第31話 新しい目標
ハロウィンも終わって11月となった。
寒いのは好きなんだけど、昼は暑くて朝夜は寒いこの気候はあんまり得意ではない。
特に朝が辛い。
厚着していくと後から邪魔になるし、薄着だと寒いのが嫌だから、潔く冬になって欲しいと思う。
何事も中途半端はダメなのだ。
僕がこれだけしっかりと女装しているのだから、日本も11月らしくもっと寒くなるべきだと思います。
そんなくだらない事を考えながら教室に入る。
クラスを見渡すと、カーディガンを着たりと早くも冬装備の生徒がチラホラ見受けられる。
隣の席に座る高御堂君は北国出身だからか、まだ防寒具は着けていない。
「高御堂君おはよー。今日も朝から寒いね」
「ああ、おはよう……お前、タイツなんて履いてきてるのか?」
「うん。朝は寒いから、今日から使おうと思って」
世の女性達は足をあんなに出して寒くないの?
夏は意外と暑いし冬は風が痛いしで、正直スカートは機能性皆無だと思う。
見た目はかわいいんだけどね。
「お前は一応男なんだろう? だったらジャージでも履けばいいではないか」
「去年それをやったら怒られたんだよね。ズボンを履くならちゃんと男子用の制服を着なさいって」
「そんな注意のされ方があるのか。愛知県はすごいな」
愛知県は関係ないと思うの。
正直この怒られ方はどうかと思ったけど、確かに中途半端ではあるなとも思った。
なので渋々タイツを選択することに。
だって夏は女子、冬は男子の制服っておかしいでしょ。
お金も勿体ないし。
タイツも最初は抵抗があったけど、一度着てみると気にならなくなったので冬にはお世話になっている。
「これ、意外と温かいんだよ。足とお腹が守られてる感じがするし」
「そんな薄っぺらいもの1枚で変わるのか? 寒そうにしか見えん」
「全然違うよ! これはちょっと厚い生地のやつだし。ほら、触ってみてよ」
高御堂君に足を差し出すと、高御堂君は僕の足をまじまじと見つめる。
僕も釣られて自分の足を見てみるが、タイツのせいもあって男のものとは思えなかった。
……これ、同性でもセクハラになりますか?
顔を上げると、そこには渋い顔をした高御堂君の顔があった。
「お前、誰にでもこんなことするのか? だとしたら勘違いさせるし、危ないから辞めといた方がいいぞ」
「だ、誰にでもじゃないよ。そもそもやる相手なんかいなかったし……」
気軽にセクハラできる友達なんていないもん……。
気軽にセクハラしてくる友達は一人いるけど、彼女に同じことをやったら骨の髄までしゃぶられそう。
いや、分かんないけど。
「なら良いんだが、あまりはしたないことはやめておけ」
「まあ、男の足なんて触っても楽しくないよね。変な事してごめんね?」
「ああ。早く足を仕舞え」
もう少し押せば高御堂君に、芦塚さんが僕にするようなセクハラ紛いのことができたのだろうか?
僕もやられっぱなしではいけないし、たまにはやる側に回ってみたいという気持ちもある。
今後の課題にしていこう。
「二人ともおはよう。朝から楽しそうね、何をしているの?」
課題を見つけた所で芦塚さんがやってきた。
これはマズイかもしれない。
「芦塚さんおはよう。いや……特に何もしてないよ?」
「本当に? 高御堂君、何を話していたの?」
乗るな高御堂!!! 戻れ!!
