第46話 最後の洗礼始まるよ! 特別ゲストもいるよ! その二

「四天王……まさかここで相見えるとは」

「えーっと。気のせいじゃない、かな」

「と言ってるが?」


 実際、人違いの可能性の方が高いだろう。というか気のせいであってくれ。


「美術の授業で黒いぐじゃぐじゃの絵を描く」

「かはっ」

「ルム!?」


 ルムが膝を折って吐血した。吐血!?


「夜中に『お前、聞こえてるだろ! 知ってるんだぞ!』っていきなり叫び出す」

「ごふっ」

「ルム!?」


 更に吐血をするルム。


「『ジャックナイフ』って言われて喜ぶ」

「……」

「もうやめて! とっくにジャックナイフのHPはゼロよ!」

「サラッと攻撃してきたね。レーヴァテイン」

「ごふっ」


 ちょっとだけ悪戯心が湧いて、案の定カウンターを食らってしまった。


『神回キタ━(゚∀゚)━!』

『東と西の厨二病もはよ連れてきて』

『やはり類は友を呼ぶ』

『どんな奇跡起こしてんだよ』


 コメントは盛り上がっているようで何よりである。いや、俺らはそれどころじゃないんだが。


「……まさか。これを狙って?」

「よ、よよよく気づいたねカイリきゅん! この私にかかれば……こ、このくらい」

「とかなんとかみっちゃんが言ってますがー?」

「完全に想定外でーす! 時間押し押しでーす!」


 どうやら本当に想定外のようだ。あきふゆコンビが台本をぽいっと放り投げた。スタッフさんが『五分くらいアドリブおなしゃす』とカンペを用意している。


「えー……瑠花。なんで気づいたんだ?」

「私の友達と同じ匂いがしたから」

「犬か」

「なんかすっごい既視感」


 俺と瑠花のやり取りを見て、何故か複雑そうな顔をするルム。


「ほら、私の友達だからね」

「その言葉で納得してしまう自分が辛い」

「ねえねえルムちゃん。北にはドMは居ないの?」

「南にはドMが居るような言い方を…………居たわ。目の前に。南なのか知らんが」


 しかし、そうそうドM……普通のドMなら居るだろうが。さすがにルムの知り合いに居ないだろう。


「ドMかは知らないけど、縛られて喜ぶ妹なら」

「居ちゃったよ。てかえ? 妹?」

「あ……わ、私は縛ってないからね? えっと。女の子の友達が」

「なんか想像してたハードルを棒高跳びで超えてきたんだけどこの子」


 しかもちょっとだけ気になるな。聞かないけど。


「なんか、カイリ? とは似た雰囲気を感じるね」

「誠に遺憾ではあるが俺も思う」


 ルムの言葉に頷いた。すると、瑠花が俺を見て微笑んだ。


「とりあえずカイリになろっか」

「えー……なるか?」


『カイリチャソ来る!?』

『おとこの娘対決はよ』

『一体ナニを対決するんですかね……」


 正直、少しずつ女装への忌避感とかその辺がなくなってきている。頻度が増えている事もあるが。それ以上に皆が驚いてくれるのが少し嬉しかったりもする。


「ちなみにルムはどうしておとこの娘になろうと思ったんだ?」

「……えーっと。友達におとこの娘、って言えばいいのか分からないけど。可愛いかっこをするのが好きな子が居てね。色々あってこうなったの」


 そうか。色々あったのか。……色々あったんだろうな。こっちも色々あったんだし。


「ふと気になったんだが。瑠花が言ってた友達って……」

「ん、ちょこちょこ話してた子だね。私よりキャラ濃いよ」

「想像がつかんな」


 視線をルムへと移すと、彼(?)は苦笑いをしていた。


「ちょこちょこ配信見てたけど。ベクトルが違うからね。多分動画配信サイトとか出たらBANになるんじゃないかな。ううん。なるね」

「逆に気になるなそれ……」


『そんなド下ネタの化身みたいな』

『いやいや。さすがに、ねぇ?』

『こうなったらボイスのシナリオ書いてもらおう(名案)』

『天才か?』


 絶対やらんからな。


 そうして話している間に、瑠花があきふゆコンビから許可を貰ったようである。


