第35話 瑠乃と女装デート+α その1
「……どうしてこうなった」
「海流がご褒美くれるって言うから女装デートを所望したんだよ」
「端的で分かりやすい説明助かる」
という事で次の日。俺は瑠乃と出かけていた。ちなみに昨日、西高五人衆の後に明沢五天王との洗礼があった。
洗礼内容は【最近買った人に言えない本のプレゼンをしろ】との事だった。瑠乃……この時は瑠花だが。
瑠花と桃華は何の躊躇いもなくプレゼンをした。瑠花の作品であった。表に出てないやつだ。
そして、俺。
……この時はなぜかまだ女装をしていたのだが。これまたなぜか、俺は恥ずかしくなってしまい。上手くプレゼンが出来ず。
向こうが炎上した。なぜだ。
加えて言うと。買ったというか瑠花が(勝手に)本棚に追加していた本だし、瑠花は自筆だし桃華も瑠花から貰った本のプレゼンだ。
ちょっと判断は微妙だったが。セーフらしかった。販売催促を視聴者がしてきたが、大人になったらねと瑠花が伝えていたのだ。
そして洗礼も無事終わり。向こうの性癖まで暴かれた後。
瑠乃に何かして欲しい事はないか?(常識の範囲内)でと言った瞬間返ってきたのだ。『女装デートしよう!』と。
という事で今に至る。
「……でも。なんかいつもと向けられる視線の種類が違うような気がするね」
「海流は可愛いからね! 可愛い女の子が仲睦まじく歩いていたらそれはもう百合なんだよ!」
「言ってる意味が分かりたくないね」
しかし、なんかいつもよりちょっとハイになってるのは認める。瑠乃と腕を組んで歩いても恥ずかしくないし。
「世の中の女子高生は口移しでケーキ食べるんだよ。という事で食べよう」
「全国の女子高生に謝って」
「ふふふ……謝らせたいならベッドの上で屈服させるんだね!」
「声が大きい。歩いてた休日出勤のサラリーマンさんが転びかけたでしょ」
ほんとお疲れ様です。……将来は俺もああなるのかな。
「大丈夫だよ。私が養うからね! 三生!」
「お願いだから一生で終わって」
「来来来世まで一緒だよ。その後もね!」
「運命のドス黒い糸だね」
まあそれは置いといてと。二人でなんか女子高生やカップルらしき人がいっぱいいるカフェに向かった。
「瑠乃ってこういうとこ、よく来るの?」
「……? 私、海流としか一緒に出かけた事ないけど?」
「そういえばそうじゃん」
「いつもの海流なら断られる気がしたからね!」
「確かに」
いつもなら断ってる気がする。……気がするんだけどなぁ。
なんかこの格好をすると丸々自分が変わったような気がしてしまうのだ。
「という事でこのカップル限定のセットください」
「え、えっと……申し訳ありませんが、こちらは男女のカップル限定となってまして」
瑠乃がちらりと俺を見てきた。一つため息を吐いて、咳払いをする。
「すみません。俺、男です」
そう言うと。店員さんの顔が固まった。ピシリと。石のように。
「えっ、あっ……」
「……ダメ、ですか?」
声を戻してそう言うと。……店員さんの顔がボッと赤くなった。
「し、ししし失礼しました。ただちにご用意します。席にてお待ちください」
そう言って店の奥の方に走っていく店員さん。瑠乃はそれを見てニコニコしていた。
「ふふふ……店員さんの新しい性癖を開拓する。海流も罪な男の娘よのう?」
「悪い冗談はやめて」
「いや、結構本気で言ってるけど」
瑠乃のそんな妄言を聞き流し、席へ戻って少しすると。店員さんが来た。
……おぉ。凄い。初めて見た。これがアニメとかで時々みるハート形のストロー。そしてピンク色のジュース。あとすっごいハートを強調したケーキ。
「お、お待たせしました。ごゆっくりお過ごしください」
「ありがとうございます」
あれ。この姿だと自然と笑顔が浮かべられる。なんでだろう。
とりあえず愛想良くしておこうと店員さんにお礼を言うと。店員さんは顔を真っ赤にしたまま頭にクエスチョンマークを浮かべ、去っていった。
「堕ちたね。こっちの世界に」
「何を言ってるの?」
そんな事を話しながらストローに口をつける。意外と美味しい。
「じゃあケーキも。はい、あーん」
「ん。あ、美味しい」
ケーキも美味しかった。少し甘ったるいけど、美味しいと感じてしまう。
それにしても。カップル限定とあったけど、これ男の人が食べたり飲んだりするの、かなり勇気が必要なんじゃないだろうか。
そう思って周りを見回す。
……え? なんかすっごい色んな人と目合うんだけど
「これ、カップル限定セットだからね。はい、あーん」
「ああ……そういう。ん、ありがと」
確かに誰も俺が男だとは思わないだろう。自己肯定感の低い俺ですら思わないのだから。
あ、美味しい。
「あ、店員さん店員さん。適当に私達の写真撮ってくれませんか?」
「え、ああ。はい、全然大丈夫ですよー」
ああ、そういう事か。瑠乃もイラストが描きたかったのか。
それなら協力しようと、適当に一緒にジュースを飲んだり、食べさせ合ったりする。……なんかめちゃくちゃ連写してないか? 店員さん。容量大丈夫か?
