第38話 (一つ飛ばして)第三回【洗礼】始まるよ! その一
「……待機人数やばくないか?」
「凄いね。十五分前だけど六桁って」
――あれから一週間が経った。え? 二回目の【洗礼】? 地獄だったぞ?
謎に始まった性癖暴露大会。俺は瑠花に『最近だと同級生幼馴染ママにばぶばぶ赤ちゃんプレイにハマってるよね?』と言われたのだ。完全にデマである。同級生幼馴染ママは性癖ではない。断じて。
それと、桃華が頬を赤らめて『た、叩かれるのが好きです』と言った時はみんなドン引きであった。知らない訳がないだろ。
それと、瑠花のは……やめておこう。BANされかねない。
まさかノート一冊分も書き記してくるとは思わないじゃないか。なんなんだよ。なんでそこを先読みして用意してきたんだよ。それだけで配信時間一時間使ったぞ。あきふゆコンビ泣いてたぞ。
そして、午後は5VS5のFPS対決。
……え? いきなり毛色が違いすぎる? 俺も思った。
しかも俺も瑠花も桃華もFPS未経験である。ボッコボコにされた……という訳でもない。
この勝負、5VS5なのである。二人足りないのだ。
という事で、あきふゆコンビが急遽参戦したのだ。いやもう、びっくりした。
どうやら二人とも、このゲームでは有名な選手らしく。大会なども優勝して荒らしまくってるらしい。
という事で俺達は勝った。罰ゲームは語尾ににゃんをつけて一週間過ごすものだった。
……長くないか? 一週間って。しかも向こうは男性Vtuberしか居なかったんだが。
いやまあ、視聴者は楽しんでたみたいだから良いか。で、それはそれとして。改めて。
「人多くないか?」
「い、いっぱいの人に見られると緊張して興奮しちゃうわね。カイリ君」
「同意を求めてくるなドM。そんな『え? 見られて興奮しないタイプの人間なの?』みたいな顔をするな。そんな人種の方が少ないんだよ」
「そんな事よりカイリ」
「いいの? 桃華。そんな事扱いされてるけどいいの?」
「興奮してきたわね」
「戦闘狂キャラが主人公を見つけた時みたいな言い方をするな。ただのドMが」
「んっっ……そんな、こんないきなり外で
「帰ろうかな」
帰りたくなってきた。案外帰っても許されるんじゃないだろうか。
「もー。カイリってば。詠唱するよ?【花嫁の棺・焔】」
「ごめんなさい許してください話聞きますから」
「よろしい」
めちゃくちゃに遮ったが、瑠花が何か話したそうにしていたのは確かである。なんだろうと思って瑠花を見ると。
「それでだけどさ。カイリはカーテンとか磨りガラスみたいなやつでシルエットしか見えないタイプの露出と、マイクロビキニだけど色々見えちゃってるタイプの露出。どっちが好き?」
雑談をするノリで猥談をしてきた。
「『それでだけどさ』は魔法の言葉じゃないよ瑠花さん。聞かなきゃ良かった。あと俺は1VS1の純愛じゃないと無理だからな」
「もちろんそれだよ。ビーチはプライベートビーチね」
「……後者で」
とかそんな会話をしている間にもどんどん待機者は増えていて……ん?