そんな気持ちを込めて高御堂君に視線を送る。
彼は察してくれたようで、一度頷いてから口を開いた。
「特別な事はなかったぞ。ただ、西河が俺に足を触れと強要してきたくらいだ」
「へぇ……西河君、それ本当?」
これはダメかもしれん。
芦塚さんの目は、いつものように新しいオモチャを見つけた子供の目になっていた。
「そんな事してないよ! ただ、タイツが寒そうって言うから、じゃあ触ってみる? って言っただけで」
「似たような物じゃない。つまり、今日は西河君の足を触り放題の日なのね」
高御堂君とは反対隣の席からガタッと音がする。
振り返ると、一人の男子が『まじで? いいの?』と言いたげな顔でこちらを見ていた。
いい訳ないでしょ。
「そ、そんな日は無いと思うよ? ていうか、触って楽しいものでもないし」
「そうかしら? じゃあ試しに……」
そう言うと芦塚さんは、しゃがみ込んで僕のふくらはぎを触り始めた。
タイツの上から触られるのは多少くすぐったいが、以前の罰ゲームに比べたら大したことじゃないので耐えられる。
僕も強くなったなぁ……でも、何だかあまり嬉しくないや……。
抵抗せずに触られていると、芦塚さんの手はどんどん上からまで登り、いつの間にか太ももまでやって来ている。
「ちょっと? やり過ぎではなくて?」
「その話し方は何?」
「わかんないけど、何かそうなっちゃって……ちょっ! 内側はやめて!」
僕の話し方が気に入らなかったのか、芦塚さんは太ももの内側をスリスリと擦ってくる。
それは違うでしょ!
高御堂君にもここまでさせるつもりは無かったし、普通はこんなことしないと思うの。
ゾワゾワとした悪寒が体中を駆け巡る。
「あっ……ちょっ……ホ、ホントにダメだって……」
せめてもの抵抗で足の付け根に手を挟む。
流石にここまで手は来ないと思いたいが、万が一があってはいけない。
朝から教室でやるような事ではなくなってしまう。
いや、既におかしくないか?
助けを求めるように高御堂君に視線を送ると、少し照れたように視線逸らされた。
いや助けてよ……。
僕の願いが届いたのか、高御堂君はため息をついた後、ようやく止める決意をしてくれたようだ。
「芦塚、その辺にしておけ。いくらなんでも朝から刺激が強すぎる。それに、皆見ているぞ」
「そうしましょうか。これより先を他の人に見せるのは勿体ないわね。西河君、続きはまた今度よ」
「もう二度としないで……」
「あら残念。楽しくないとあなたは言っていたけれど、結構楽しいわよ?」
「それはどうも……」
改めて教室を見回すと、両手で顔を覆いながらアワアワしている人や、顔を赤くしながら横目で見ている人が沢山居た。
相変わらずの見世物扱い、これは辛い。
「しかし、芦塚の西河への対応は流石だな。俺は足を触れと言われても何も出来なかったというのに」
「高御堂君もまだまだね。彼はこうして欲しくて言っているのよ。あなたは男同士なのだから、もっと過激にやっても問題ないわ」
「そうか……いや、俺には難しいな」
「高御堂君、そんなつもりは無いからね。こんなことして欲しいなんて本当に思ってないからね?」
「そういう前フリなのよね。私は分かっているから安心して」
「この人はもうダメだ……」
それでも芦塚さんからのセクハラがそこまで嫌という訳ではないのがまた困る。
いや、この人にされて嫌な男子なんか居ないでしょ……。
そんな事を想いながら彼女を見上げる。
すると、彼女は全てを見透かしたように笑顔を見せてくれた。
「西河君、高御堂君をからかいたいのは分かるけれど程々にしなさいね。あんまり彼を困らせちゃダメよ?」
「芦塚さんはどういう立場なの……」
「さあね。それじゃあ、後はごゆっくり」
満足した芦塚さんは自分の席へと帰って行った。
なんか一気に疲れた気がする……。
タイツ一つでどうしてこうなるの……。
「まあ今回の事を反省して、これからは軽率な事は控えろよ」
「そうだね……もう少し自重するよ」
僕の事を女だと思い込んている高御堂君からしたら、確かに軽率な事だったのかもしれない。
僕だってもし、芦塚さんから『タイツを履いてきたから触ってみる?』なんて言われたら困っちゃうし。
でも、高御堂君を軽いセクハラで困らせるという新たな目標は変えられない。
同性だからセーフを盾に、僕が芦塚さんからやられた分を彼に八つ当たりしよう。
でも、やり方は考えた方がいいのかもしれない。
少し自重して、最後にもう一回だけ挑戦してみるか。
「結局高御堂君は僕の足を触らなくていいの? 膝から下ならいいよ」
「お前……」
高御堂君は呆れた顔をして、それ以上は何も言ってくれなかった。
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