東急ハンズ。
最初はアマゾンで何かしらを買おうと思ったけれど、目星すら付いていない状況では難しかったので、概ね何でもあると思われるここまでやってきたのだ。
タカシマヤから上っていって5階から順に見ていくと、まず最初に化粧品や入浴剤が売られているお店が見つかった。
……もう入浴剤でいいんじゃない?
生モノじゃないし、好き嫌いはあるかもしれないけど絶対に使わないという人は少なそうだし。
それに何より、会場までの持ち運びが楽ちんだ。
よし、これにしよう。
何が良いのかは分からないので、目に留まった緑色のボトルを手に取り価格を見る。
2000円が他の人の物と比べて高いのか安いのかは不明だが、横の200円くらいのやつよりは良いだろう。
この価格であれば手抜き感も無く無駄に高価でもないから丁度いいはずだ。
プレゼントの購入も終わったし、ついでに他の物も見てみようか。
化粧品コーナーを見てみると、スキンケア用品やネイル用品がところ狭しと並んでいる。
スキンケアはコンビニでも売っている化粧水1つしか使っていないので、試しに良い物を買ってみるのも良いかもしれない。
顔パックタイプがいいのか、ボトルタイプの方がいいのかとウロウロしていると、足音もなく店員がこちらに向かってきた。
「何かお困りですか?」
「あっ、スキンケアをやってみようと思ったんですけど、よく分からなくて……」
コミュ障特有の『あっ』が出てしまい、何となく恥ずかしい。
知らない人に話しかけられると、つい出ちゃうの。
「スキンケアはされてないんですか? それにしてはお肌綺麗ですねえ」
「ははは……どうもです。コンビニに売ってるやつは普段から使ってるんですけどね。他のやつも試してみようかなって」
「なるほどですね。でしたら、こちらはいかがでしょうか?」
店員さんは顔パックシートの1つを僕に手渡してくれる。
「こちらは価格もお手頃で若い方に人気ですね。お客様は特に具体的な悩みも無さそうなので、肌に潤いを与える為であればこちらはオススメとなっております」
「こういうのって思ったより安いんですね。これくらいなら試してみてもいいかも」
「はい! 高価な物はいくらでもありますが、お客様くらいの年齢であればこちらでも十分ですね」
30枚入りで1000円ちょっとなら確かに悪くない。
でも、ちょっと気になる事があるんたよね。
「でも、男が顔パックしてる絵面ってキツくないですか?」
「えっ、お客様が使われるのではないのですか?」
「いや、僕が使うんですけど……」
「えっ……?」
そう言えば、僕には女の顔が付いてるんだった……。
気分は美容意識高い系男子だったので、女と勘違いされやすいという意識が抜けていた。
服装もいつものチノパンに中学生の時から使っている真っ白のパーカーだ。
最近は女装させられすぎて、普段の格好でも女っぽいという感覚が薄くなってきているのかもしれない。
……よく見たら周りに男の人いないし、そりゃー女性だと思うよね。
こんな顔に生まれてごめんなさい……。
「すみません……僕は男なんです……女装してる変態がこんな所に来てすみません……」
「い、いえ! こちらこそ気付けず申し訳ありませんでした! それにしてもお綺麗ですね……お化粧得意なんですか?」
「いいえ……今日は普段通りの化粧でございます……生まれつきこんな顔なので、開き直って化粧までするようになったんです……」
僕は何の話をしているのだろう?
この人もこんなことを聞かされても困惑するだけなのに。
でも、罪悪感がすごくて余計な言い訳をしてしまったのだ。
「なるほど……という事は、まだまだ綺麗になれるってことですね! メイク用品も一緒にお選びしましょうか?」
「あんまり高くないのでお願いします……」
「はい! お任せください!」
謎の罪悪感により断ることができず、店員さんにメイク道具を見繕ってもらうことになった。
普段は使っていないフェイスパウダーやチーク、アイライナー等を揃えて貰い、使う際のポイントまで説明してくれた。
会計を終え店員さんに挨拶をしてからお店から出る。
そこまで高くなかったし、良い買い物ができた気がする。
そんな事を考えながら歩く事数歩、冷静な自分が『いつ使うんだよこれ』と問いかけてきた。
……いつ使うんでしょうね。
やばい、また無駄遣いしたかもしれん。
いや、もしかしたら使う機会があるかもしれないじゃん。
家には何故か女性用の服もあるんだし。
でも、冬物は全く無いんだよね……。
自分は恋人のフリはしないと言ったその日にやらされるような男なのだ。
あんまり変な事を考えるのはやめよう。
他の階も一通り見終わり、キャップ帽を1つ購入して東急ハンズから出ることに。
購入後にそのまま着用してしまう程に気に入った物が見つかり、以前から帽子が欲しかったのもあって丁度よかった。
出入り口から出て、すぐ目の前にある金時計が視界に入る。
すると、その人混みの中に一際目立つ女性が目に留まった。
顔のいい人特有のオーラを放つあの黒髪美人は、間違いなく芦塚さんだ。
今日も綺麗だなぁ……。
花に誘われる蜂の如くフラフラと彼女の元へと向かうが、芦塚さんの元にどこかで見たことのあるイケメンがやって来たのを見て、僕はその足を止めた。
あれは……高御堂君?
二人は合流すると、並んで何処かへと消えて行ってしまった。
えっ、あの二人ってやっぱりそうなの?
今日はおデートの日なの?
この前高御堂君が僕の家に泊まるのを嫌がった時の、芦塚さんと一緒に泊まると僕が気まずくなるという説は本当だったのかい?
……いや、そう決めつけるのは良くない。
まだ慌てるような時間じゃない。
世の中の出来事は、往々にして僕の考えた通りではないのだ。
大方二人でクリスマス会用のプレゼントを買いに行っただけとか、そんなオチだろう。
高御堂という男は一人で買い物をするのが苦手だというし、そこで芦塚さんに付いてきて貰ったという説が最有力だ。
なら僕も誘ってよ……。
僕のセンスは終わってるから、誘う価値が無いとでも言うのか?
その通りかもしれんね……。
あの二人が恋仲だとしても、ただ単に僕を誘わなかったのだとしても、どちらにしろ僕がダメージを受けることには変わりない。
……よし、見なかった事にしよう。
僕の頭の中から消えてしまえば、それは何も起きていないのと同義なのだ。
世界の食糧不足も、アフリカでは1分間に60秒の時間が流れていることも、僕にはどうしようもない事であり、知らなければ僕の世界では起こっていないと言える。
嫌な事は全部忘れて、楽しい事だけ考えよう。
よーし! 帰ったら買ってきた化粧品を試してみようかなー!
ワタクシ、これ以上綺麗になったらどうしましょう?
男を侍らせて某巨乳姉妹みたいになろうかしら。
僕、男だから乳無かったわ……。
しかも、こんなことを考えてても全然楽しくないし……。
ていうかあの姉妹って何者なの?
うわぁ……なんか余計に落ち込むかも。
帰って寝よ……。
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