「じゃあカイリ、サクッと女の子になろ」

「時間押してるんじゃないのか?」

「あー。もういいかなって」

「諦められてる!?」

「一時間も二時間も変わんないかなって」

「割と変わるけどね!?」


 そうしてなんやかんやがあって。


「……しかし早いね。どんどん変身が早くなってる」

「慣れてきたからね」

「おー。これがカイリちゃんバージョン。凄い」


 僅か三十分程度。俺もかなりビビってるんだが。これって普通のメイクより早いんじゃないか。


 そして、俺を見てルムが目を丸くしていた。パッと見では男と分からないくらい可愛く見えてしまう。


『ビフォーアフター助かる』

『ちゃんとモデル変えてるの凄い』

『え? 待ってこの新キャラ誰?』

『カイリチャソだ。カイリきゅんのTSした姿だ』


 ちゃんと瑠花がこっちのイラストを用意している辺り、かなり周到である。


「これはひな……あの子と同レベルかも……」

「友達にもメイクとか得意な子が居たんだっけ」

「あの子は元が良すぎたってのがあったけど。私の場合、その子と幼馴染にやって貰ったかな」

「なんか幼馴染って存在スペック高すぎない?え? みんなそんなもんなの?」


『まず幼馴染なんて中学生上がったら疎遠になるんだよなぁ……』

『普通に高校上がったら彼氏作ってたんだよな』

『お前ら涙拭けよ』


 そういえば瑠花が特殊すぎただけだし、類は友を呼ぶという事であった。


 つまり。


「なんか同類っぽいね」

「そうだね。仲良くしよ」


 なんとなくルムとの友情が芽生えた瞬間であった。


『あっ、あっ』

『まずいぞ。歪む。歪みます』

『薔薇の造花で作った百合の造花とはこの事か』


 違うぞ。俺にそっちの趣味はないぞ。あと薔薇の造花をもっと大事にしろ。


「さあ! 早速スタッフ泣かせの【洗礼】となってしまったぞ!」

「なんならMC泣かせでもある! もうこっちには台本がねえんだばかたれー!」

「今までも割とアドリブ八割だったんだけどさ!」

「いやほんとごめんなさい」


 さすがに時間が押しすぎているからか、あきふゆコンビに会話を切られた。隣でルムもぺこぺこしていた。親近感。


「ねえ、カイリ。そろそろカイリの罵倒成分不足になってきたんだけど」

「黙らっしゃい。三年くらい」

「年単位での無言プレイ……?」

「助けてルム」


 この子ならドMの対処法とか知ってないかな。

 あ、ダメそう。なんか『分かる、分かるぞ』とでも言いたそうに頷いてる。


「やばい。私達影薄いよ。新人に負けてるよ」

「どうする? とりあえず先輩らしく全ギレドッキリとかしてみるか?」

「カナタ先輩の全ギレドッキリはちょっとシャレにならなさそうなんでやめてください」


 スタジオの空気がやばい事になる。わんちゃん泣く。


「私もキャラを見せつけなきゃ……か、カイリ君。開口器具とか付けさせてみない?」

「Vtuberとして喋れないのはアウトでしょ。桃華は元々存在がアウトだったね」

「ありがとうございます!」

「……カイリってご主人様としての才能ありそうだよね」

「ちょっとルムに言われると本気で心に来るかもしれない」


 同じ匂いを感じる身としてちょっと落ち込みそうだ。


「話聞いてたかなー?」

「時間! ないから! もう洗礼内容の発表行っちゃうよー?」


『全然話進まないの草』

『今日は五時間ペースか……』

『ルムチャソとカイリチャソの相性良いのすこ』


 大人しく司会の言う通り黙って席に座る。さすがに時間を使いすぎである。また反省しなければ。


「……よし! ご協力ありがとうございまーす!」

「それじゃあみなさん気になる洗礼内容の発表、行っちゃうよ!」


『いえーーーーーい』

『ふー!』


「さあ! みんな緊張感は持ったか!」

「今宵始まるは究極のデスゲーム!」


 デスゲーム。か。そうなるとチーム対抗というよりは生き残り形式か?


