第40話 第三回【洗礼】始まるよ! その三

「――なので、みんなは道端でえっちな本が落ちてたとしても警察に届けたりしないで、道端でショタが拾うのをしっかり見届けよーね」

「まじで何の授業してんの? ……ここサキュ女学院だったな」


 場所を移動し、隣のスタジオに来た。めちゃくちゃ簡易的な教室みたいな感じだ。俺は五人の方に混ざり。瑠花と桃華はあきふゆコンビの近くに居る。


 にしても初手から飛ばしてきたな。なんなんだよ本当に。


「ちなみにカイリはおねショタものは大好物だよ。ショタおねは地雷だけど」

「ショタはお姉ちゃんに組み伏せられろ(過激派)。反撃するな(過激派)。あと複数で反撃とかやめろ(過激派)。いじめっ子が出てきてお姉ちゃんがかっさらわれると――」

「はいはい。妨害はカイリ君だけだからね。あと性癖も千差万別なんだから過激派にならないで」


 当たり前のように隣に来た瑠花をあきふゆコンビがさらっていった。いつもこうして欲しい。


『サキュ女行きたいな……』

『それならまず女にならんとな。カイリきゅんみたいに』


「俺は男だ」


『男の娘は男に入りません』

『やめろ。戦争が起きるぞ』


 こんなところで戦争を起こすな。寸劇を聞け。


「二時間目は何の授業だったかしらぁ?」

「ふっ。我が教えてやろう。次刻は魔学の授業……空気中に漲る魔力マナの観察だ」

「そうでした。次は化学の授業で元素の授業でしたね」

「うぁ……ぐ」

「懐かしいなぁ。私もこうやってカイリの言葉翻訳したんだよね」


『カイリきゅんダメージ受けてて臭』

『うっ(絶命)』

『こっちにもダメージ受けてるやつ居て草』


 嫌な事を思い出してしまった。

 ちなみに今の瑠花の発言はひとりごと判定されたらしい。あきふゆコンビが動かなかった。

 桃華は隣で「こ、これが放置プレイ……良いわね」と呟いている。もう放っておいて良いんじゃないかな。


 と、その時。


「な、なんという事でしょう〜! 教室にイン……こほん。スズメが入ってきたではありませんか!」


 教室にスズメインコが解き放たれた。多分セキセイインコだ。真っ黄色の。


「おいナレーション」


 あきのナレーションが余りにも棒読み過ぎた。あと一番大事な所を噛むな。


「可愛いです〜!」


 ドMメイドことモエがそのイン……スズメに近づいた。手を伸ばすと、ちょこんと指の先に乗った。


「……あれってホムちゃんのふーちゃん?」

「しっ。【不死鳥フェニックス】の事は黙っておれ。もしかしたらちょっと役に使うかもと事前で言われておったのだ」

「スズメは飼っちゃいけないものねぇ。ふーちゃんなら人にも慣れてるし」

「なあ。全部聞こえてるぞ? あともしふーちゃんに人権があったら裁判を起こされかねないぞ? 名前が酷すぎて」


 インコに【不死鳥】の名を着せるのは重すぎるだろう。さすがに。


「カイリも帰り道で見えたわんちゃんの事【三頭の地獄犬ケルベロス】ってむぐぐ」

「瑠花ちゃん? 別室行こっか」


 あ。瑠花が連行された。このままだと俺の尊厳が破壊されかねない(今更)し、良い事だ。


『ふーちゃんおひさやん』

『ふーちゃん可愛いよふーちゃん』

『スズメは鳥獣保護法で護られてるから仕方ないね、うん』


 そんなコメントを眺めていた時だった。


「闇を喰らい。火を、そして生命を操りし我を指先一つで仕留めるとはな」

「キェアアアアアアアアアアアシャベッタアアアアアアアア」


 ふーちゃんが喋った。え? 今のふーちゃんだよな?


