第31話 【Vtop】新人加入【洗礼】一日目! その2
「今見た方向けにもっかい言うね!【西高五人衆】は【混沌の申し子】に【メイクで変われ! ギャップ対決!】を洗礼として選んだよ!」
「こっちのグループ名勝手に決まったのかよ」
「という事でルール説明!」
「無視かい」
「ルールは簡単! お互い誰か一人メンバーを選んでメイクをするよ! 服装を変えるのもあり! それで、どっちがよりギャップのある姿になったのかで勝負は決まる!」
「でもでもー? 審査員はー?」
「もちろん視聴者!」
「あれれ? でも視聴者さんにはメイクが見えないんじゃない?」
ふゆの言葉にあきがちっちっと人差し指を立てて振った。
「甘い。甘いよ。みっちゃんの名前より甘いよ、ふゆちゃん」
「それ本人も言ってたけど流行ってるの? ねえ?」
「な、なにー! 何をするって言うんだあきちゃん!」
「無視ですか。はい、分かりました。ごめんなさい。もう何も言いません」
「ここでお互いのチームメンバーを振り返ってみましょう。……勘のいい方は察したかもしれませんね」
あきちゃんがビシっ! と指をさす。両手で指をさしているので少し面白い事になっている。
「瑠花ちゃん&千紗ちゃんが居るじゃあーりませんか!」
「な、なんだってー」
「もうちょい感情込めようよ。……ああもう。言っちゃったしさ」
「という事で! メイク後は自チームでメイクした子をそれぞれ描いて貰います!」
「制限時間はメイク一時間! イラストに起こすのが一時間!」
「メイクと全然違う絵を描くのはダメだからね! そこは私達がちゃんと見るのでご安心を!」
「という事でメイク道具&衣装かもん!」
あきふゆコンビが指を鳴らすのと同時に、スタッフさんが鏡とメイク道具を一式、そしてカツラや色々な衣装を持ってきた。
「ルール確認は良いかな? 質問とかある?」
「はーい瑠花ちゃん!」
「質問……というか提案なんだけど。イラストに起こすのって配信に載せない? お絵描き配信みたいな感じで」
「お、いいねいいね」
「二人がどう描くのか気になってる視聴者さんも居そうだよね……はいスタッフさんOK出ました!」
「メイクが終わるまでにはそっちの準備も整えるはずだよ!」
「ありがとう」
他に質問がないかと二人がきょろきょろとこちらを見てくる。手を挙げた。
「はーいカイリきゅん!」
「……俺。戦力外になりそうなんだが」
「なーにを言ってるんだい!」
「メイクが出来ない? ならしてもらえば良い!」
「そう言うと思ったよ!」
助けてくれという思いを込めて瑠花と桃華を見る。
「え? 清楚と変態っていう両極端な私達をどうするつもりだったの?」
「なんも言い返せねえよ! 黙れば清楚、喋ればド変態の二人に死角がねえよ!」
この二人でギャップとか無理ゲーである。元々がギャップの塊なんだぞ。いや、出来なくはないだろうが。
「まあそういう事で! じゃあ他に質問はないかな?」
今度こそ誰も手を挙げない。それを見て満足そうに二人は頷いた。
「うんうん! じゃあさっそくメイクをされるメンバー発表!」
「【西高五人衆】からは誰が出るー?」
「もちろん愛ちゃんで!」
「はぁ!? なんでアタシが!?」
「そりゃ……ねえ?」
「うふふ。可愛らしい愛ちゃんが見られるの、楽しみですわ」
「ふ、ふひひ。おまかせを。めちゃくちゃ可愛く描いてあげますから」
という事で向こうはヤンキー筆頭の月雪愛。
……本当に大丈夫だろうか。
「そしてそしてー?」
「【混沌の申し子】からはどのカイリきゅんが出るんだー?」
「今日はカイリちゃんにします」
「キターーー!」
「女装! 女装!」
『おとこの娘カイリきゅん!!!』
『西高天才』
『いち早く女装カイリきゅんが見られるとは』
あぁ……もうだめだ。これ絶対クラスの奴らとか見てるだろ。
「という事でこれからメイクパートに入ります!」
「準備はいいかなー?」
「はーい」
「おっけー」
「ありがとうございまーす!」
「それでは、」
「「【洗礼】開始!」」
◆◆◆
「という事でいつも通り鏡の前座ってね」
「……ぐぬ」
『いつも通り???』
『え??』
瑠花の言葉にコメントからは疑問の声が上がる。それから目を逸らすと、桃華と目が合った。
「……もしかしてなんだけど。瑠花ちゃんってカイリ君のメイクとかした事あったりするの?」
「うん。月一くらいのペースで女装させて一緒にお出かけとか……したいと思ってるんだけど、カイリが抵抗するからお部屋デートしてる」
「まさかここで活きてくるとはな」
もうこうなっては仕方ないと腹を括る。
