第30話 【Vtop】新人加入【洗礼】一日目! その1
「あー。ゲロ吐きそ」
「大丈夫だよ。私が下で待機してるから」
「わ、私も。……床に落ちたやつの掃除はするから。ま、任せて」
「より酷くなってんな。はいつくばるな。桃華」
「は、はいぃ……ぬ、脱ぎます……全裸でいやらしくお掃除します……」
「脱ぐな! てか結局はいつくばってんじゃねえか!」
スタジオなうである。本番五分前である。なんなんだこの二人は。なんでいつも通りなんだよ。
「大丈夫だよ」
俺の手にそっと、瑠花の手が触れた。暖かく、柔らかい。俺より小さな手だ。
「なるようになるから」
「根拠が乏しすぎる……まあ、なるようにしかならないのは確かなんだが」
不思議と、瑠花が隣に居ると緊張が和らぐのは確かだ。
そして――
視線を反対に向けると、桃華がきょとんとした顔をしていた。
……同様に、桃華が隣に居ると緊張しなくなってきてしまった。
「いや、横にしたら疲れるからなのかもしれないが」
「……? 叩いてくれるって事?」
「違うよ。カイリは桃華ちゃんのご主人様でありたいなって言ってるんだよ」
「ほんとに!?」
「言っとらんわ」
また、大きく息を吐いて。俺は瑠花から手を離し、パン、と頬を叩いた。
「……よし、大丈夫だ」
こちらを心配そうに見てくるスタッフさんへとOKサインを出して。
配信は始まった。
◆◆◆
「さあさあ! 今宵も始まります!」
「あきちゃんあきちゃん。それ前の台本だよ!」
「あ! ……ふゆちゃんありがと! という事でさあさあ! 今日は白日の下始まります!」
『初手gdgdやんけ』
『あきふゆコンビすこ』
『楽しみ』
司会を務めるのは【Vtop】一期生であり双子である【大空秋】と【大空冬】だ。秋は紅葉色の髪を右の方にサイドテール、冬は雪色の髪左にサイドテールをしている。二人とも活発な元気ロリっ子という見た目と性格をしていて、コミュ力が高い。
「今日も始まる洗礼洗礼!」
「だけど今日は一味違う!」
「前例ナシ! カオスあり!」
「我らが一期生のトップを走るみっちゃんカナちゃんが直々にスカウトした逸材だ!」
「まずはまずは? この超大型新人!」
「【混沌の
「みなさんこん瑠花〜! ご紹介にあずかりました、雨崎瑠花です!」
『瑠花ちゃんキタ━(゚∀゚)━!』
『この三人が絡む日が来るとは』
『うおおおおお!』
瑠花が挨拶するとコメント欄の流れが一気に早くなる。続いて、またあきふゆコンビが紹介を続ける。
「続いて続いて〜!」
「こっちもとんでもない子だよ〜!」
「倫理観を捨てろ! 理性も捨てろ!」
「【ドMのMはMonsterのM?】ご主人様の前だと清楚の皮を脱ぎ捨てる! 桜浜桃華!」
「こ、こんももー。桃華です!」
『桃華ちゅわあああああああん!』
『桃華ちゃん自分の配信では清楚なのすこ』
『踏まれてええええええ!』
……これ。『踏まれたい』じゃなくて『踏まれて欲しい』って意味に見えるな。いや。そんな事はどうでもいいな。
「さあさあ!」
「新人最後はこの子!」
「切れ味はレーヴァテイン級!」
「この二人に手綱を付けられるのはこの男しかいない!」
「Vtopでも先輩達を手懐けてくれ!」
「【
「一人だけ二つ名的なの酷くないか!? 頼むからそれはやめてくれ!?」
『草』
『レーヴァテイン君……』
『ジャックナイフも呼べ』
最初だけ軽くリハをやっていたが、この二人。平気でアドリブを入れてくる。これリハの意味ねえな。
あきふゆコンビはてへっと舌を出してウインクをした。
「おっとおっと、これは失礼」
「ではでは改めて」
こほん、と二人が咳払いをした。
「#カイリきゅんドSボイス良かったよ」
「【
「こ、こんカイリ〜」
『あきちゃんボイス買ってて草』
『こんカイリ〜!』
『カイリきゅん!!!!!!』
もうつっこまないぞ。
「という事で! 今日はこの三人が【洗礼】の被害者となります!」
「さあさあ次は加害者の紹介だ!」
「時間もあるので軽く紹介だけよろしく! ふゆちゃん!」
「おまかせあれ! あきちゃん!」
そして、スポットライトを当てられたのは制服を着た女子高生五人組。
「【西高五人衆】のお出ましだああああ!」
「まずは【
「うぇーいっす! 真紀ちゃんだよー!」
『うぇーい!』
『真紀ちゃんと三人……どう絡むんだ』
『あげぽよ〜!』
『ギャル語老人会の会場はこちらですか』
現れたのは金髪褐色ギャル。制服は短く、へそ出しのミニスカートだ。
「おお、乳カーテン」
「……何か言おうか迷ったが、お前イラストレーターだもんな」
別にそうした所に目をつけてもおかしくなかった。
「続いて続いてー?」
「【
「……
「世界観間違えてない???」
今どき珍しいヤンキータイプであった。絶滅危惧種ではないだろうか。
鋭い目付きに×と書かれたマスク。しかしその容姿は整っていて、目を惹かれるものがある。あとバットを手にしている。
「……アンタ。カナちゃん先輩に目付けられたからって良い気になるなよ」
「あ、芦澤の知り合い?」
「カナちゃん先輩を呼び捨てたァどういう了見だァ!?」
「なんかとんでもないの出てきちゃったな」
「はいはい、そこまでー!」
「愛ちゃんもどうどう! ちなみに愛ちゃんは我らが同期のカナちゃんの舎弟らしいでーす! では次!」
さすがVtopの司会。脱線した車両を戻すプロだ。
「じゃんじゃん行くよー!」
「【学園唯一のお嬢様】天然系お嬢様!
