第39話 第三回【洗礼】始まるよ! その二

 お詫びと訂正

 前のお話の最後の方を少し修正しました。


・修正前は桃華ではなくカキが「お姉ちゃん」と呼んでいるように見えましたが、実際は桃華が言っています。現在は修正し、桃華が呼んでいると読めるようになっております。


・カキの容姿はえっちなドSお姉さんサキュバスです。


 この度は混乱させてしまい申し訳ありませんでした。それでは、物語をお楽しみください。





―――――――――――――――――――――――



 ステイ。落ち着け?


『カキ様が桃華ちゃんの姉????』

『姉妹でドSとドM完結してて草』

『思えば声似てるよな』


 落ち着きたい。とりあえず落ち着け?


「……えーっと? え? 姉? 桃華の?」

「ちょっと違うわね。従姉妹のお姉ちゃんなの」

「なるほどな。……え?」


 だとしてもおかしいだろ。なんでドSとドM(略)


「……桃華ちゃんがまさか桃華ちゃんだったなんて思わなかったわぁ」

 いやまあ……そりゃ驚くよな。普通の可愛い従姉妹だと思ったらこんなドMなんだから。


「でも納得ねぇ。昔っから抓って欲しいとかビンタして欲しいとか言ってたし。電気アンマで喘ぎ始めてドン引きした記憶があるもの」

「でもお姉ちゃんも結構楽しんでたよね」

「凸と凹が噛み合うってこういう事なんだな」

「えっちだよね」

「えっちではな…………いや。あるのか?」


 普通にSM百合好きからすればこういうのは大好物だろう。ちょっとニッチな気はするが。


「良かったな。桃華。ほら、新しいご主人様だぞ。さっさとあっちへ行け」

「んっっっ……これがパチンコ浸りでお金が無くなったクズ男に水商売をしろって言われる女の子の気持ち。悪くないわね」

「お姉さん助けて」


 もう何でもエロい事に結びつけてくるこの子。しかも俺が苦手なシチュ。


「……カイリ君も悪くない顔するわねぇ」

「助けて瑠花!」

「ちょっと面白いから放置して良い?」

「ホムちゃん助けて!」

「ふむ。我の名を呼ぶか……良いだろう! 今ここに【炎帝の邪龍】を召還す――」

「ごめんねぇ、ホムちゃん。飴あげるから今は大人しくしててね」

「わーい」

「弱い! この厨二病! あと【炎帝の邪龍】は炎属性なのか闇属性なのか分からん!」

「両の属性を併せ持つから良いのだろう。……この飴おいし」

「ちょっと分かってしまうのが嫌だ」


 良いよな。炎龍を邪龍が取り込むとかそういう展開。じゃない。


『ホムちゃんとカイリきゅんで厨二談義して欲しい』

『分かる』


 やらないからな。絶対。


「ええっと……というか本当に? 人違いじゃなく?」

「私がお姉ちゃんを見間違えるはずないもの。そういえば一昨年くらいにお姉ちゃん、サキュバスになったって言ってたし」

「どうして気づかなかったんだよ。つか中学生相手になんて事言ってんだよ」


 ええと……カキちゃんで良いのか? 今更だが年上にちゃん付けってあれだが。まあ、それがここの掟でもあるもんな……。雰囲気的に今までとちがって呼び捨てもしにくいし。


「呼び方に困ってるなら『お姉ちゃん』でも良いのよ?」

「それはちょっと……変な扉が開きそうなので。カキさんで」

「あらそう? 残念。視聴者もそう呼んで欲しかったみたいだけど」


 何の事かとコメントを見ると。頬が引き攣ってしまった。


『カキ×カイおねショタ概念……? いや、おねロリもいけるぞ……?』

『一人で十粒くらい美味しいな』

『カキ&カイ×桃華チャソもいけるな』


 地獄かな。この空間。


「……む」

「瑠花?」

「やっぱりカイリはあげない」


 瑠花がギュッと。俺の袖を掴み。縄張りを主張する猫のように威嚇した。可愛い。


「いきなりそういうのは心臓に悪いからやめてくれ」

「え? 心臓取り替える? 私のと」

「前言撤回やっぱ怖いこの子」

「心臓交換ってえっちだよね」

「五百前にその性癖を公開していたら魔女狩りに遭っていたぞお前」


 また話が脱線しそうになってきた。何の話をしていたんだったか。……本当に何の話してたんだっけ?


