第36話 瑠乃と女装デート+α その2
「で? なんでいきなり居なくなったの?」
「と、トイレに海流が三人くらい居たから?」
「蛾みたいな感覚でドッペルゲンガーを見てるんじゃないよ」
レッツ尋問タイムなうである。芦澤がニコニコとバットを手でスパンスパンと良い音を立てながら受け止めているのがより味を出してる。てかそれ痛くないのか。
「まあ百歩譲ってそこは置いておくとして。……なんで見てたの?」
「べ、別に楽しんでなんかなかったけど? なんかVtopに居てもおかしくない二人に絡まれててちょっとワクワクしてたりとかしてないけど?」
「一から十まで教えてくれてありがとう」
自分で尋問と言っといてなんだが。というかぶっちゃけると。
めちゃくちゃ分かる。そりゃ見ちゃうよな。俺だって瑠乃がラッパーもどきと世紀末モヒカンに絡まれてたら見ちゃうよ。助けには行くけど。
「あとあわよくば海流が連れていかれて『ぐへへ……って男じゃねえか!』『ついてる方がお得だろ!』って会話を聞きたかったという訳じゃないからね」
「なんでそこまで着いてきてるの。というかホイホイ行かないからね」
ましてや変態ラッパーもどきと変態世紀末モヒカンなのだ。ついて行く人など……ちょっと面白そうだな。いや、行かないけども。
「まったく……愛ちゃんと芦澤が来なかったらどうなった事やら」
「案外どうにかなってた気もするけどね」
「そんな事は……多分ないから」
正直ドMとこいつを撒く方が難しい気もするが。まあ、それは置いといて。
「二人もありがとうね。助けてくれて」
「良いって良いって。まあ、私は愛ちゃんがいきなり走り出したから来ただけなんだけどな。最初は愛ちゃんの友達かと思ったし」
「……別に。知り合いが目の前で死なれても寝覚めが悪いだけだし」
「え? 私死ぬ寸前だったの?」
「死なん死なん……多分」
「待って待って待って待って。怖いんだけど。え? やばい人だったの?」
「あの人達お笑い芸人だよ。ほら。この人達。✝︎終末のアポカリプス✝︎って名前の」
「お笑い芸人に被せるには重すぎるグループ名!」
あとすっごいうずうずする。心の傷が。もうすっごいうずうずする。ちょっといいなとか思ってしまう。
「うわー……くそださ」
「やめて愛ちゃん。それは私にも刺さる」
いや分かるけど。ネーミングセンスどうなってるんだって気持ちも分かるけど。
「それにしても二人、仲良くなったみたいで安心やなぁ。配信の時から思ってたけど」
「べ、別に……そういう訳じゃ」
「ふーん? 配信終わってすぐに『悪くない』って送ってきたのに?」
「ね、姐さん……」
思わず首を傾げていると、芦澤が説明を続けてくれた。
「こいつな? ずーっとカイリ君の事話してたんだよ。あれ? カイリちゃんの方がいい?」
「どっちでも問題ないけど」
「んー。じゃあカイリちゃんで」
というか表と裏で合わせるのしんどくなってきたな。もう合わせるか。
……うん、合わせよ。
「あ、カイリが完堕ちした」
「堕ちてないから。終わったら戻るから」
確かにこっちも悪くないけど。生物学上は男だから。
「そうそう。愛ちゃんってば可愛いもの大好きでなぁ? 寝る時はペンギンのぬいぐるみがないと眠れないんよ」
「え? それ話して良いの?」
絶対話したらダメなやつでしょ。そう思って愛ちゃんを見る。
すっごい睨んできた。すっごい。
「……姐さん。それ以上話したら姐さんでも許さないからな」
「あはは、ごめんごめん。でもそういう所が良いんだけどなぁ。ギャップ萌えってやつ?」
芦澤の言葉にうんうんと頷く。ギャップ萌えは想像以上に破壊力が高い。