『これ裏でもこんな会話してるのか……』
『【花嫁の棺・焔】気になるな』
『カイリきゅん答えてて草』
『ちなみに俺は露出だと見せつけられるのが好き。彼女が他の男と……おぇ』
『脳破壊され済で草』
待ておい。
「視聴者に脳破壊されてる奴が居るじゃねえか」
「や。もう配信始まってる事に突っ込もうよ。カイリがNTR嫌いなのは分かるけどさ」
そうだ。そっちだよ。
「ありゃりゃ!」
「ばれちった!」
「という事でバレたから始まるよ!」
「第三回【洗礼】タイム!」
「待て。なんでなんの断りもなく配信を始めているんだ」
あきふゆコンビがてへっと頭を小突いた。絶妙にイラッとと可愛いとに挟まれている。瑠花と桃華ならデコピンしてた。
そして、あきの方がこてんと首を傾げた。
「え? 一応瑠花ちゃんに確認取ったよ?」
「一番相手にしてはいけない奴を……」
どうして瑠花なんだよ。いや、瑠花だからだろうな。
俺だと面白くなくなるだろうし、桃華だと……
うん。勝手にはあはあ言い始めかねないタイプの変態だし。
「一つ思ったんだけどさ。桃華ちゃんってえっちな事してる時に相手が別の人の名前呼んでも興奮しそうだよね」
「当たり前じゃない」
「当たり前じゃない(断言)。というか瑠花。『一つ思ったんだけどさ』って言葉も魔法の言葉じゃないぞ」
『うーん濃い』
『ア……ア……(泣)』
『脳破壊ニキ多くね?』
NTR死すべし慈悲は無い。という事は置いといて。……創作ならともかく現実であるのは本当に心にくると思う。うん。頑張れ。
「大丈夫だよカイリ。私、友達からいざという時にいかにして相手のタマを潰すか教えて貰ったから。トドメで『末代になっちゃったね』って言えば完璧らしいよ」
「やはり
目には目をみたいな。嫌だよ。こんなNTR絶対許さない法典。
「ちなみに最悪はその子の名前呼んだら助けに来てくれるらしい」
「〇ン〇ン〇ンかよ」
「その伏字だと余計えっちになっちゃうよ」
あ、やばい。あきふゆコンビが睨み始めてきている。話を進めさせろとご立腹だ。いや、そもそも最初から俺に伝えてくれれば……。
「さてさて! それでは始めます!」
「第三回【洗礼】の相手は〜? こいつらだ!」
そんな俺の願いも届かず、あきふゆコンビは強引に進行を始めた。
パッと電気が消えた。真っ暗……とまではいかないが、薄暗い。
その時。
「きゃっ!」
ぷしゅーっ! と。あのテレビで欲見るような煙が入口へと噴出された。そして音楽が流れ始める。プロレスでも始まるのかな。
いやこのスタジオ凝ってるな? いるか? この仕組み。
『今のカイリちゃんだよな???』
『え? マ? 男の悲鳴には思えんが?』
『瑠花ちゃんとか桃華ちゃんがあんなに可愛い悲鳴を出せる訳ないだろ! あとついでにあきふゆコンビも! いい加減にしろ!』
やべえ。ついうっかりメス声が出てしまった。いや、メス声はまずい。瑠花の言う通りになってしまう。
それはさておき先輩だ。まあ、西高五人衆より濃いキャラは出てこないだろう。
そして、現れたのは。
サキュバス集団だった。
……え?
サキュバスだった。
え?
「今回の相手はこいつらァ!【ドスケベ痴女サキュ女学院】だあああああああああ」
「同人エロゲに出てきそうな学園出てきた!?」
なんだよ。その名前。このご時世コンプラ的に無理だろ。無理だろ?
「む。こっちにもサキュバスみたいなの居るし」
「せんせー。ドMはサキュバスに入りますか?」
「入ってたまるか」
いや、当たり前のように割り込んできたが。このロリサキュバス。ロリサキュバス?
目の前には黒ビキニを着けたロリサキュバスが居た。
黒髪ショートで眼鏡をかけている。少し気が強そうな顔だ。角と尻尾どうなってんだよ。
え? どうなってんの? 捕まる? 俺。
「お、初邂逅はリオちゃんだね! じゃあ早速紹介いこう!」
「まずはリーダー兼ロリサキュバス兼先生!」
「【合法ロリサキュバス】リオちゃんだあああああああああああ!」
「よろしくね。瑠花ちゃん、桃華ちゃん……カイリちゃん?」
「これで合法は嘘だろ……」
「カイリ?」
「ちゃんと二十超えてます! ほら! 免許証!」
ロリっ子黒ビキニサキュバス。本当に合法だった。というか歳上なのか。これで。嘘だろ。俺の方が違法なのかよ。
「そして次は次は〜?」
「みんな大好きママ!」
「【バブ堕ち堕天使】ミカちゃんだああああああああ!」
わぁ。ママだぁ。ではなく。
ママみが凄い人が来たな。茶髪でウェーブ掛かっててスタイルやばいのはもう人妻なんだよ。色気がやばいんだよ。
あと服装は黒スーツである。さっきの合法教師着けさせろ。その服。あと制服じゃねえのかよ。
「……よろしくね? ところで三人とも、膝枕とかされたくないかしら? カイリ君はばぶばぶプレイが性癖だった……のよね?」
「やべえ。バブみの押し売りだ」
でけえ。いや、色々と。
なんなんだよ。もう情報量やべえよ。帰っていいか。
「そしてそして〜? 三人目は〜?」
「みんな大好きごほーしサキュバス!」
「【ドMメイドドジっ子サキュバス】モエちゃんだああああああ」
「よ、よよよろしくおねがいしまひゅ!!!」
今度はメイド服を着たお下げの丸メガネサキュバスである。
いや待て。
「キャラ被り来た!?」
「落ち着いて。桃華は痛めつけられたいタイプのドMで、こっちは御奉仕したいタイプのドMだよ。……桃華ちゃんは御奉仕するのも好きそうだけど。というかなんでもいけそうだけど」
「なんでこの状況で落ち着いてられるの? 心臓ふっさふさなの?」
つかキャラが濃いな!? これに加えてドジっ子かよ!?