 袖をぎゅっと掴んでいる瑠花を見てやっと思い出した。


 それと同時に……カキさんが瑠花を見て小首を傾げた。


「そうそう。ずっと聞きたかった事があったのよ」

「……カイリの3サイズは上から「絶対にそれではない」」


 余りにも需要がなさすぎる。ないよな?


『止めるなカイリきゅん』

『割と需要はあるんだぞカイリきゅん』

『視聴者の性癖を舐めるなカイリきゅん。逆に俺らに舐めさせろ』


 やべえ。ド変態しかいねえ。サキュバスよりド変態だよこいつら。


「それで、何を聞きたいんだ? 瑠花に」


 もう無視するしかない。あとこのままだと話が進まん。


 カキさんはニヤリと笑いながら。瑠花へと。


「簡単よ。桃華ちゃんに対して対抗心とかないのかなって思ってねぇ……?」

「……? カキちゃんは夫がペット飼いたいって言ったら嫌なの?」

「桃華の扱いガチでペットだったの!? 桃華は本当にそれで良いのか!?」

「え……良くないと思ってるの?」

「人間の尊厳さんどこ行った?」

「尊厳は破壊するためにあるのよ」

「もうダメだこの子」


 どうにもならない。無理だ。助けてカキさん。


「そうよねぇ。尊厳は破壊するためにあるのよね。さすが桃華ちゃん。分かってるわね」

「視聴者助けて」


 妹が妹なら姉も姉である。いや、実の姉妹ではないらしいのだが。


『ここまで一切話進んでないの草』

『そろそろあきちゃんふゆちゃんキレてそう』


 あっ。


 嫌な予感がした。思えばこうして話している間、全然あきふゆコンビ見てなかったなと。後ろを振り向くと。



 ニコニコと、とても良い笑顔で。俺達を見てきていた。背筋に嫌なものが走る。これが蛇に睨まれた蛙の気持ちなのか。


「「カイリ君?」」

「はいごめんなさい許してくださいもう黙ります」

「カイリ君には罰ゲームね」

「ホムちゃんと二時間以上厨二病談義ね」

「ほう? 我を罰にするとはまた悦な事を言う。良いだろう。我の考えた魔術の詠唱を共に考え――」

「チョコあげるからちょっと黙っててホムちゃん」

「わーい!」


 ポケットの中にあったチョコレートを渡すとホムちゃんは子供のように喜んだ。唯一の癒し枠ではないだろうか。二時間餌付け枠とかにならないかな。


「それじゃあそれじゃあ話を戻しまして!」

! 巻いていきますよ!」


 あきふゆコンビに進行が戻った。二十分という所をすっごい強調してきた。ごめんなさい。


「それじゃあ早速! 今回の【洗礼】を発表します!」

「何かでるかな、何がでるかな〜?」


 パッと照明が暗くなり。ドラムロールが鳴り始める。


「何になるのかな。サキュバスだしやっぱりあれかな。ナニとは言わないけどカイリの耐久配信とか」

「公式がBANくらう事になるぞ。前代未聞だぞ」



 やるとしたら……何になるんだろうか。本当に予想がつかないな。


 案外というか、今まではそのグループに合った内容だった。

 最初の西高五人衆とかもリーダーである黒飛がメイクが得意だったり、愛ちゃんのギャップが凄かったりした。内園も絵が得意だったからできた事だ。


 そして、今回は――


「【ドキドキ! シチュエーションボイス対決(笑)】」

「最後の(笑)にめちゃくちゃ悪意が篭ってるんだが!?」

「【あ、ポロリもあるよ?】」

「何がポロリするんだよ!? 本音か!?」


『草』

『ポロリあるのかぁ……』

『カイリきゅんのカイリきゅんがポロリするんですか!?』


 頭が痛くなってきた。それにしても、シチュエーションボイス対決か。


「ちなみにシチュエーションボイスは運営が考えたものからランダムで、二グループさんにはアドリブでやってもらいます!」

「初見さんや新人さんに言っておくと、Vtopうちの運営は結構頭イッてるからね?」

「嫌な予感しかしない」


 シチュエーションボイスかぁ……何度か録りはしたが。


