第37話 平和(?)な日常
「凄い伸びだよね」
「……百合って凄いな。いや、百合ではないのだが」
瑠乃と出かけた時に撮った写真をモチーフとしたイラストがめちゃくちゃバズってる。バズってるのはいつもの事ではあるが。
いつも以上のバズりなのだ。
「次はどうする? 海流の女の子開発えっちでも投稿する?」
「BAN不可避じゃねえか」
「じょーだんだよ。ちゃんと下の方も女の子にしてあげるから」
「冗談という言葉を辞書で引け」
ちなみにここ。学校である。教室である。昼休みである。
「……お前ら。もう隠す気ないよな。いや、ないならないで良いんだけどよ」
「え? 何が?」
「ぶん殴って良いか」
「やめろ! 俺達親友だろうが!」
「親友だから殴って良いよな?」
「良くない」
親友Aにレスバで負けそう。しかしこちらには最終兵器が居るのだ。
「ふふふ……良いのか? 俺を殴ったら瑠乃に美少女にされるぞ?」
「なんだよその脅し……」
親友Aがドン引きである。
そして、瑠乃はと言うと。こてんと首を傾げていた。可愛い。
「……? 親友TS雌落ち理解らせからの自分もTSして反撃寸止め理解らせ絶頂耐久させられたいって事?」
「何を食ってたらそんな可愛い顔からおぞましい理解の仕方が出来るんだよ。性癖特盛ドスケベハラスメントが過ぎるだろ」
「お前らは何食ってたらそんな言葉が出てくるようになったんだよ」
「お互いを貪り合うように……」
「食ってねえ」
なんかもう、そろそろ親友AをVtuber化させた方が良いような気がしてきた。
「という事で親友Aよ。お前もVtuberにならないか?」
「ならん。頭が痛くなる。絶対」
「分からんぞ? 案外ドMと仲良くなれたりするかもしれんぞ?」
「悪いな。俺はカプ厨なんだよ。カイ×桃と瑠花×カイの」
「親友が俺達をカプにしてる事に衝撃を覚えてるんだが」
「この言い方だと左右固定っぽいね」
そんな事はどうでも良いのだが。
「あと最近だとカイ×愛もハマりつつある。女の子Verな」
「やめろ。お前はツッコミ側で居てくれ。俺の胃が死ぬ」
「やっぱ愛ちゃんは受けだよね。カイリの誘い受けもありだけど」
「この会話やめよう!? 俺が悪かったから!?」
地獄である。
話を変えよう。
「そういえば親友A」
「その呼び方は非常に不服だけど。なんだ?」
「お前って彼女作らないのか?」
「ぶっ殺すぞ」
「ノータイムキル宣言!?」
唐突な殺意に怯えが止まらない。
「いや。お前って女の陰ないよなって思っただけなんだが」
「ぶっ殺すぞ」
「ノータイムキル宣言セカンド!?」
「ぶち殺しますわよ」
「ノータイムキル宣言feat.お嬢様!?」
「海流。同じネタを三度目は飽きるよ」
「精進します。師匠」
話の脱線の仕方がさっきから凄いな。何の話してたんだったか。ああ。親友Aに彼女が居るのか問題だ。
親友Aがため息を吐きながら、やっと答えを返してくれあ。
「お前らを見てると、恋人ってなんか大変そうだなって思ってな」
「安心しろ。俺達は恋人じゃないし、こんな変な女はこの世界に二人といない」
「桃花ちゃん」
「三人と居ない」
「撤回の速度ハンパないしまだ言ってんのか。もう恋人通り越して夫婦だろ」
「そ、そんな……私達が毎日夜の運動会してるおしどり夫婦だなんて」
「知ってるか? おしどりって毎年番が代わるらしいぞ」
「私は代えないけど海流は代わるから合ってるよ」
「合ってねえよ。代えねえよ」
サラッと恐ろしい事を言う瑠乃である。しかし、瑠乃は俺の言葉に頬を赤らめていた。
「そ、そんな……こんな公衆の面前で『俺の妻はお前だけだよ』なんて」
「クソ! 嵌められた!」
「やっぱり海流はハメるよりハメられる方が合ってるよね」
「お前ら……先生にそのうち怒られるぞ」
「大丈夫。食い扶持は私が稼げる」
「なんも大丈夫じゃねえ」
「はぁ。というか、どっちかと言うとお前の事言ってるんだけどな」
親友Aの言葉に首を傾げつつ、膝の上に居る瑠乃が落ちないよう抱える。
……?
「なんで瑠乃。俺の上に座ってるんだ?」
「え? 好きだから」
「……い、いきなりそういう事は言うな。ドキドキするだろ。ではなく」
なんでだと親友Aを見てみるも、知るかと一蹴される。
はぁ、とまた親友Aがため息を吐いた。
「お前の方から誘ってたぞ」
「……え?」
なんだその冗談は。……冗談だよな?
