第2話 体も心も男の子です

 始業式から一週間が経ち、高御堂君ショックも落ち着いてきた。

 一人で過ごす人も中にはいるものの、クラス内でもグループが生まれ始めている。

 時の人である高御堂君は相変わらずテンションが高めな女子に囲まれている為、彼と交流したことのある人はあまり多くない現状だが、いずれは彼への興味も追々薄れていき自然な形に収まるだろう。

 


 今日は午後からロングホームルームであり、遠足についての話し合いが行われる。

 遠足という名の一泊2日のキャンプだ。

 近年のキャンプブームに流され、数年前から日帰りの旅行ではなくキャンプへと変わったらしい。

 変わる前は潮干狩りだったそうなので、どっちがマシかと言えばキャンプだという生徒が殆どだろう。

 ちなみに僕としては両方行きたくない。

 

「今日は遠足のグループを決めるぞー。男女二人ずつ四人で集まるように。一応言っておくが、寝るテントは男女別だからな。はい、スタート」


 堀場先生によるやる気のない掛け声でクラスがザワつく。

 グループごとで固まったり、人数を合わせる為に追いやられないか不安そうにする者も見られた。


 僕はというと、芦塚さんを誘ってもいいものかと悩んでいた。

 そもそも異性なのでお互いに同性の相方を見つける必要があり、最初に声をかける相手ではないような気もする。

 仲は悪くないと思うが、こういった場で誘うのは事更に緊張してしまう。

 そもそも友達がいないおかげで人を誘うこと自体がなく、こういう時にどう声をかけるのかも分からない始末。

 友達がいないから人を誘うのに慣れてないの。

 仕方ないじゃない!

 

「おいお前、俺と同じグループにならないか?」


 誰に言うでもない言い訳を考えてると、横から高御堂君の声が聞こえた。

 反射的に振り返ると彼はこちらを見ており、僕に向けて言っているのだと理解した。

 

「えっ? う、うん。いいけど……なんで?」

「隣の席なのに、お前とは話したことがなかったからな。あと、お前は騒がしくない。お前がよく一緒にいる女と、あと一人は誰か無害そうな男子にしよう」

「……ちょっと芦塚さんにも聞いてくるね」

 

 無害そうとは一体……。

 ふと、高御堂君を誘おうと向かってきていた女子が固まっているのが視界に入るが、気にせず芦塚さんの席へ向かう。

 睨まれているような気もするが気のせいだと言い聞かせよう。

 文句は高御堂君本人に言ってよね! 

 芦塚さんは一人で席に座っているので、恐らくまだ決まっていないだろう。


「芦塚さん、高御堂君に誘われちゃったんだけど、僕達と一緒になってくれないかな……?」

「遅いわよ。このまま誘われなかったら遠足自体行かないつもりだったわ。でも、高御堂君がいるのは意外ね」

「なんか誘われちゃって……」

「まぁいいわ。取り敢えず行きましょうか」

 

 芦塚さんも加わってくれると決まり、高御堂君の元へと戻る。

 腕を組みながら目を閉じて待っている彼に近づきたくはなかったが、自分の席もそれの横なので仕方がない。


「高御堂君、芦塚さんもいいって。でもあと一人も男子にするって言ってたけど、それだと女子が芦塚さんだけになっちゃうよ?」

「何を言っている? そんな冗談を急に言うとは、お前おもしろい女だな」

「いや、冗談とかじゃなくてさ……。僕は女子の制服を着てるけど本当は男なんだよ。ごめんね、紛らわしいよね?」

「こっちではそういったジョークが流行っているのか? センスが良いとは思えん」

「そんなジョークは流行ってないよ……。笑えないかもしれないけど、本当に僕は男子なんだよ。嘘じゃないよ?」

「本当に男……なのか?」

「うん」


 高御堂君が驚いている顔は初めて見たかもしれない。

 大きな目を見開いて僕の顔をじっと見つめている。

 そうか、彼は僕を女子だと思っていたのか。

 僕の女装は、いつの間にかこんなイケメンも勘違いさせられるレベルになっていたということである。

 ……いや本当に申し訳ない。

 でもそうだよね、こんなに堂々と女装してる男がいるなんて普通は思わないよね……。

 こちらの配慮不足でした。


「……そうか。性同一性障害というやつか。すまない、配慮が足りなかった」


 納得したような表情を見せながらトンチンカンなことを言う彼に、僕は思わず言葉を失った。


「それだけ美しい容姿をしているのに心は男だとは、お前も苦労してきたのだろう。これからは男として扱うよう心がけるが、もし女性扱いしてしまったとしても、どうか許してほしい」

「い、いや! 僕は……」

「そうなの。彼の心は男なの。こんなにかわいい見た目でも、ちゃんと心は男の子なのよ。だから彼はちゃんと男子として数えられるべきだわ」


 芦塚さんは僕の言葉を遮り、心は男の部分を強調しつつ体もちゃんと男であるということは伝えなかった。

 あまりにも誤解を生む台詞に驚き、バッと彼女に振り返る。

 すると彼女はとても楽しそなドヤ顔を見せてきた。

 あらかわいい……。


「一応言っておくけど、僕はちゃんと男だからね」

「分かっている。一応女性として気を使う部分には気を使うが、ちゃんと男性として接していくつもりだ。俺と同じテントで寝ることになるが、何もしないと誓おう。どうか安心してほしい」

「いや、本当に男だから。全然気にしなくてもいいんだよ?」

「そうか……なるほど、お前は本当におもしろい女だな」


 だから男だって言ってるじゃん。

 何が分かったの?

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