「さあさあみなみなさま! 混沌の波動に巻き込まれるが良い!」

「みんなも脳を溶けさせよう!」


 バッ、と照明が暗くなる。同時に画面も切り替わった。


「洗礼のタイトルは〜?」

「どぅるるるるるるるるるるるる」


『どぅるるる助かる』

『これで今日も生きていける』

『昨夜はふゆちゃんのどぅるるる八時間耐久配信を睡眠用に使いました。全ライバーのどぅるるる寄越せVtop』


 あ、ふゆがコメント見てにっこりしている。分かるぞ。こういうの嬉しいんだよな。八時間耐久は舌がりそうだが。


「さあ! 切り替えかもん!」

「どぅるる……でん!」


 画面が切り替わり、モニターにでかでかと字が映し出されてずっこけてしまいそうになった。


「【性癖開示ババ抜き】」

「字面から嫌な予感しかしない」

「垢BAN必須でしょこれ……」

「ちなみにこのゲーム、ルムちゃんのマネージャーの魔王? さんから提案されたんだけど」

「あいつ何してくれてんの!?」


 どうやら向こう持ち込みの企画だったらしい。これセーフなのか? いや、まずルールが分からないが。


『魔王ちゃん持ち込みは草』

『知らない人に説明しよう! 魔王ちゃんとはルムちゃんのマネージャー的な存在でやべえ奴だ!』

『なるほど?(疑問)』

『日常的にルムちゃんに襲いかかってるらしいぞ!』

「なるほど(瑠花チャソを見ながら納得)」


 魔王ちゃんね。なんかとんでもなさそう……というかまさか。


「……なあ、瑠花。その魔王ちゃんって」

「私の友達だね」

「なんていう偶然……本当に偶然か?」

「さあ? 私もあの子は何考えてるのか三割くらいしか分かんないし」

「三割も分かるのかよ」


 瑠花からその言葉を聞きつつ、ルール説明を聞こうとあきふゆコンビへと視線を向ける。


「えー、基本的にババ抜きとルールは一緒です! 全員にトランプを配って、同じ数字のトランプを揃えたら捨てられる! 簡単!」

「ただ、私と秋、そしてみっちゃんとカナタちゃんは交代でね! 三対三で丁度良くしたいし!」

「ただーし!」

「ちょっとだけルールが変わってます!」


 画面が切り替わり、ルールが映し出される。


「えー、性癖開示ババ抜きでは、みなさんに『性癖』を賭けて貰います」

「性癖って賭けるものだったんだ……」

「カイリ。そんな事ないから安心して」


 驚愕の事実に晒されるも、ルムの言葉に意識を取り戻す。なんだよ性癖を賭けるって。


「まず最初に皆の『性癖』を紙に十枚書いてもらいます」

「そして、順位によって『性癖』が開示されていきます。一位ならゼロ。二位と三位は一枚。四位と五位は二枚。六位は三枚ですね」

「なんか恐ろしい事言ってる」


 本当に性癖が開示されるのか。


「試合数は四回。そして、四回戦が終わった時の性癖の未開示数によって勝敗が決まります!」

「性癖開示してる時点で負けだよ……」

「ちなみに未開示数がゼロになっても罰ゲームはないから安心してね!」


『草』

『みんなの性癖がバレていくね……』

『カイリチャソのえっぐい性癖はよ』


 結構エグい事を言っているが、断ろうと思えば断れるのだろう。

 ただ、そこまでするべきかと言われたら……頷けない。だって俺なんて女装して女声で配信してるし。


「ちなみにあきふゆコンビとみつカナコンビは二人で十枚のカードね!」

「そしてそして、勝敗が決まる! となっても一度だけチャンスが与えられます!」


 画面が切り替わる。俺とルムがデフォルメ化した姿で、俺の方にWinの文字が書かれている。そして、俺の隣に一枚の紙が。


「お互い一枚だけ『どちゃくそ性癖カード』を作って貰います。話し合いでも良いし、リーダー的な人を決めてその人のどちゃくそ性癖でも構いません!」

「どちゃくそ性癖カード」

「はい!」

「いやはいじゃないが?」


 すっごい笑顔で頷かれたが。


「負けたチームは勝ったチームに一つだけ質問します! はい、いいえで答えられるやつです!」

「そしてそして、その回答をもとに性癖を当てられたら逆転勝利となります!」


 なるほど。エンタメ的なやつだな。最終問題一兆点みたいな。


「あ、そうそう。言い忘れてたけど、コンプラ的にやばそうなのはモザイク掛けるからね」

「配信の事も考えてその辺は考えて欲しいなー?って思ったり?」

「分かったか? 桃華」

「つまりはチキンレースって事ね!」

「一回頭叩かないと分かんないのかなこの子」


 後で念押ししておこう。決してフリではない事も。


「順番とかはまた後でね。とりあえずこの辺話しておけば大丈夫かな」

「まあ何かあったら後々追加で話すって事で!」


 さ、と二人がパンと手を鳴らした。


「それじゃあ作戦会議&準備はじめー!」

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