第4話 イケメンと女装男子の恋バナ
テントの設営も終わりカレー作りへと移る。
男子は米を炊き、女子が料理と別れて行うこととなっている。
米はもう炊飯器でやりなよと思ったが、そうはいかないらしい。
僕が米側の作業をする為に高御堂君に付いていくと、彼は一瞬驚いた表情を見せた。
……僕も男なのでちゃんとやりますよ。
やることは米に水を吸わせて火を起こし、安定したら火にかけるだけなので、二人並んでぼんやりと焚き火を眺める。
料理を手伝うと言ったが、僕も高御堂君も料理は全くやったことがないと芦塚さんに伝えると『大人しく火を眺めていて貰えると助かるわね』と、笑顔で言われてしまった。
なので二人して手持ち無沙汰なのである。
「髪、纏めるんだな」
「うん。火の近くだから一応ね」
僕の髪は肩より下まで伸びており、火に触れると流石に危ないので1つに纏めてある。
「その髪型も似合うじゃないか。普段もそうしないのか?」
「男でポニーテールって、漫画とかだとかっこいいキャラがやるイメージがあるから、何となく抵抗があるんだよね。僕がやるとキャラじゃないっていうか」
ロン毛ポニーテールのイケメンキャラ、いいですよね。
あんな感じで似合う顔に生まれたかった……。
「言いたい事は分かるが今のお前も違和感はないぞ。まあ普段の下ろしている髪も素敵だとは思うが」
「そ、そんな褒められ方すると照れちゃうよ……。ていうか高御堂君、サラッとそういうこと言えちゃう辺り、女の子の扱いに慣れてるよね。僕は男だけども」
「そんなことはないぞ? 仲のいい女友達くらいはいたが、恋人はいたこともない。しかし、そう見られているのは少し嬉しいな」
いや、そうとしか見えないでしょ。
なのに嬉しいとはどういう意味だろうと少し考えていると、彼は言葉を繋げてくる。
「お前こそ男女問わず人気がありそうじゃないか。恋人はいないのか?」
「僕も恋人なんていないよ。男の人には何度か告白されたことがあるけど、女子からは無いし」
「そうか、お前は女子の方が好きなのか。なるほど……」
「なるほどって何? また何か勘違いしていそうだけど」
「いや、何でもない。少し気になったのだが、お前に告白してくる男はお前を男だと分かって告白してくるのか?」
「大体はそうだね。でも、中には女だって信じたいって感じの人もいたかなあ」
「そういうこともあるのか。しかし……そうだな、お前は男だもんな」
うんうんと頷いている彼の顔には『そうだね。体は女でも心は男の子だもんね。俺はちゃんと分かってるからな』と書いてある。
もう面倒くさいし、それでいいのかもしれない……。
「それで、西河は気になるやつとかいるのか?」
「うーん、どうだろうね?」
「流れで聞いてみただけだ。簡単に人に言う事ではないしな」
苦笑いをして誤魔化す僕に、高御堂君はそれ以上追求してこなかった。
謎の恋バナをしている間に米も炊け、カレーも出来上がった。
盛り付けまで女性陣に全てやって頂き、我々男子共は座してカレーを待つのみである。
他のグループも概ね完成しているようで、既に食べ始めている所もあった。
「はい、おまちどうさま」
「ありがとう芦塚さん。色々やって貰ってごめんね?」
「いいのよこれくらい。お米もちゃんとできたのだし」
芦塚さんに食事を持ってきて貰うという状況に何となく感動しつつ、全員でいただきますをした。
「西河君、さっきは高御堂君と何を話していたの? あなたが私以外の人と長い時間会話をしている所って見た事がない気がするのよ。ちゃんと会話できたの?」
「……僕ってそんなに会話下手なの? なんか、今までごめんね……」
「いや、そういう訳ではないのだけれど。ただ、あなたも友達いないじゃない。少し気になっただけよ」
辛辣な言葉にダメージを受けつつも事実なので黙るしかない。
恋バナをしてましたって言ってもいいのか判断に迷ったので高御堂君に視線を送る。
「俺達は恋愛について少々な。恋人がいたかどうかや、好みのタイプについて、と言ったところか」
……好みのタイプの話なんてしたっけ?
「へぇ……興味深いわね。西河君はどんな人がタイプって言っていたのか教えてくれる?」
「そこに居るのだから本人に聞いたらいいだろう」
芦塚さんがこちらを向いて、さあ答えろと目で訴えてくる。
「……好みのタイプの話はした覚えがないかな」
「あら、彼には言えて私には言えないのかしら。悲しいわ」
いや、本当にそんな話してないんだって。
「僕は女の子の方が好きだから、男子に告白されても困るって話をしたくらいだよ。どんな人がタイプかって話はしてないんだよ本当に」
「そういうことね。でも、西河君が女の子の方が好きっていうの初耳ね。私もどっちなのか分からなかったのよ」
「えぇ……」
割と傷つきました……。
ちゃんと男なので異性が好きなのは比較的普通だと思います……。
「それで、そちらはどんな話をしていたんだ? 二人は接点が無さそうに見えるが」
「わ、私達は料理とか本の話とか……。あ、あとは、一人暮らしなのに料理をしたことがないっていう西河君の食生活について考えていました!」
斎藤さんはオドオドしつつも大きな声で答えてくれた。
……僕の食生活についてそんなに考えることある?
話題の提供ができたようで何よりです。
「じ、実際どうなんですか? 西河君ってお昼もパンばっかり食べてるし……」
「だいたいコンビニで何か買ってるかなあ。あとはファミレスとか、その日食べたいものを食べに行く感じ」
「そうなんですね……。体に悪いんじゃないのかな……」
「大丈夫だよ。朝はカロリーメイトも食べてるし」
カロリーメイト以外にも栄養補助食品は結構好きだ。
栄養を取る為だけの食品感がたまらない。
あれさえ食べていれば問題ないのである。
更に、家ではビタミンウォーターを常飲しているので栄養面は完璧と言っても過言ではない。
「思っていたよりも酷いわね……。それで大丈夫だと思っているのが信じられないわ。西河君、沢山食べなさいね」
「う、うん。ありがとう……」
三人に心配されつつも残っていたカレーが皿に追加された。
食べ切れるかな……。
あと、さっきから芦塚さんの母親感がすごい。
僕の食生活や学友との会話を心配してくれたりと、僕は彼女にどう思われているのだろう。
しかし芦塚さんが僕の母親かぁ……。
彼女から生まれて彼女に育てられる僕。
……悪くないかもしれない。
そういえば最後に母親とまともな会話をしたのはいつだったか。
あの人は僕のことがめちゃくちゃ嫌いだから、暴言以外を聞いた覚えがない気がする。
「どうしたの? もしかしてもうお腹いっぱいなのかしら?」
余計なことを考えていたせいで手が止まっていたようだ。
「ううん、何でもない! 二人がせっかく作ってくれたんだから、ちゃんと食べるよ」
人の手作り料理を食べる機会は多くないのだ。
作ってくれた二人に感謝しつつ、多少無理をしてでもしっかり食べきろう。
頑張れ西河! 頑張れ!! これまで頑張ってこなかったんだ、今日くらいは頑張れ!!
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