イケメン転校生に「おもしろい女だな」と言われたけれど、僕は男です。
いつき
二年生編
第1話 女装男子と転校生
春は嫌いだ。
学生にとっては一つの区切りとなる4月は色々と憂鬱になることが多い。
4月になると示し合わせたかのように咲き始める桜の花も、自分をバカにしているかのように感じてしまう。
桜の開花や花見で騒ぐ世間と自分の温度差が、いかに自分が世間に迎合できていないかを思い知らせてくる。
季節の変わり目は体調を崩して考えがより一層ネガティブになるのも嫌だ。
そしてそんな大嫌いな春で、最も気を使うのがこれである。
「西河祐希さん……!あなたのことが1年の時から好きでした! 俺と付き合って下さい!」
そう、男子生徒からの告白だ。
桜の咲く校舎裏にて同性に告白される僕の気持ちは申し訳なさで一杯だ。
派手な見た目をしている彼のことは、去年は同じクラスであったことは覚えていても、申し訳ないことに名前までは覚えていない。
何度か話しかけられたことはあったけど、どうにも印象がない。
今に思えば、あれは僕と話す為の口実を毎回何かしら作っていたのだろう。
改めて彼の顔をちゃんと見てみると、それなりに整った顔をしているではないか。
こんな女装している男じゃなくて、ちゃんと女の人を狙えばいいのに……。
「ごめんね。僕は男だし同性愛者じゃないから、男の人とは付き合う気はないんだー……」
「俺は君が男でも構わない! 君の透き通る様な肌も、女子よりも女性らしいしぐさも、スカートから伸びる細い足も、全てが誰よりも魅力的だ! どうかお願いします!」
お前が男でも大丈夫かどうかの話はしていないんだよ。
僕が男相手じゃダメって言ってるの。
ちゃんと相手の話は聞きましょうって、義務教育でちゃんと教えておくべきだと思う。
「褒めてくれたのは嬉しいけどごめんね! 僕、そろそろ教室行くから!」
話を聞いてくれない彼を残して僕はその場を立ち去った。
今日から2年生となり、教室も新しくなる。
僕は外部進学コースである2-1の教室へと向かう。
ここ北山高校は2年から外部進学組と内部進学組へとクラスが別けられ、内部進学組はそのまま付属大学に進学する者が殆どだ。
付属大学も愛知県内の私立大学ではトップクラスの為、そのまま付属大学に進学希望する者は多い。
しかし、成績が優秀な生徒の中には国立大学や県外の難関校に挑む生徒も居るので、それらの生徒が外部進学組へと進級するのだ。
教室にたどり着き指定された席に着く。
新しいクラスメイト達を眺めていると、既にグループができているところもあれば、やはりどこか落ちつかない様子の生徒もいる。
チラチラと目が合う人も居るが、僕に話しかけて来る人は誰もいない。
男なのに女生徒用の制服を着ているということで僕は有名なので、好奇の目で見られることは仕方ないだろう。
あとかわいいし。
僕はかわいい……僕はかわいい……と一人自分に言い聞かせていると、女生徒の一人が僕に声をかけてきた。
「おはよう西河君。今年も女の子の制服で安心したわ。男の制服になってたらどうしようかと思ったもの」
「芦塚さん、おはよう。流石に制服は変えないよ。勿体ないし」
「そっちの方が似合っているわよ。これからも自信を持ってスカートを履いていなさい。しかし、改めて見てもかわいい顔をしているわね……」
「ありがとう。芦塚さんに褒めてもらえると嬉しいな」
僕の顔をまじまじと眺めている彼女は芦塚真理さん。
相変わらず美しい……。
彼女は去年から仲良くしてもらっている、僕の数少ない友人だ。
入学したての頃の僕は、男なのに女生徒用の制服を着ている為、かなり浮いていた。
あいつは男……なんだよな? という懐疑的な視線や、女装する変なやつ、性癖が壊れているのでは、かわいすぎる結婚したい、等と様々な憶測や意見が飛び交った結果、とりあえず触れない方向で満場一致した。
まぁ全て僕の妄想なので実際どうだったのかは分からない。
そんな中で彼女は最初に僕に話しかけてくれたのだ。
僕の格好を似合っているからいいと受け入れてくれて、彼女と話すうちにクラスメイト達も何となく僕を受け入れてくれるようになった気がした。
以前に、どうして話しかけてくれたのかを聞いた所『私よりかわいい人はあなただけだったから気になったの』と、よくわからない答が返ってきた。
どう見てもあんたの方がかわいいでしょ……。
鏡を見たことがないの?