瑠花がニコリと笑い、メイク道具を手にした。
「それじゃあ、桃華ちゃんはどんなカイリ……カイリちゃんに虐められたい?」
「メスガキカイリ君にざこ煽りされながらへこへこして情けなくイキ「そこまでにしろ」」
ものには限度がある。当然のようにラインを踏み抜こうとする桃華を止め、俺は瑠花を見た。
「じゃあメスガキスタイルね」
「メスガキスタイルがあって当然のように言うんじゃないよ。……思ったんだが、収益化枠の罰ゲームの中で決まらなかったか? 俺と瑠花の性別交換ボイス販売」
先にお披露目して良いのかと思い聞くと、瑠花はうんと頷いた。
「そのつもり。でも、どっちかというとアレはTSで今からやるのはおとこの娘verだから」
「……なんとなく言いたい事は分かるが」
「それに宣伝にもなるからね。丁度いいんだよ」
「それなら良いか」
『カイリきゅんもう女の子になるの拒否しなくて草』
『誰だって美少女になりたいに決まってるだろ!』
『……でもなぁ。俺らの場合は素材がなぁ』
そんなコメントを流し見していると、桃華が不思議そうな顔を俺に向けていた。
「なんだ?」
「……自信ありなのかなって。ちょっと意外だったから」
「ああ……まあ、俺も最初は嫌だったんだが」
「カイリは元がいいからね。線も細いし、結構弄りがいあるんだよ。あ、スタッフさん。私のカバン取ってきて貰えませんか? そっちの方がやりやすいので」
そう言って瑠花はその辺にいるスタッフを呼び、カバンを持ってきてもらうよう言ったのだった。
なんとなく、嫌な予感はこの時からしていた。
◆◆◆
「ちょ、やめ! 離せ!」
「逃げない! 真緒ちゃん!」
「いえす! まむ!」
真緒ちゃんを呼ぶと、すぐに理解したのか愛ちゃんを捕まえて椅子に縛りつける。
余談になるけど、私達……というか【Vtop】の面々はライバーとしての自分とオフの自分との差がほとんどない。元々イラストも現実の方をベースにしているので、髪色とか体型が少しくらいしか変化はない。雰囲気は似てるし、みんな可愛いから違和感もない。
実際愛ちゃんもバリバリヤンキーだ。同じ×のマークが入ったマスクをしているし、後ろの壁にバットを立て掛けている。
実は、新人さん達がパッと見て分かりやすいよう同じ格好をしようと私が言ったからである。実は愛ちゃんも優しい子なのだ。
私は愛ちゃんを見て笑った。妄想が捗る。
「ふっふっふ。どんなメイクにしようかな? 麻子ちゃんは何かある?」
「魔法少女一択ですな! ふりふりの可愛らしいドレスとか似合うと思いますぞ!」
「てめ、殺すぞ麻子ォ!」
「もう、お口が汚いですよ? ……あ! 私と同じ格好はどうでしょう?」
「んー。私はあんまり思い浮かばないけど、二人のアイデアすっごく良くない?」
「ふむふむ……魔法少女とお嬢様。どっちもアリだね!」
「良くねえ! アリじゃねぇ! クソ、解け!」
椅子に縛り付けられている愛ちゃんは置いて、一度考える。
しかし、すぐに思考を放棄した。
「こういう時はコメント欄!」
判断は視聴者さんが行うのだ。それなら、私達ではなく視聴者さんに聞いた方が早い。
『魔法少女!』
『お嬢様!』
『裸エプロン!』
『ヤンキー系魔法少女見たい』
『お嬢様の格好で口悪いの聞きたい』
『「ぶっ殺しますわよ」聞きたい』
お嬢様が今のところ優勢かな……? 変なコメントは無視するとして。
その時、一つの妙案を閃いた。
「……! みんな! こういうのはどうかな!」
そして、三人に相談すると。とても良い反応が返ってきた。
「良きですぞ!」
「良いですね〜」
「良いんじゃないかな? うん、似合うと思う」
その言葉に満足して頷き、愛ちゃんを一目見た後に視聴者に向けて。
「ふふふ。愛ちゃんをもっと可愛くする事になったから。楽しみにしててね?」
『悪い笑みしてて草』
『愛ちゃん……ちょっと可哀想。でも正直に言うとめちゃくちゃ見たい』
『分かる』
そのコメントを見て、思わずニヤニヤしてしまう。
視線を戻すと、涙目でにらみつけてくる。その耳に口を寄せた。
「愛ちゃん、可愛い格好するの好きだもんね?」
「な……!」
「妹ちゃんからこの前連絡あったよ? 愛ちゃんが部屋でフリフリのお洋服着てたって」
妹ちゃんとはひょんな事から仲良くなった。愛ちゃんは家でも愛ちゃんらしいけど、この前見てしまったとの事だ。
「さ! そういう事だからやろっか!」
頬を引き攣らせる愛ちゃんを前に、私はメイク道具を持ったのだった。
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