「うふふ。よろしくお願いします」
「お次はー?」
「【美術部所属のイラストオタク】Vtop屈指の画力を誇るぞ!
「ふ、ふふふ。あの瑠花チャソがvtopに入るとは。歓迎しますぞ?」
「最後に紹介するのは!」
「【100メートル走12.03秒】Vtop一の速さを誇るぞ!
「よろしくね! 後輩ちゃん達は大歓迎だよ!」
一気に説明が来た。軽く整理しておかないと頭がぐちゃぐちゃになりそうだな。
篠崎はあらあらうふふ系のお嬢様だ。空色の髪を背中まで伸ばして制服もきっちり着ている。
内園はペレー帽を被っていて丸メガネを掛けている。少し制服がインクで汚れているな。
そして、嵐山。彼女はThe・陸上部のような少し浅黒い肌に活発そうな見た目をしている。凄く健康的だ。
という事で、これらが俺達の一つ上の先輩。【西高五人衆】である。
とりあえず一つ言わせて貰おう。
「もうちょいさ、統一しない? 異色の組み合わせすぎない?」
「あはは! ブーメランだよ」
「ぐぅ」
「カイリってばすぐにぐぅの音出しちゃうんだから」
「そんな露出狂みたいな感覚で……」
「露出狂もそんなポンポン出さねえだろ」
「出すにしてもポロンポロンじゃない?」
「二度続けて言うな。ピアノの音か」
「ちょっと今のは全国のピアニストに謝った方がいいかな」
「確かにそうなんだが。すっげえ釈然としねえ……」
『ああ……事務所に所属してもいつも通りなんやな』
『公式放送で露出狂の話してて草』
『露出狂だが週一でポロンしてるぞ』
『つ✄ 』
てかそうじゃん。これ公式チャンネルじゃん。しかも相手は女子グループだぞ。下手したら訴えられるぞ。
「あらぁ? ポロンポロン? 露出狂? さんって何を出すんですかあ? 愛ちゃん?」
「あ、アタシに聞くな! ……そ、そんなの、ち、ちん……ああもう! 死ね! カイリ!」
「なんで俺!? いや確かに俺が悪いな!?」
「もー。愛ちゃん口悪いよ? 新人ちゃん怯えちゃうからさ」
「愛ちゃん言うな!」
意外と……というとめちゃくちゃ失礼に見えそうだが。
【西高五人衆】は仲良し五人組である。スタジオに集まった際も楽しそうに五人で話していたのが記憶に強く残っている。
「さあさあおしゃべりはこの辺で!」
「視聴者のみなさんも【洗礼】の内容が気になってるみたいですよ!」
『気になる』
『何やるんだろ。やっぱ性癖破壊ゲームかな』
『破壊されるのカイリきゅんだけ定期』
『そんな定期はない定期』
……ああ、そうだ。これからだ。本番は。
というかガチで洗礼の内容聞かされてないんだが。怖ぇぞ。
「ここで一旦ルール確認!」
「新人ちゃんは先輩からの【洗礼】を受けなければなりません!」
「【洗礼】の内容は先輩方によって違います!元から罰ゲーム的な奴もあったり、先輩達とバトルして負けたら罰ゲーム的なのもあるかも!」
「洗礼は全部ちょっと過激かも!」
「たーだーし?」
「先輩からの【洗礼】は拒否する事も可能!」
「一つは〜スキップ!」
「先輩の【洗礼】とか罰ゲームが嫌だったら出来るよ! その時は罰ゲームは先輩達にしてもらいます!」
「もう一つが〜キャンセル!」
「こんな企画嫌だ! もう無理! ってなったら言ってね! ハラスメントはNG! 代わりに先輩方に逆洗礼を受けてもらう事になります!」
「あくまでエンタメ! 無理はナシでね!」
「先輩達にキャンセルを突きつけるのもまた一興だからね!」
かなり良いテンポであきふゆコンビが説明をする。色々と企画をやる時に二人は司会をよくやっているそうだが、その理由がなんとなく分かった。
「さてさて説明はこれくらいにして?」
「早速洗礼内容に入りたいと思いまーす! ドラムよーい!」
ドコドコドコドコとドラムロールが鳴り響き、画面が暗くなる。
ドラムロールはかなり長い時間鳴り響き。
「でけ」「でん!」
画面が切り替わった。でかでかと文字が書かれている。
「【洗礼:バトル編】」
「【メイクで変われ! ギャップ対決!】だああああああああああ!」
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