『久々の鼓膜破壊助かる』

『鼓膜は破壊してナンボよ』

『最近鼓膜の予備余ってたから助かった』


 桃華。口を押さえてビクビクするな。あきふゆコンビがドン引きしてるだろ。


 ふーちゃんを見ていると。その隣でホムちゃんがしたり顔で笑っていた。


「ふーちゃんは我が言語を教えたからな!」

「なんでだよ。なんでこんな流暢に喋れるんだよ」

「訓練の賜物だな!」


 すると、ふーちゃんがぴょんと。モエの頭に乗った。


「はうっ!?」

「ふむ。やはり指導者の素質があるな。人を見下してこその統治者だ!」

「統治者に対する偏見が酷い。あとふーちゃん呼び止めよう? 一応寸劇なんだから」

「あら〜……カイリ君、いい位置に頭有るわね? 撫でていいかしら?」

「バブみの押し売りだ! 逃げろ!」


 本来無視しなければいけないはずの俺に話しかけてくるミカさん。なんなんだよこれ。


「ふ、ふーちゃん?」

「我の名はふーちゃんではない。【運命を操りし不死鳥ファトゥン・ディリゲンス・フェニックス】だ。ひれ伏せ」

「なんて?」

「は、ははー!」

「負けちゃったよドMメイド。人としての尊厳とか諸々消えちゃうよ」

「……つつかれたい。ちぎれるくらいの勢いで」

「桃華さん?」


 なんかすっごい怖い事を言ってるこの子。


「み、みなさーん? 鳥ちゃんが可愛いのは分かるけど、逃がしてあげようね?」


 おお。合法ロリ先生が先生してる。メスガキっぽさが消えた。やっと話が戻りそうである。


「す、スズメちゃん? こっちおいで?」

「我はスズメなどという下等な生物ではない。全てを超越せし存在……言うなれば。【超越者】否。【鳥越者】と言った所か?」

「語彙力が俺より豊富。でも上手くはないからな。……呪われてないかこの子。ソシャゲのチュートリアルで説明する謎生物くらい喋ってるけど」

「我の教育の賜物だな」

「英才教育にも程がある」

「みなさん?」


 前言撤回。全然話が戻らない。全員我が強すぎる。なんで桃華姉が今のところ一番影薄いんだよ。インフレの仕方やべえよ。なんだよ。一番我が強いのがスズメインコって。ふーちゃんをVtuberにした方が良いだろ。


「す、スズメちゃん。このままだと人の事を怖がっちゃうから。ほら、逃がしてあげないと」

「我を愚弄するかサキュの子よ」

「人の子よみたいに言うな。……つかどんだけ喋れるんだよ」


『もうめちゃくちゃで草』

『ふーちゃん可愛いよふーちゃん』


 帰ろうかな。帰っていいかな。


「……ホムちゃん? ちょっとふーちゃん、どうにか出来るかしらぁ?」

「ふっ。彼奴は一度顕現してしまえばもう止められ――」

「あら。実は私、後輩ちゃん達に手土産でクッキー焼いてきてたのよねぇ。多く焼きすぎちゃったから、ホムちゃんにもあげようと思ってたんだけど」

「ふーちゃん! お口チャック!」

「ピッ!」

「今更鳥ぶるのかよ」

「ついでにスズメっぽく!」

「チュン!」

「なんなのこの子怖い!?」


 ちゅんちゅん鳴き始めるふーちゃん。

 お前本当にインコか? 実は転生してるんじゃないのか?