「ほんとだよ。ほら」
そう言って瑠乃が見せてきたのは――俺の映像である。
ちょいちょいと瑠乃を招いて。瑠乃が俺の上に座った。
「ね?」
「待て。これ誰が撮ったんだ」
「隠しカメラだよ。そんな事よりさ」
「そんな事では隠しきれない事だが?」
「じょーだんだよ。さっきその辺の子に撮ってもらっただけ」
それでもツッコミどころはたくさんあるのだが……まあいい。
「で、なんで俺こんな事してんの?」
「多分あれじゃない? まだ心が雌落ちしてるんだよ」
「心が雌落ちしてる」
「ほら、海流って雌落ちしてる時は私の事受け入れてくれるじゃない?」
「言い方が悪すぎる」
なんかとんでもないプレイしてるみたいだろ。……間違っていないのか?
「なんとなく分かってしまうのが辛い。とりあえず離れてくれ」
「はーい」
瑠乃は渋る事なく立ち上がった。珍しい。瑠乃も成長したのかと感動しかけていると。
「よいしょっと」
瑠乃は俺の方を向いて座った。……。
「瑠乃?」
「どうかした?」
「ああ。どうかしてる。瑠乃の頭が」
「やってみたかったんだよね。学校で」
「……対め」
「やめろ。口を開くな親友A」
親友Aの口を閉じさせている間に、瑠乃がぱしゃりと写真を撮った。
「……瑠乃?」
「イラストにしたいなって思ってたんだよね。チャンスを伺ってたみたいな?」
「学校でやる必要なかっただろ」
「学校でやった方が興奮するでしょ!」
「誰か助けて」
『呼びましたかご主人様!』
「帰れドM」
待て。今ナチュラルにドMが出てきたぞ。
「……桃華?」
「なんとなく繋いでみました」
「なんとなくで繋げるな。向こうも学校だろうが」
『あっ、凄い。いきなりご主人様を呼んだから周りからの視線が凄いっ。ご、ご主人様。どんなプレイをすれば』
「助けて親友A」
「カイ×桃しか勝たん」
「ツッコミ不在の恐怖」
ついに親友もそちら側に行ってしまった。
あと桃華。お前はそれで良いのか。良いんだろうな。ドMだし。無敵すぎないか。
「とりあえず桃華。電話を切れ」
『ほ、放置プレイ!? ……わ、分かったわ』
「親友A。封印術とか覚えてないか?」
「覚えてるぞ」
「まあ覚えてる訳ないよな……ん?」
「昨日通信講座で習った」
「すげえな封印術。通信講座とかもやってんのかよ」
「月額298円だぞ」
「やっす。絶対詐欺だけど何やるのか気になるじゃねえか」
なんか久々に男子高校生らしい会話をした気がする。しかしそんな事は割とどうでもいい。
「離れてくれ。瑠乃」
「しょーがないなー」
一旦瑠乃を遠ざける。桃華との電波は切られていた。本当に何のためにかけたんだよ。
「喜ぶかなって。桃華ちゃん学校だとぼっちみたいだから」
「余計ぼっちを加速させてると思うんだが」
「ゼロには何を掛けてもゼロなんだよ」
「お前って案外桃華に辛辣だよな」
「その方が喜ぶからね」
確かにと思ってしまう自分が辛い。やっぱあいつ世界のバグだろ。
「という事で助けて
「お前も大概だよなほんと。頭の中にある事はちゃんと話せ。いきなり理解不能な言語を話す狂人にしか……いや。合ってるか」
「親友からの評価が酷すぎる」
そうしている間に昼休みは終わりを迎えようとしていた。
「それにしても……海流、本当に女装したのか?」
「これ親友に言うのしんどいんだが」
「してたよ」
「迷い見せようよ。もっと」
瑠乃が考える素振りもなくそう返した。躊躇ってくれよ。それか俺から許可取ろうよ。
「……お前の女装なぁ。なんか想像つかないな。実際に海流の姿を見てるとなぁ。どれだけ可愛くても――」
「ちなみに海流の女の子姿はこんな感じね」
「なにこの子クソ可愛いんだが。は? 好き」
「綺麗な即落ち二コマを見た」
なんなんだこの親友Aは。ちょろすぎるだろ。俺かよ。
「え? これ海流? は? 嘘だろ? 嘘だと言ってくれよ。なぁ」
「付いてるよ」
「うああああああああああああああああ」
親友Aが発狂している。楽しそうだ。
「でもついてる方がお得だよ」
「それもそうか……とはならんよ?」
「
「時代はジェンダーレスだよ。それに二刀流も最近流行ってるでしょ?」
「謝れ。全人類に」
あの人のファンは世界中に居るんだぞ。
「なんでお前はこんな俺のドタイプ一直線になれるんだよ。お前も謝れ!」
「理不尽極まりない」
「俺の初恋を返せ!」
「なんか凄い事言ってない!?」
咽び泣く親友A。ちょっと怖い。
「あーあ。責任取る相手増えたね」
「俺じゃなく運命を呪え。悪いが俺にその趣味はねえ」
百億歩譲って桃華はまだ良いとして。……良いのか? 本当にそれで良いのか? 俺。
「……まあいいか」
「じゃあ今週も洗礼に向けて頑張ろうね」
「『じゃあ』でこの一大事をまとめるんじゃないよ」
しかし、瑠乃の言う通り週末には洗礼もある。もうしばらくは忙しい日々が続きそうだ。
「比較的普通の洗礼だと良いな」
「死にゲー目隠しRTAとか?」
「ちょっとありえそうなのが怖い」
また地獄の配信になってしまうのか。それともまともな配信になるのか。それが少しだけ怖くて――
少しだけ、楽しみだった。
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