「む。私もドジっ子だもん。うっかり針とか刺しちゃって穴とか開けちゃうもん」
「何にとは聞かないからな」
「避妊具だよ」
「聞いてねえが?」
そして、あと二人。……あと二人かぁ。キャラ濃いんだよなぁもう。
「続いてはー?」
「夜空より昏き、蒼炎より蒼いあのお方!」
「【厨二病サキュバス】
「ふっ。……我の名を呼ぶとは愚者め。その魂、闇より昏く染め上げてやろうか!」
「ぐわああああああああああああああああああ」
とんでもないダメージが入ってきた。
散歩に出かけたらいきなりボディブローを食らったみたいな気分だ。ムキムキマッチョメンに英語で話しかけられながら。
『カイリきゅん特効で草』
『この絡みを見たかったんだ』
『カイリきゅんの黒歴史鑑賞会して欲しい』
「ふっ。それが
※星とはホムちゃんリスナーの総称です。
てかやっばい。鳥肌やっばい。助けて。帰らせて。今すぐ。
「ちなみにみんなからは愛称としてホムちゃんって呼ばれてるから。三人もそう呼んであげてね」
「ふっ……我に愛称など存在しない。しかし! なあ?
「うぐああああああああああああああああああああああ! その名で俺をよぶなああああああああ!」
「な、なにっ!? なるほど。その名に触れる事は魂に触れる事を意味する。そういう事だなっ! …………レーちゃん!」
「助けてくれ! 誰か!」
なんなんだこの子は。厨二病にポジティブ成分を与えたら勝てる奴が居なくなるって相場が決まってるだろうが!
「えーっと。その辺は後でね? ホムちゃん」
「おっとすまない。【選礼】の儀式の最中であったな」
ぜってえ違う漢字使ってる。言い方が違うもん。
というかなんなんだこの子。サキュバス設定いらねえだろ。
ちなみにこの……ホムちゃんはローブを着ていて魔女っぽい帽子を被っている。それとロリ顔である。……まさか中学生か? いや、さっきの
愛ちゃん御用達のステッキでも持たせれば完璧に魔法少女である。愛ちゃんとコラボしないかな。
「それにしても随分キャラが濃い先輩達だね」
「ほんとだよね」
「キャラ濃い選手権あれば間違いなくお前らが一位だから安心しろ」
ほんとに。なんでこいつらよりキャラ濃いんだよ。
まあそんな事は良い。最後だ。やっと最後の人だ。自己紹介で帰れたりしないかな。胃もたれしそう。
そんな、呑気な事を考えていた。
「さてさて最後は?」
「お姉様のお出ましだああああああああああ!」
そうして最後は――
「【女王様】カキちゃんだあああああああああ」
「……さっきから思ってたのだけれど」
そこに居たのは、中々際どい、サキュバスっぽいコスをした女性。めちゃくちゃに妖艶な雰囲気を纏っている。いやだから制服はどうしたんだよ。女学院だろ。
彼女はじっと、とある人物を見ていた。それは――
桃華であった。
桃華もじっと、彼女を見ていて。小さく口を開いた。
「おねえちゃん、よね?」
「えっ」
えっ。……え? 桃華の? お姉ちゃん?
そして。桃華がお姉ちゃんと呼んだ彼女が、目を丸くしながらも呟く。
「まさかとは思ってたの。まさか、本当に桃華ちゃんが……」
「お姉ちゃん!」
確信したのか、桃華が声を大きくした。
……えっ? 桃華って姉が居たのか? ガチの?
と思ってしまったが。それ以上にツッコミどころが多すぎる。
なんで姉妹(?)そろってSとMの両極端なんだよ。
抱きしめ合う二人を見ながら。頭を整理しようとこめかみを揉むのだった。
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