第29話 【洗礼】前日 ドM達もいるよ ! ゲリラ配信もあるよ! その二

「なにこれ美味すぎる」

「本当だね。カイリの舌もこんな感じで美味しいのかな」

「食べないでください!!!」


 ちょっとした会食みたいなものが始まったが、焼肉はめちゃくちゃに美味しかった。今まで食べたものとは比べ物にならないほど。


「焼き跡……焼印」

「焼かれてるお肉を見ながら不穏な事言わないで桃華さん」

「ほんとここは美味しいなぁ。絡んできた坊主がボンボンだった時を思い出すわぁ」

「サラッと炎上しそうな事言わないで芦澤さん」

「いや、相手から勝手に財布渡して逃げていっただけだし。一応警察にも届けといたからなぁ? 財布には現金しかなくて、その上本人が出てこなかったから貰っただけだし」

「あれ? もしかしてこの変態二人より常識的?」


 元ヤンに倫理観で負ける変態。なんなんだこいつらは。


「ねーえー。だめなの? コーラ飲んじゃ。飲ませてよおぉ」

「まだダメ! アンタ飲んだら何も話せなくなるでしょ!」


 コーラを取ろうとする天井を芦澤が止める。正直こちらもこちらで意味がわからない。


「……コーラで何かあるのか?」

「ん? ああ。こいつコーラ飲んだら酔うんや」

「……酔う? 気持ち悪くなるとか?」

「いや、お酒とかの酔うだね」

「え?」

「まあ正確には雰囲気に酔ってるだけだけどな? こいつ、ちっちゃい頃に親戚のおっさんにコーラで人は酔うって教えられてからずっっっっっとそうなんだよ」

「やっぱVtopにはおかしい人しかいない!」


 なんなんだよ。めちゃくちゃ催眠術にかかるタイプの人間かよ。


「えっちな漫画でありそうだね」

「だからいつもカナちゃんが付いてくれるんだよね。変な不良に絡まれそうになってから」

「まぁ……アイツらが来たのは私のせいだし。守るんは当然なんだけどな」


 なるほど。なんとなく芦澤が保護者みたいな役割を担っているように見えたのはそういう事か。


「あ、はい。カイリ。これ焼けてるよ」

「ん? ああ、ありがとう」

「か、カイリ君……私の体も良い感じに焼けたら食べてくれるかしら?」

「猟奇的ドMは帰ってください」

「……配信しとけば良かったかな」


 ボソッと呟く天井が一番恐ろしい。即営業妨害だと炎上させられそう。


「あ、ちなみにここ。なんか運営が上手い事やったらしくてVtop関係者は配信とか出来るらしいからなぁ。凄いよなぁほんと」

「企業って凄いな……そういえば時々焼肉配信がトレンド入りしてたか」


 なるほど。そういう事だったのか。


 そして、話は配信の事に繋がってきた。


「配信の準備とかって個人でやってたんだよな? 凄いなぁ。私はマネージャーに一週間ぐらい付きっきりで教えて貰わないと出来んかったのになぁ」

「俺は何もやってませんがね。瑠花が全部やってくれてます」

「私は配信やるイラストレーターの先輩に習ったからね。私がやる方が手早く出来るし。桃華ちゃんは?」

「私は独学ね。全部一人でやったわ」

「まじ?」


 桃華の言葉に天井が驚いた声を上げた。


「凄いね桃華ちゃん。私なんて最初は全然分かんなかったのに」

「機械に関してはそこそこ強かったからね。……前までは歌ってみたのMIXなんかで資金稼ぎしてたし」

「サラッと凄い事言ってるな……」


 歌ってみたのMIXまで出来るのか。意外と……というとアレだが。ハイスペックだな。


「なんでそんなハイスペックなのに変態なんだよ」

「ハイスペックだからなんだろうね。私みたいに」

「すげえ説得力」


 やはり変態と天才は重なるのか。ああもうダメだ。俺まで重なる(意味深)とか考えてしまった。


「……隙あり!」

「あ! まだダメだって!」


 その時、天井がコーラを奪い取った。芦澤が何かを言う前にコーラを一気飲みした。


 ……凄いな。コーラ一気飲みって。


「ぷはーっ!」

「あれ? 早くない? もう顔真っ赤なんだけど?」

「はぁ……もうこうなったら覚悟してくれ、三人とも。こいつキャバクラ三軒目のおっさんくらいだる絡みしてくるから」

「帰ろうかな」

「という事でぇ、配信はじめまーっす!」

「何してんの!?」


 いきなり天井がスマホを取り出してそう言った。


「あー。今はスマホ一個でも配信出来るからなぁ」

「すっごい手馴れてる」

「うぃー! みんな元気しってるー? 今皆のカイリきゅんが私の対面にいまーっす!」

「NTRビデオレターみたいな始まり方!」


『え?』

『ゲリラ配信?』

『てか昼から飲んでんの?』


 ああもう。いきなりすぎる。なんなんだこれは。


「あー。一応説明しとくと、明日カイリ君達が本番だから喝を入れに来たみたいな?」

「そー! という事でカイリ君、ハグしたげる!」

「という事でって言えば何言っても良いって思ってない? 助けて芦澤さん」

「さん付けやめぇ。……あー。でも止めたら横んなってじたばたするからなぁ」

「お菓子を買って貰えない子供か」


 助けてと瑠花を見ると、こくりと頷かれた。


「先に抱きつけば蜜ちゃんが入り込む隙がないからね」

「そうはならんやろ」


 ぎゅっと横から瑠花が抱きついてくる。やわっこい。じゃなくて。


「さあさあ桃華ちゃんも」

「え……?」

「いきなり桃華を巻き込むな。困惑してるだろ」

「わ、私……どっちかというと踏まれたいんだけど」

「困惑の仕方が違うだろ」

「え、えいっ!」

「はうぅん!?」


 反対側から桃華が抱きついてきた。でかい(驚愕。でかい(感嘆)


 かと思えば、天井が近づいてきた。


「ふっふっふっ。甘い。甘いよ瑠花ちゃん桃華ちゃんカイリ君。私の名前より甘いよ」

「なんか腹立つな」

「分かる。一回シバいとく?」

「やーだ! 助けてカイリくーん」

「やめて! 背中に抱きつかないで! 炎上する!」


『羨ましいぞ! みっちゃん!』

『桃華ちゃんそこ代われ!』

『炎瑠花炎』


「逆だ逆」


 なんなんだこの視聴者は。いや今更なんだが。


「てか絵面やべえって。異世界ものラノベのかませ悪徳領主みたいな事になってるって」

「あ、後でイラストに起こしたいからカナタちゃん写真撮って」

「別に良いけど。はい、チーズ」

「チーズ!」


 何やってるんだこの子達。


「というかガチで炎上しない……? みつ×カナガチ勢から殺されない? 俺」

「お、分かってるねカイリ。やっぱりカナ×みつじゃなくてみつ×カナだよね。誘い受けもあり」

「そんなことは言っとらん」

「まーまー。気にしない気にしない」

「みっちゃんカルビ頼んどくからなぁ」

「一番気にするべき二人がこんななのかよ!」

「あ、いい感じになってる。はい、カイリ。あーん」


 なんなんだもう! あ、お肉美味しい。


 そして、どうにか三人を引き剥がしてまた焼肉を食べ進める。んまい。


「いやー、明日はどうなるんだろうね。新人ちゃんの初洗礼」

「……ああ、そうか。一番の新人という事は洗礼する側も初めてという事か」

「ま、そうね。女の子五人組だしなぁ。想像つかんなぁ」


 なんか余計明日が怖くなってきたな……


「カイリなら大丈夫だよ。私達で慣れてるんだから、ツッコミで過労死したりしないよ」

「一番危惧したくない所を突っ込んできたな」


 大丈夫。さすがに五人もいればツッコミ役の十人や二十人いるだろう。うん。


「まあその辺は明日のお楽しみって訳で。コーラお代わり頼もっと」

「あぁ……今日もみっちゃんおぶって帰らないといけないのかぁ」


 ……なんか向こうも向こうで大変そうだ。


 そして、数十分後。天井は寝た。


「ちゃんと酔って寝た……」

「みっちゃんはお母さんが飲む人だからなぁ。てか配信どうする? ずっと流しっぱなしだけど」


『帰宅配信頼む』

『もうそのまま流してて』


 勝手に始まったが、勝手に終わらせるのはどうなんだろうか。


「ど、どうする? 私踏まれよっか?」

「お前が踏まれたいだけだろド変態」

「ありがとうございます!」


『なんかもう桃華ちゃん草』

『カイリきゅんやっぱりご主人様の資格ありそうやね』


 要らねえよそんな資格。


「ま、あんまダラダラやってても意味ないしそろそろ終わろっか。あ、三人もまだ頼みたいのあったら頼んでええからね」

「私はもうお腹いっぱいかな」

「私も。いっぱい食べちゃった」

「俺もかなり食べたからな……」


 食べる手がかなりゆっくりになりつつあった。そんな俺達を見て芦澤はうんうんと頷き。


「じゃあ最後にデザート頼んで終わろか」


 そう言った。


 デザートと聞いた瞬間、瑠花と桃華の目が輝く。やはりデザートは別腹なのだろう。



 そして、それから何事もなく……と言うにはまた濃い時間を過ごしたが。

 配信を終え、お開きとしたのだった。


 ついに明日が……【洗礼】本番だ。

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