第32話 保護者でアイドル

「クリスマス会?」


 学校に到着すると、高御堂君からクリスマス会があるとの報告を受けた。


「そうだ。どうやらクリスマスの日にクラス全員で集まってパーティーをやるようだ。お前も参加しろ」

「どうしようかなー」


 控え目に言って全然行きたくない。

 そもそもクリスマスにわざわさ集まる程このクラスの人達って仲良かったんだね。

 そんな事も知らない僕が行く意味なんてあるのかな。

 クリスマスってもっとこう、好きな人とか異性と過ごすものじゃないの?

 まぁ僕は毎年一人ですが……。


「文化祭の打ち上げは参加しなかったんだ。今回は顔を出したらどうだ?」

「高御堂君は参加するの?」

「そのつもりだ。芦塚も参加するらしいぞ」

「そうなんだ……」

「一応言っておくが、お前を俺が誘っているのは、お前がラインのクラスグループに入っていないからだぞ。奴らもお前を誘いたがっていたが、連絡手段がないからこうして話を持ってきたんだ」

「なるほど。ハブられている僕を哀れに思った高御堂君がお声をかけてくれたんだね」

「……お前の自己評価は高いのか低いのか分からんな」


 クラスのグループとやらは定期的に話に出てくるけど、一体何に使われているのだろうか。

 自分に関係ない話で通知が来るのが嫌で参加していないけど、そろそろ参加しておくべきなのかな。

 でも、通知が嫌だって後から抜けるのは気まずい気がする。

 やっぱりこれからも、高御堂君と芦塚さんには僕の介護をお願いしよう。


「ていうかクリスマス会って何するの? 罰ゲームトランプとかを使う遊びがあるなら絶対に行かないんだけど」

「あんなものは使う訳ないだろ。クラブハウスのような施設を貸し切るらしいぞ。よく分からんが、料理を食べながら音楽をかけて騒ぐんじゃないか?」

「……それ楽しいの?」


 どうしよう、全く魅力を感じない……。

 そんな物を楽しめる感性を持っているなら、こんな捻くれてないんだよ!

 休みの日は家でテレビを眺める枯れた生活をしている僕には無理だ。

 よし、断ろう。


「楽しいかどうかは知らんが、中にはこの機会に芦塚とお近づきになりたい、というやつもいるそうだ」

「何それ危ない。僕も参加するよ」


 暗がりに紛れて芦塚さんに何をするつもりだ?

 そんなことは許さないぞ!

 いや、暗いのかも知らないけどさ。

 ふと気がつくと、芦塚さんの話を聞いて即答する僕を、高御堂君はシラケた目で見ていた。


「お前は芦塚の何なんだ? あいつがお前の保護者だと思っていたが、お前も保護者ヅラをするのか」

「芦塚さんは僕のアイドルみたいなものだからね。推しの安全は守らないとダメでしょ」

「……よく分からんやつだな」


 今更そんな事言われても。

 ていうか芦塚さんのことは僕の保護者だと思ってたんだね。

 彼女が僕に過保護なのは認めるけど、人に言われるとちょっと気になります……。

 そんな話をしていると、話が耳に入ったのか、文化祭のリーダーであった丸山さんがこちらにやって来た。


「西河君も参加してくれるの? ありがとう!」

「た、たまにはね……それで実際、クリスマス会って何をするの?」


 芦塚さんの為であれば、よく分からないイベントにだって参加します。

 男らしいでしょ?

 キモクナーイ。


「基本的には集まってご飯を食べるだけなんだけど、ビンゴ大会があるよ。プレゼントを一人一つ用意して、当たった人から選んでいくんだ! だから西河君も何か用意しておいてね」

「なるほど」


 誰の手に渡るのか分からない物を用意しなくてはいけないのか。

 ……結構難しいね。


「一応聞いておくけど、僕に変な格好させるとかはないよね?」

「あ、あああある訳ないじゃん! もう! 西河君は疑り深いんだからー……ははははは……」


 あったのか……。

 聞いておいてよかった。

 クリスマスにコスプレをするパーリーピーポーにはなりたくないし、そもそもコスプレをやりたくもない。

 芦塚さんにコスプレしてもらえるよう交渉を成立させてから出直してきな!


「こ、今回は本当に何もないって! それじゃあプレゼントの件もよろしく!」


 丸山さんをジッと見つめると、彼女は元の場所へと帰っていった。

 あの人は今回も幹事なのかな?

 大変だね。


「プレゼント交換かあ。どうしよう?」

「何か適当に用意するしかないだろう」

「自分で言うのもあれなんだけどさ、僕のセンスは終わってるから心配で……」

「確かに……いや、だが誰が渡したかは分からないはずだ。そんなに悩む必要はない」

「そっか……一応ちゃんと考えてみるよ」

「ああ。まともな物になるか、俺の所には来ないことを祈ろう」


 失礼な感想をくれた高御堂君だが、闇鍋の件で僕への信頼が皆無なのは仕方ない。

 プレゼントもあの鍋にしてやろうか。

 もう使ってないし邪魔だし丁度いいのでは?

 結構高かったし、もしかしたら喜ばれるかもしれない。

 どうしても思いつかなかったら鍋にしよう。


「あっ、そうだ。高御堂君、パーティーだからって、はしゃいで僕に変な事しちゃダメだよ?」


 高御堂君にセクハラをするという目標を思い出したので、今回もこの辺りでぶっこんでみる。

 高御堂君、そろそろデレてもいいのよ?


「……その遊びはまだ続けるのか? それを言うタイミングもおかしいし具体性も無い。15点だ」


 表情を一切変えない高御堂君から辛辣な言葉が返ってきた。

 手厳しい……。

 芦塚さんはすごいね……もっと勉強しておきます。

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