……瑠乃もギャップ萌えを狙っていきなり清楚になったりしないかなぁ。
「私もギャップ萌えを狙う! 実はカイリと一線超えてたって言うギャップ!」
「別にギャップにならないからね。『ああ、そう』って言われるだけだから」
「あと炎上しそうやなぁ。なんだかんだカイリちゃんガチ恋勢多いし」
「文句があるなら私より絵が上手くなってって言えば問題なし。あと幼馴染に生まれ変わってって」
「絶対炎上するからやめて」
そういえばなんの話をしてたんだっけと芦澤を見る。
「ん? ああ、愛ちゃんの話やったね。愛ちゃんってばすっごいカイリちゃんの事気に入っててな? 朝からずーっとカイリちゃんカイリちゃんカイリちゃん言ってたんよ」
「べ、別に……そんな言ってねえし。……言ってないし」
普段強気な子が萎れるのなんか新鮮。
「むむ。応援にドM呼ぼうかな」
「……相手が相手だから注意もできない。罵倒がご褒美になるのこの世界のバグでしょ」
デバッグ班早く来て。アプデして。
「てか二人は何してたん? カイリちゃんにもなってるし」
「女装デートだよ。昨日のご褒美で何かしてくれるって言うから」
この会話、一般の人が聞いても理解できないだろうな。私も理解したくないし。
「この後はお買い物してホテルに連れ込んで一週間くらいえっちな事する予定だよ」
「しないから。学校もあるでしょ」
と、そこまで話して。大事な事を忘れていた。
「って、違う。る……か。大変な事があったんだよ」
「どうしたの? おっきしちゃった?」
「突っ込まないからね」
「突っ込まないの!? 入れられる方が良いの!?」
「違う!」
お願いだから会話をして。というか見せた方が早いね。これ。
「これなんだけど」
「んー?」
瑠花のついでに二人にも見せた。それを見た瞬間、三人が眉を顰める。
「……気づかなかったね。撮られてたんだ」
「趣味悪。ぶん殴ってやろうか」
「あー。これは良くないなぁ」
先程バズっていた私と瑠花の写真である。
「ん。……ちょっと待って。うわぁ。やっぱ他のとこにも転載されてる」
「うわきしょ。自己承認欲求の塊のインフルエンサーやん。犯罪の拡散は良くないって」
「……壊してくる?」
愛ちゃん。さっきからちょっと怖い。壊すって何をですか。心ですか。
「んー……これは拡散消すの難しそうかなぁ」
「無理やろなぁ」
「やっぱ壊した方が良いよな?」
だよね。もうここまで来たら難しいよね。あと壊さなくて良いから。愛ちゃん。
「まあ、拡散を止める事は簡単だから。任せといて」
「Vtopの人に任せても良いけどバレるからなぁ。そいつらがばらさんとも限らんし」
「爆殺した方が良いな」
爆殺もしないで。
「なんかすまんなぁ。私達がVtopならって言ったのに。弁護士さんに宛あるから紹介しよか?」
「ううん。大丈夫。こっちにも宛はあるし」
「爆殺がダメなら半殺しなら良いよな?」
お願い。誰かこのバーサークを止めて。
そして、恐らく相手と連絡を取っている瑠花を見て私はちょっとした不安を覚えた。
「……身バレとか大丈夫?」
「あ、安心して。こういう時のために別のアカウント作ってたから」
「用意周到の鬼」
さすがは瑠花である。つよい。
「というか。もう一人は取り下げてくれたね」
「はやっ……ってまじじゃん」
一人の呟きがもう削除されていた。さすがに法的措置をされるのはまずいと思ったのだろう。
……最初からやらなければ良いのになぁ、とか思わない訳でもないけど。
「他は返信待ちかな。後はまとめサイトとかに転載されてるの探して消して貰わないと。消さないなら弁護士さんに丸投げしよ」