「一応説明! シチュエーションボイスとは!」

「色々なシチュエーションを用意し、それになりきって聞き手を楽しませる事だ! Vtopもよくボイス販売とかしてるよ! カイリ君もこの前やってたね! ドSボイス!」

「他にも看病シチュだったり、後輩にからかわれるシチュとか! 色々だよ!」


 まあ、知らない人も居るには居るだろう。そう説明を終えて。


「しかーし!」

「今日のは一味違うぞ!」

 二人はそう声を張った。さすがVtopの中でも上の方に居るだけある。良い声だ。


「今日はシチュエーションボイス、というかもうぶっちゃけると寸劇!」

「すんげーぶっちゃけたな!?」

「シチュエーションボイスにするとボイス販売とか色々繋げられるからね!」

「すっごいお金の臭いするんだけど!?」


 言って良いのか? そんな事、と思ったが。


『草』

『お金に貪欲な姿勢嫌いじゃない。なんならこれを機に推しに貢いでくれる人も居るので良き』

『カイリきゅんのボイス販売はここだぞ!→……』


 怒るどころか楽しんでいるようだった。リンクを貼ってくれている人もいる。

 それならまあ、良いか。


「それと、事前にアンケートを取った所ですね。『カイリ君達と一緒に居られる事自体が解釈不一致。壁になって見守りたい』という意見が過半数を占めてまして」

「絶対それが原因で変えたな? しかも直前で」

「まあまあ、気にしない気にしなーい!」


 あきふゆコンビがカラカラと笑い、進行を続けた。


「あ、ふゆ。もう一つ特別ルールあるよ」

「あ! そうだった!」


 割と普通だなと思っていたが。特別ルールと来たか。


 なんだろうかと瑠花の手を握って待つ。……え?


「なんで瑠花は俺の手握ってるの?」

「バレないかなって」

「記録は三分ちょいね」

「無意識のうちに手握ってたのか俺……」


 怖ぁ……。


「イチャイチャしてる二人は置いといて!」

「特別ルール!」

「なななんと! 相手チームに一人、妨害役を置けます! 妨害役は何をしてもおっけー! あ、セクハラとかはダメだよ!」


 そう来くるのか。

 ……妨害役。


 桃華と瑠花を投入するのも面白そうだが。……まあ。


「カイリだね」

「そうね」

「そうなるよな……」


 何となく予想はしていた。


「ちなみに【ドスケベ痴女サキュ女学院】はまだ誰を突っ込むか決めてないみたいだから! コメントで誰を【混沌の申し子】に入れたいか教えてね! 参考にするらしいから!」

「そういえばそんな名前だったな……俺たちの名前」

「ちなみにメンバーおさらい!【合法ロリサキュバス】リオちゃん!【バブ落ち堕天使】ミカちゃん!【ドMメイドドジっ子サキュバス】モエちゃん!【厨二病サキュバス】‪✝︎漆黒の暗焔‪✝︎ことホムちゃん!【女王様兼桃華ちゃんの姉】カキちゃんの五人だよ!」


 さて。と、あきふゆコンビが一拍置いて。


「それでは先行!【ドスケベ痴女サキュ女学院】のターンが始まるよ!」

「引いちゃうよ〜!」

「改めて聞いても名前が酷すぎる。というか痴女要素半分ぐらいしかないんだが」


 そんな俺の言葉は無視され、あきふゆコンビの前に箱が置かれた。真っ白で中が見えない箱だ。上に手を入れられる程度の穴が空いている。


 そこにあきが手を突っ込んだ。


「なんかえっちだね」

「えっちなのはお前の頭だよ」

「んっ……」

「お前には言っていない」


 それだけ言って無視し、あきを見る。ドラムロールが鳴り……止んだ。


「でん!」


「【授業中にスズメが教室に乱入してきたシチュエーション】」

「やけに具体的だな!? シチュエーションって最後に付ければ良いって思ってないか!?」


 思わずそう叫んでしまったのだった。

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