「あの……よろしければSNSをお聞きしても?」
「ごめんなさい。身内向けのSNSしかやってないんです」
「そ、そうだったんですか……」
身バレ対策はしっかりしている。さすがだ。
「なんかえっちな動画撮られてる気分になってきたね。ホテル行く?」
「隠すつもりあるの? ないの? えっちな事に関してだけ頭おかしくなってるの?」
「あ、次食べさせてね。あーん」
「今口開かないで! えっちな事考えちゃうから!」
とかなんとか会話をしていると、突き刺さる視線が増えてきた。
「な、なあ……あれって男女カップル限定のやつだよな?」
「ど、どっちが女の子なんだろうね」
「あのポニテの子……いいなぁ」
「(無言の腹パン)」
「うぐっ……」
言い忘れていたが、ポニテは俺である。今日は健康的なポニテスタイルだ。
……というかそこまで間違えるのか。いや、先程自分でも言ったのだが。
今の自分は可愛いからね!
「ふふふ」
「海流が楽しそうにしてる……メス落ちまでもうマイナス一歩といった所だね!」
「落ちてるじゃない。それ」
と、そんな会話をしながらも食べ終えた。瑠乃が店員さんからスマホを回収した。……なんとなく、名残惜しそうに見えたのは多分気のせいだ。
「じゃあ次はどこ行こっか」
「私としてはどこでも良いけど」
「あ、じゃあ服見に行こ」
瑠乃に手を引かれて歩きかけ――瑠乃がピタリと止まった。
「海流、やっぱちょっと待ってて。御手洗行ってくるから」
「あ、うん。わかった」
瑠乃がパッと手を離し、先程のお店に戻っていく。
「知らないドMに話しかけられても鞭打っちゃだめだからね」
「それもう固有名詞だからね」
さすがに来ないだろと近くの木にもたれ掛かり、スマホを触る。やるのは主にエゴサだ。
お、昨日の【洗礼】配信の切り抜きがバズってる。こういうの見ると嬉しくなるな。
昨日の配信の後に瑠花と内園が合作で描いたイラストもめちゃくちゃバズってるし。良い事だ。
そういえば最近のトレンドはどうなっているのだろうと検索の方を見てみた。
「……ギャンかわ? 動物系か?」
動物園でライオンの子供でも産まれたのだろうかとそれを検索してみると。
一番上に、俺と瑠乃の写真が写っていた、
?
え? これ俺と瑠乃だよな?
おいおいおい。これもう盗撮だろ。
動揺していた時だった。
「HeyYo、そこの姉ちゃんYo!」
「うわ! 一部の人達の偏見と想像で作られたようなラッパーもどきが来た!」
「ああん? やんのかぁ? ああん?」
「うわ! 世紀末だ! モヒカンだ! いやどんなコンビなの! なんで世紀末とモヒカンが居るの! ……って戸惑って頭痛が痛いみたいになったじゃん」
「俺の事を無視するのかYo!」
「だせぇ! 中学の時にオタク友達を呼び込む為に語尾に『ぐっ……漆黒の黒炎よ……我を蝕むと言うのか……!』って言ってた田中君くらいだせぇ!」
懐かしいな田中君。元気にしてるかな。あの時は仲良かったな……そういやレーヴァテインって名付けたの田中じゃねえかおいこら。なんであいつが四天王になってねえんだよ。
懐かしの田中君へ怒りをぶつけようとしていると。目の前にラッパーもどきが近づいてきた。
「やめて! 違法な薬は間に合ってますので!」
「間に合ってんのかYo!?」
「ああいや、違法な薬ってか違法な子ですけど。間に合ってるのは」
桃華ことつぼみとか。瑠乃とか。つぼみとか。瑠乃とか。
あと別にラッパーが違法な薬を使ってるとか思ってないんだからね! この目の前の奴が色々とラリってるように見えただけだから!