ものすごい判断の速さである。さすがは瑠花。
「良い判断やなぁ。さすがはアタシ達が見込んだだけあるな」
「……ふん」
愛ちゃんがツンツンしている。そういえば愛ちゃんは芦澤至上主義だったね。
「そういえば芦澤達は何やってたんだ?」
「ん? ああ、愛ちゃんとデートよデート。ちょっと昼食べたくてなぁ」
同じ感じかと頷いていると、ふと芦澤が私を見てきた。
「それより。その姿で芦澤呼びはちょっとあれやなぁ。カナちゃんって呼んでくれん?」
「え? あ、分かった。カナちゃん」
まあ愛ちゃんって呼んでるし良いかな。愛ちゃんすっごい睨んできてるけど。
「むぅ……ずるい。やっぱり私もニックネーム的なの欲しい。マイハニーとかどう?」
「日本でその呼び方は目立ちすぎるので却下」
「じゃあ愛しのマイエンジェル」
「それはタキシード着てバラを加えたナルシストイケメンしか言わないから却下」
「カイリちゃんって結構偏見酷いよなぁ……」
「じゃあラブリー愛ちゃんで」
「あ、アタシは関係ねぇだろうが!」
瑠花を呼ぶ時に毎回愛ちゃんを呼ぶ事になるんだけど。
その時。カナちゃんが辺りを見渡した。
「……っと。ちょっと視線集まってきたなぁ。こんくらいにしとくか」
カナちゃんの言う通り、なんかよく見られるようになってきた。
思えばここは美少女揃いである。
瑠花は言わずもがな、カナちゃんは姉御系美人だし、愛ちゃんも今日は昨日ほど尖った服装をしてない。
パッと見で愛ちゃんと分かるけど。パンツスタイルでインナーの上からジャケットを羽織っている感じ。
いや愛ちゃんスタイルすっごい良いね。かっこいい。
「ん、そうだね。私もカイリとデートの続きしたいし」
まあ、向こうの邪魔にもなるはずだし、愛ちゃんはカナちゃん大好きヤンキーだからなぁ。
「改めてありがとう、二人とも。助けてくれて」
「後輩だしな。またなんかあったら助けるし。相談とかも気軽にしてな」
「……別に。さっきも言ったけど目の前で死なれたら寝覚めが悪かっただけだし」
「そんな軽率に殺さないでくれないかな!?」
「そうだよ! カイリが死んだら私も死ぬんだよ!」
「瑠花は軽率に激重にならないで」
そういえば名前を呼び合うのも結構危ない気がする。もうちょい気をつけよう。
「それじゃね」
「ん、またなぁ。来週のも頑張ってな」
そうして別れようとしたら、愛ちゃんがじっと見てきた。
……? どうしたのだろう。
「……今度コラボしないか。……同時視聴、する相手が今まで居なかったんだよ」
思わず目を見開いた。その言葉は……凄く嬉しかった。
「うん! もちろん!」
嫌われていない事にほっとして。思わず頬が緩んでしまった。
「じ、じゃあな」
「またね、愛ちゃん。カナちゃん」
そうして二人と別れた。もういつもの呼び方で良いはず。
瑠乃が手を繋いできて、また歩き始める。
……?
「服屋さんってこっちじゃなくない?」
「そうだよ? 別のところ向かってるよ?」
「いやそんな当たり前みたいに言われても……どこに向かってるの?」
瑠乃はにっこりと微笑んで。
「ホテル街だよ。三件くらいラブホハシゴしようね」
「やらないからね? てか初めて聞いたよ。ラブホハシゴって」
あ、その辺を歩いていた休日出勤をしているらしいサラリーマンが転びかけた。お疲れ様です。
その後も、二人でわちゃわちゃやりながら。服を買いに行って着せ替え人形にされたり、公園でイラストを描いてる瑠乃を眺めたりと。
有意義な時間を過ごす事が出来たのだった。
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