「場は混沌となってますね」

「きっとカイリくんのせいでしょうね」

「俺何も悪くないが?」

「ふゆちゃんはどう見てます?」

「やっぱり【寸劇】と呼ぶにはちょっと難しいですね。減点です」

「ちゃんと評価してる……」


 解説をするあきふゆコンビ。

 ふゆは瑠花と手を繋いで引き止めている。

 桃華は俺をちらちらと見てはぁはぁしている。


「……カイリ君。後でこっそり私の指噛んでくれないかしら」

「ふーちゃんに噛んでもらえ」

「我にも誰を噛むか選ぶ権利ぐらいはある」

「スズメ」

「ちゅん」

「飼い主の言う事は聞くんだな……」


 スズメふーちゃんにすら捨てられて興奮してる桃華は置いといて。



 そういえば先程からふーちゃんに乗られているのに静かだなと。見てみると、そこには。

 ……凄い顔をしてるメイドサキュバスの姿があった。


「……まあいいか」

「はうっ!? む、無視は心に来ます……お腹の奥にも来ます」

「たすけてねえさん」

「あらぁ? やっと私をお姉さんって呼ぶ気になったのかしら? でも、それなら言い方ってものが……あるわよねぇ?」

「マトモな奴がいねえ」


 いや。居る。一人だけ。


「たすけてリオちゃん先生」


 そう。黒ビキニロリサキュバス先生(合法)だ。


「……はぁ。仕方ないか」


 リオちゃん先生がこめかみを揉みながらそう呟き。



「みなさん」


 大きい声ではない。しかし、その声はよく通った。


 声も、更に大人びた声へ。



『怒ってる』と、すぐに分かる。そんな声だ。


「私が何を言いたいか。分かりますね?」

「は、はい」

「ふーちゃんも。……分かりますよね?」

「はい」


 なんで分かってんだよとか言いたくなったが。この空気だと言えるはずもない。


 完全にはっちゃけすぎてしまった生徒を叱る先生の構図である。


「……よろしい」


 パン、と。またリオちゃん先生が手を叩く。


「さて。それじゃあその子をどうやって逃がすか考えよっか」

「ひ、ひゃい!」


 リオちゃん先生の言葉にモエちゃんが飛び上がり、同時にスズメふーちゃんが飛んだ。


 そのままパタパタと、机の上に舞い降りた。


 それと同時に。少し離れた机の上にあきふゆコンボが鳥籠をそっと置いた。その瞬間、理解した。


 あそこに入れれば逃がした判定になると。


 ……。


 これって寸劇だよな?



「……ふっ。ようやく気づいたみたいだね! みんな!」

「ただの寸劇だと思った? 否! それだとボイス販売で十分!」

「どうせならプレイ型にした方がリアリティもある!」

「カイリ君もガンガン絡みに行けるし盛り上がるからね!」


 あきふゆコンビが割り込んできた。……まあ、普通に【洗礼】が行われるとは思ってなかったが。ちょっと気になる言葉があった。


「……リアリティってそんな簡単に出るもんじゃないぞ」

「懐かしいね。カイリ、むかし書いてたWeb小説で『ヒロインにリアリティがない』『こんな都合のいい女居るわけないだろwww童貞の妄想乙www』とか言われてね」

「お前が自分をヒロインにしろとか言い出したんだろうが。事実を書いたら妄想乙とか言われた俺の気持ちを考えろ」

 リアリティは程々にが一番良い。何事も程々にだ。

 まあ、瑠花をヒロインに書いてた俺も俺なんだがな。


 そんな時。俺達の会話を聞いて、ホムちゃんが目を輝かせて割り込んできた。


「なぬっ? カイリも書いていたのか!? どんなやつだ!?」

「……うぐっ」

「詠唱で十行くらい書いてたよね。一部の読者には受けてたみたいだけど」

「あがっ……」


 ダメージが……ダメージがでかい。


「おお! 良いではないか! 胸踊る詠唱! 世界を滅ぼさん規模の合体呪文! からのそれをいとも容易く弾く魔王!」

「えぐっ……いぐっ」

「いぐっ!?」

「そこに突っ込むな桃華」

「そこに突っ込むなって言葉えっちだよね」

「確かにとか思いたくないのに思っちゃう」

「……みなさん?」

「はいごめんなさいリオちゃん先生」


 多分時間が押しに押しまくっているのだろう。という事で。


「さあ、第二回戦ねぇ」

「……なんか全然出番なかったな桃華姉」

「これからよ。これから」


 さて。スズメふーちゃん逃がす鳥籠に入れるのは難しそうだが。……待て。俺って妨害役だったよな。


 というかそもそも。


「ホムちゃんが簡単に出来るんじゃ?」

「ふぇに……こほん。あー。我の飼ってる不死鳥の話だがな? いつも自由を求めて部屋を彷徨うのだ。一度自由になってしまった鳥はそう戻っては来ない」

「つまり?」

「我の言う事は聞かんだろうな。まあ、入ってきた小鳥スズメを捕まえるのは普通に至難の業だろうが」

「なるほど」


 あきふゆコンビを一目見てみると、時間がないから手伝ってやれと視線で伝えてきた。……まあ、先週は瑠花が迷惑を掛けてしまったし。


 手伝うか。……そういえば全然コメントも見てなかったな。


『カイリきゅんのツンデレが発揮されて渋々手伝うに一票』

『カイリきゅんはなんだかんだ優しいから手伝うやろ』

『カイリきゅん早くカイリチャソにならねえかな』


 やっぱ手伝うのやめようかな。帰りたい。

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