……いや。十分失礼なのでは?
「という事でごめんなさい」
「お、oh……調子狂っちゃうYo」
「おいどんに喧嘩売っとるのかぁ!? おおん?」
「その見た目で一人称おいどんなんですか……世紀末さん」
なんなんだろう。このモヒカン世紀末は。てか肩パッドやべえな。針ついてんじゃん。よく通報されなかったな。
「あ、それと。喧嘩は売ってないです」
「おおん? んほぉぉん!?」
「え、大丈夫だよね。そういうプレイしてるんですか? ……このラッパーもどきと?」
「あーもう、だからその妙ちくりんな喋り方はやめろって言ったんだYo!」
「うーんブーメラン。……二人ともVtuberの才能あるんじゃない?」
なんかそこそこいけそうじゃない?
「ほら、コンビ名は【インディーズモヒカン】とかでさ」
「それはもうVtuberじゃなくてお笑い芸人だYo! というかなんなんだYo! お前は!」
「いやこっちのセリフだよ。あんた達は何者なんだよ。いや本当に」
しかし、面倒なのに絡まれたなと思っていると。奥から人影が近づいていた。瑠乃かと思ったが、違った。
あの姿は――
愛ちゃんだ。
「おい。テメェら」
「あん? なん……ひぃぃぃ! だYo!」
「そのキャラをやり切ろうと言う信念は評価するYo……って伝染ったじゃん」
「おいこらぁ!? いきなり何の用だごらぁ!?」
「あん? ……そいつ、アタシの後輩なんだよ。手ェ出すってんならアタシが相手になるけど?」
愛ちゃんが凄み、ラッパーもどきが今にも逃げようとする。しかし、モヒカン世紀末は逃げようとしない。
一触即発の雰囲気が流れたその時。
「なんかあったんかぁ?」
どこか聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ああん? あ、あんたは……」
「ひいいぃぃぃぃぃ」
モヒカン世紀末でさえ怯んだようだった。その相手は――
【Vtop】二大巨頭が一人。芦澤カナタだ。
「お、アタシん事知ってるなら話ぃ早いなぁ」
「か、神殺しのカナちゃん……?」
「遂に神殺しになっちゃったよ。実質レーヴァテインだよ。レーヴァテインの称号あげるよ」
「いらん」
「そうですか……」
「ひぃぃぃ! か、家族だけはご勘弁を」
「お、おいどんは別に怖がってなんか」
「お? やる? いいねぇ。最近骨のある若いのが減ってて困ってたんだよ」
ポキポキと拳を鳴らす芦澤。すると、世紀末はピクリと震え。
「ぐ……お、覚えてやがれ」
「はいはい。覚えててやるからいつでも掛かってきなって」
三流染みた言葉も聞き慣れているのか、芦澤が軽くあしらって。そのラッパーもどき達はいなくなった。
めでたしめでたし。……で終われば良いが。
「で……? アンタは誰。やけに耳馴染みのあるツッコミだったけど」
「……? あ、そっか。分からないよね」
こほん、と咳払いをして喉のチューニングを済ませようとしたが。愛ちゃんに止められた。
「やめろ、それ。頭ん中ムズムズするから」
「あ、はい」
「てか姐さんは分かってくれよ。……自分で見定めたんだろうが」
「……あぁ! そういう事かぁ! カイリ君か」
愛ちゃんの言葉に芦澤は頷いて。最後は小声で言ってきたので頷いた。
「さっき愛ちゃんがめっちゃ褒めてたからなぁ。カイリちゃん可愛い可愛いって」
そんな爆弾発言を残しながら。
そして。同時に、向こうの木の傍に瑠乃が居るのを見つけた。
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