僕も自分の顔には結構な自信があるが、彼女には全部負けていることは理解している。
目も鼻も口も、一つ一つのパーツ全部美しい。
特に、腰まで伸びた真っ直ぐな黒い髪はもう国宝レベルだよ。
どうしたらそんなに綺麗に伸ばせるのか。
顔がいい人特有のオーラが出てるのをもう少し自覚して欲しいね。
そんな経緯もあって、彼女には本当に感謝している。
生涯をかけて彼女に尽くしたい。
「去年は聞かなかったけれども、あなたがどうして女子の格好をしているか聞いてもいいかしら? 何となく聞かない方がいいかなと思っていたけど、問題がないなら教えて欲しいの」
芦塚さんは、僕の女装に何かデリケートな問題があると気を使ってくれたのか、去年一年間触れてこなかった問題に触れてきた。
そろそろ聞いてもいい間柄になれたのだと、彼女は判断したのだろう。
まぁ気になるよね……。
「全然大したことじゃあないんだけどね、僕は小さい頃から女っぽいってバカにされてたんだ。中学の時も男子に体を触られたりして結構辛かったの。そんな中で面白半分で女子の制服を着させられたら、着せた男子達が急に『お、おう……似合いすぎじゃね……?』って言って静かになったんだよね。女の子にしか見えない僕に、変な事をするの勇気はなかったみたい。それで次の日から姉貴の制服を着ていったらそういうこともなくなって、今に至るのでした」
あとは自分で鏡を見て(これはいけるな……)って思ったからというのは内緒です。
それからは話し方や仕草も意識して女の子っぽくするように努めている。
ぶりっ子の男など見るに堪えない物であるが、これも自分の身を守る為には仕方がない。
また、これのせいで冷え切った家庭環境が更に悪化したことは、彼女に言う必要はないだろう。
一通り話し終えると、芦塚さんは少し笑っていた。
「大変だったのね。高校ではそういうことはないの? 着替えの時とかはどうしているのかしら」
「皆気を使ってくれて、こっちを見ないようにしてくれてるよ。流石に高校生だし嫌がらせをするような人はいなくてよかったよ」
そんな話をしているとチャイムが鳴り、芦塚さんも「教えてくれてありがとう」と言うと自分の席に戻って行った。
全員が席に着いたというのに、僕の横の席には誰も座らなかった。
妙だな……と思ったが、初日から欠席する人もいるだろうと考えるのを止め、入ってきた担任の先生の顔を眺めることに。
確か、堀場先生だっけ。
黒染めが抜けてきて茶髪になってきている髪色等、元ヤンとしか思えない雰囲気の女性で、やんちゃな生徒に戯れ付かれているイメージがある。
「はい、おはようございます。今年からこのクラスを受け持つ堀場です。特進クラスは来年もクラス替えがないから、2年間よろしくっと。連絡事項よりもまず、このクラスに転校生が来たのでそっちの紹介から。おーい、入ってこーい」
転校生って本当に外で待たされるんだ……。
一緒に入ってくればいいのに……。
先生の合図と共に男子生徒が入ってきた。
育ちの良さが伺える整った顔立ちにキレイに染まったクリーム色の髪、オマケに身長も高いと、なんだか非現実的なイケメンであった。
左目の泣きぼくろもセクシーですね……。
2.5次元俳優の○○役ですと言われたら納得するくらいの美貌である。
おかげで一部の女子からキャッと声が漏れる。
「高御堂大地だ。色々あって今年からこの学校に通うことになった。よろしく頼む」
高御堂君の簡単な自己紹介が終わり、拍手が生まれる。
敬語はどうした敬語は、と思いながら一応拍手する時に気がついた。
もしかして、こいつが横の席の主なのか……?
「はーい高御堂君でした。みんなも仲良くしてね。この後は始業式で体育館に移動。戻ったら高御堂君はあの空いている席に座るように。はい、移動!」
あの空いている席とは、案の定僕の横の席でした。
イケメン転校生と関わることは特にないだろうからいいけど、何となく緊張してしまう。
自己紹介で敬語を使わない所や高圧的な口調から、なんとなく良いところの坊っちゃんぽさがある。
面倒なことにならないといいな……。
始業式も終わり教室に戻る。
あの校長の話はどうしてあんなにもつまらないのだろうか。
往々にして校長先生の話は長くつまらないものであるが、あいつは特にひどいと思う。
校長が飼育しているヘラクレスオオカブトの話を毎回延々と聞かされるこちらの身にもなってほしい。
始業式の後は実力テストが始まる。
午前に3科目を行い本日は午前で終了となる。
翌日に残りの科目を行い午後はホームルーム、その後は通常通り午後まで授業という日程だ。
午前のテストが終わり、放課後となるとクラスの女子グループが高御堂君に駆け寄ってきた。
どこから来たのか、どうしてこの時期になったのか、この後どこかに行こう等、彼に興味津々である。
彼女達の圧の強さに若干引きつつも、高御堂君の対応が気になり、僕も彼に顔を眺める。
自己紹介ですら敬語を使わない男の第一声は……?
「フン、騒がしい女共だな……。うるさいのは嫌いなんだ」
フンって実際に言う人いるんだね……。
派手な人達も雑にあしらわれて喜んでるし、イケメンっていいなあ。
「なんだ、お前も何かあるのか?」
「うぇっ! 僕!? な、何もないよー」
フンのインパクトに驚いて顔を眺め続けていたら、どうやら僕に飛び火してしまった。
おかげで変な声出ちゃったよ。
両手をブンブンと振って否定すると、一瞬不思議そうな顔をするも「そうか」と言いいつつ席を立ち、そのまま帰って行った。
おっかないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます